10:45 〜 11:15
[MGI33-01] 観測データと物理モデルに基づく火山噴火推移予測の可能性
★招待講演
キーワード:火山噴火、 データ同化、火道流モデル、降灰モデル
火山噴火においては,その開始を予知することだけではなく,進行中の現象を把握し,推移を予測することが望まれる.火山噴火の推移予測は,得られた観測データに基づいて予測制度を逐次向上させることを目標とする点で,データ同化の考え方と合致する.データ同化においては,物理過程に関する順問題モデルによって「興味ある量」の時間発展が記述され,逆問題モデルにおいて,「観測データ」から「興味ある量」と「順問題のモデルパラメータ」の事後確率分布がベイズ推定に基づいて計算される.すなわち,順問題モデルと逆問題モデルの組み合わせが新たな最適化問題を構成する.発表者は,これまで主に火山噴火現象の物理過程に関する順問題モデルの開発を進めてきたが,近年,逆問題の数理的性質を併せて調べることにより,それらの順問題モデルに対するデータ同化手法の適用可能性について検討している.本発表では,「噴出率の観測データからマグマ供給・噴出系モデルのパラメータを推定する逆問題」および「降下火砕物粒子の分布から噴出率を推定する逆問題」について問題点を整理しつつ,観測と物理モデルに基づく火山噴火推移予測の可能性を展望する.
マグマ供給・噴出系モデルの逆問題と火山噴火推移予測
一般に,火山噴火の推移の性質は,マグマ噴出率(Q)とマグマ溜りの圧力(P)が時間の経過とともにどのように推移するかによって特徴付けることができる.ここでは,弾性体地殻中のマグマ溜りと火道よりなる「マグマ供給・噴出系モデル」に基づいて,QとPの時間発展に対する力学系モデルを定式化し,QとPの観測データから力学系モデルパラメータを推定する逆問題を考える.
火道流の物理モデルによると, マグマ供給・噴出系モデルにおけるQとPの時間発展は,火道上昇途中の脱ガス過程による密度変化や流動様式の変化(マグマの破砕)に強く依存する.また,マグマ溜りの物理モデルによると,QとPは,マグマ溜りの実効圧縮率や体積に依存し,さらに,この実効圧縮率はマグマの揮発成分量や圧力に依存する.上記の力学系モデルでは,これらの地質学的・岩石学的要因がモデルパラメータとして考慮される.この問題の特徴は,順問題モデルの複雑なパラメータ依存性のため,力学系モデルが著しい非線形性を持ち,それがモデルパラメータの逆問題推定に制約を与えている点にある.本研究では,火道流の解析解(Koyaguchi, 2005; Kozono and Koyaguchi, 2009)を用いて,逆問題推定の対象となるモデルパラメータ間のトレードオフ関係を可能な限り明示的に表した.その結果,逆解析によって推定可能なモデルパラメータの組み合わせが,噴火様式が爆発的か非爆発的かによって変化することが示された.
爆発的噴火における噴出率の推定
マグマ噴出率は火山噴火を特徴付ける最も基本的な量である.例えば,上記のマグマ供給・噴出系モデルに基づく噴火推移予測においては,マグマ噴出率(Q)を観測データとして与える必要がある.しかしながら,実際の噴火において直接観測される物理量から噴出率を推定することは必ずしも容易ではない.ここでは,定常的に継続する爆発的噴火に絞って,観測される降下火砕物の分布から噴出率を推定する問題について考える.
爆発的噴火において火口から噴出したマグマの破片(火砕物)は,噴煙とともに上昇した後,風で運ばれつつ大気中で拡散し,地表に堆積する.この過程の順問題モデルは,噴煙ダイナミクスに基づく火口直上の火砕物供給モデルと大気中の火砕物の移流拡散モデルにより構成される.特異値解析によると,移流拡散モデルに関する逆問題は数理的に「不適切」となる傾向をもち,その結果,降灰観測データから推定可能な供給源のパラメータの数が著しく限られる.一方,噴煙ダイナミクスモデルによると,火口におけるマグマ噴出率と火口直上の噴煙からの火砕物供給率分布の性質の間には相関があることが示される.本発表では,噴煙ダイナミクスに基づく噴出率と火砕物供給率の関係に関する知見を先験的情報として用いることによって,移流拡散モデルの逆問題で得られた少数の供給源のパラメータから噴出率を高精度で推定する方法ついて考察する.
マグマ供給・噴出系モデルの逆問題と火山噴火推移予測
一般に,火山噴火の推移の性質は,マグマ噴出率(Q)とマグマ溜りの圧力(P)が時間の経過とともにどのように推移するかによって特徴付けることができる.ここでは,弾性体地殻中のマグマ溜りと火道よりなる「マグマ供給・噴出系モデル」に基づいて,QとPの時間発展に対する力学系モデルを定式化し,QとPの観測データから力学系モデルパラメータを推定する逆問題を考える.
火道流の物理モデルによると, マグマ供給・噴出系モデルにおけるQとPの時間発展は,火道上昇途中の脱ガス過程による密度変化や流動様式の変化(マグマの破砕)に強く依存する.また,マグマ溜りの物理モデルによると,QとPは,マグマ溜りの実効圧縮率や体積に依存し,さらに,この実効圧縮率はマグマの揮発成分量や圧力に依存する.上記の力学系モデルでは,これらの地質学的・岩石学的要因がモデルパラメータとして考慮される.この問題の特徴は,順問題モデルの複雑なパラメータ依存性のため,力学系モデルが著しい非線形性を持ち,それがモデルパラメータの逆問題推定に制約を与えている点にある.本研究では,火道流の解析解(Koyaguchi, 2005; Kozono and Koyaguchi, 2009)を用いて,逆問題推定の対象となるモデルパラメータ間のトレードオフ関係を可能な限り明示的に表した.その結果,逆解析によって推定可能なモデルパラメータの組み合わせが,噴火様式が爆発的か非爆発的かによって変化することが示された.
爆発的噴火における噴出率の推定
マグマ噴出率は火山噴火を特徴付ける最も基本的な量である.例えば,上記のマグマ供給・噴出系モデルに基づく噴火推移予測においては,マグマ噴出率(Q)を観測データとして与える必要がある.しかしながら,実際の噴火において直接観測される物理量から噴出率を推定することは必ずしも容易ではない.ここでは,定常的に継続する爆発的噴火に絞って,観測される降下火砕物の分布から噴出率を推定する問題について考える.
爆発的噴火において火口から噴出したマグマの破片(火砕物)は,噴煙とともに上昇した後,風で運ばれつつ大気中で拡散し,地表に堆積する.この過程の順問題モデルは,噴煙ダイナミクスに基づく火口直上の火砕物供給モデルと大気中の火砕物の移流拡散モデルにより構成される.特異値解析によると,移流拡散モデルに関する逆問題は数理的に「不適切」となる傾向をもち,その結果,降灰観測データから推定可能な供給源のパラメータの数が著しく限られる.一方,噴煙ダイナミクスモデルによると,火口におけるマグマ噴出率と火口直上の噴煙からの火砕物供給率分布の性質の間には相関があることが示される.本発表では,噴煙ダイナミクスに基づく噴出率と火砕物供給率の関係に関する知見を先験的情報として用いることによって,移流拡散モデルの逆問題で得られた少数の供給源のパラメータから噴出率を高精度で推定する方法ついて考察する.