14:00 〜 14:15
[MAG41-02] 福島原発事故により発生した放射性微粒子の環境動態:加熱および溶解特性について
★招待講演
キーワード:微粒子、珪酸塩ガラス、セシウム、加熱、溶解、福島原発事故
2011年3月に発生した福島第一原子力発電所事故により大量の放射性セシウムが放出され、東日本一帯が汚染された。放射性セシウムの多くはガス状で放出され、雨水とともに降下し土壌中の粘土鉱物等に吸着されたと考えられている。一方、一部の放射性セシウムは珪酸塩ガラスを主成分とする微粒子(radiocesium-bearing microparticle,CsMP)に含まれて飛散したことが明らかとなった。CsMPの多くは直径数ミクロンの球体であり、珪酸塩ガラスにCsとともにCl,K,Fe,Zn,Mn,Rb,Sn等が固溶している。放射性セシウムを吸着した土壌粒子に比べてCsMPは一粒子あたりの放射能が非常に高く、粒子近傍への放射線の影響が懸念されるが、CsMPの環境中での動態はほとんどわかっておらず、早急に解明する必要がある。本発表では、我々がこのCsMPの加熱、および溶解特性について調べた最近の結果を報告する。
CsMPを含む可能性がある高放射線量の汚泥や除染廃棄物等は減容化のために焼却処理が検討されている。そこで本研究ではCsMPを単離して大気中で加熱し、その挙動を調べた。加熱による放射能の変化を調べた結果、CsMPの放射能は600 °Cから徐々に減少し、1000 °Cまで加熱するとほぼ消失することがわかった。走査電子顕微鏡(SEM)でその形態と組成の変化を調べると、加熱後も形態には変化がないが、CsやKといったアルカリ元素、およびClはCsMPから脱離していた。一方、透過電子顕微鏡(TEM)で内部構造を調べるとFeやZn、SnはCsMP内部で酸化物の微結晶を形成していた。さらに福島で採取したマサ土とともにCsMPを加熱すると、脱離した放射性セシウムはマサ土中の鉱物に吸着されることがわかった。以上の加熱実験の結果から、十分に高温で焼却処理された廃棄物中にはCsMPのように放射能の高い粒子は残らないことが示唆された。
一方、これまでCsMPは“不溶性”粒子と報告されてきたが、その主成分は珪酸塩ガラスであるため、湿潤な環境では徐々に溶解が進むはずである。そこで我々は環境中から採取したCsMPを用いて溶解実験を行い、CsMPの溶解挙動や環境中での寿命を調べた。溶解実験ではCsMPを様々な温度条件で純水,人工海水,塩酸の3種類の溶液に浸潤し、放射能の減衰量からCsMPの溶解速度を見積もった。さらにアレニウスプロットを作成することで、各溶液での溶解の活性化エネルギーを算出した。こうして求められた活性化エネルギーは純水(ただし大気中の二酸化炭素の吸収によりpHは約5.2)で65 kJ/mol、海水で88 kJ/molであった。これより福島のおおよその平均気温および平均海水温である13 °CでのCsMPの溶解速度を推定した結果、海水中では純水中よりも1桁程度速く溶解することがわかった。海水中では10年程度で完全に溶解することが予想され、事故直後に海に落下したCsMPの多くは、現在では溶解され消失していることが示唆された。溶解実験前後のCsMPをSEMにより分析すると、純水ではガラスが溶解したことによりそのサイズが小さくなっており、形態は球形から複雑に変化していた。一方、海水中で溶解されたCsMPの場合、FeとMgに富む板状の二次鉱物が析出して殻を形成しており、その内部に溶け残ったガラスが存在していた。さらにpHを3に調整した塩酸にCsMPを浸潤した場合、初期は大きく放射能が減少したが、時間とともにその変化量は小さくなった。塩酸溶解後のCsMPの表面にはほぼSiO2のみで構成された層が形成されており、これが不動態層となって溶解を妨げたと考えられる。
CsMPを含む可能性がある高放射線量の汚泥や除染廃棄物等は減容化のために焼却処理が検討されている。そこで本研究ではCsMPを単離して大気中で加熱し、その挙動を調べた。加熱による放射能の変化を調べた結果、CsMPの放射能は600 °Cから徐々に減少し、1000 °Cまで加熱するとほぼ消失することがわかった。走査電子顕微鏡(SEM)でその形態と組成の変化を調べると、加熱後も形態には変化がないが、CsやKといったアルカリ元素、およびClはCsMPから脱離していた。一方、透過電子顕微鏡(TEM)で内部構造を調べるとFeやZn、SnはCsMP内部で酸化物の微結晶を形成していた。さらに福島で採取したマサ土とともにCsMPを加熱すると、脱離した放射性セシウムはマサ土中の鉱物に吸着されることがわかった。以上の加熱実験の結果から、十分に高温で焼却処理された廃棄物中にはCsMPのように放射能の高い粒子は残らないことが示唆された。
一方、これまでCsMPは“不溶性”粒子と報告されてきたが、その主成分は珪酸塩ガラスであるため、湿潤な環境では徐々に溶解が進むはずである。そこで我々は環境中から採取したCsMPを用いて溶解実験を行い、CsMPの溶解挙動や環境中での寿命を調べた。溶解実験ではCsMPを様々な温度条件で純水,人工海水,塩酸の3種類の溶液に浸潤し、放射能の減衰量からCsMPの溶解速度を見積もった。さらにアレニウスプロットを作成することで、各溶液での溶解の活性化エネルギーを算出した。こうして求められた活性化エネルギーは純水(ただし大気中の二酸化炭素の吸収によりpHは約5.2)で65 kJ/mol、海水で88 kJ/molであった。これより福島のおおよその平均気温および平均海水温である13 °CでのCsMPの溶解速度を推定した結果、海水中では純水中よりも1桁程度速く溶解することがわかった。海水中では10年程度で完全に溶解することが予想され、事故直後に海に落下したCsMPの多くは、現在では溶解され消失していることが示唆された。溶解実験前後のCsMPをSEMにより分析すると、純水ではガラスが溶解したことによりそのサイズが小さくなっており、形態は球形から複雑に変化していた。一方、海水中で溶解されたCsMPの場合、FeとMgに富む板状の二次鉱物が析出して殻を形成しており、その内部に溶け残ったガラスが存在していた。さらにpHを3に調整した塩酸にCsMPを浸潤した場合、初期は大きく放射能が減少したが、時間とともにその変化量は小さくなった。塩酸溶解後のCsMPの表面にはほぼSiO2のみで構成された層が形成されており、これが不動態層となって溶解を妨げたと考えられる。