日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-GI 地球科学一般・情報地球科学

[M-GI37] 情報地球惑星科学と大量データ処理

2019年5月26日(日) 15:30 〜 17:00 301B (3F)

コンビーナ:村田 健史(情報通信研究機構)、本田 理恵(高知大学自然科学系理工学部門)、野々垣 進(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質情報研究部門 情報地質研究グループ)、堀之内 武(北海道大学地球環境科学研究院)、座長:本田 理恵村田 健史(情報通信研究機構)

15:30 〜 15:45

[MGI37-06] 協調ワークスペースドライバChOWDERによるタイルドディスプレイ構築と地球惑星科学分野での応用事例

*川鍋 友宏1小野 謙二2樋口 篤志3豊嶋 紘一3山本 和憲4村永 和哉5村田 健史4 (1.国立研究開発法人理化学研究所、2.国立大学法人九州大学、3.国立大学法人千葉大学、4.国立研究開発法人情報通信研究機構、5.株式会社セック)

キーワード:タイルドディスプレイ、可視化、ウェブブラウザ、共同作業

1. はじめに 
タイルドディスプレイとは、複数の物理ディスプレイを並べて大きなピクセル空間を提供する仕組みである。地球惑星科学のような大規模かつ高解像度な可視化を必要とするデータを扱う研究分野において、今後タイルドディスプレイの需要は増えると予想される。本稿では、タイルドディスプレイをソフトウェア的に実現するシステム、「ChOWDER」の概要についてまず説明し、続いて地球惑星科学分野でのChOWDER応用事例を紹介する。最後にChOWDERソフトウェアの入手方法について述べる。

2. ChOWDER
理化学研究所と九州大学が共同で研究開発を進めるオープンソースソフトウェア「ChOWDER」は、Windows, Linux, macOSに対応したタイルドディスプレイドライバであり、他の主要なタイルドディスプレイドライバには無い、「Virtual Display Area」(以降、VDA)と呼ぶユニークな仕組みを実装している。VDAはChOWDERサーバが管理する仮想的な二次元空間で、ここに表示コンテンツを任意の位置、縮尺に配置することができる。加えてコンテンツ表示先であるディスプレイデバイスも任意の位置・縮尺でVDA上に配置可能なため、これを用いることで、異なる解像度、アスペクト比のディスプレイが混在するような、自由度の高いタイルドディスプレイを構築することが可能である。(Fig.1)
また、表示側デバイスに必要なソフトウェアはFirefox, Chromeのような通常のWebブラウザだけであり、特別なソフトウェアのインストールや、複数ディスプレイ接続に対応した高価なグラフィックボードは必要ない。WebブラウザはChOWDERサーバに接続すると全画面表示状態となり、物理ディスプレイ全体をChOWDERの表示エリアとして利用する。つまりWebブラウザが動くデバイスであれば何でもChOWDERタイルドディスプレイ(の一部)として機能する。
表示コンテンツ送出側のデバイスもWebブラウザのみで動作する。テキストファイル、画像ファイル、PDFファイルなどの静的なコンテンツと、動画ファイル、送出側デバイスのデスクトップ画面、WebカメラなどのストリーミングコンテンツがChOWDERタイルドディスプレイ上で表示可能である。
さらに、ChOWDERは複数拠点のタイルドディスプレイを連携させることができる。前述のVDA上で各拠点のディスプレイデバイス位置を重ね合わせることで、複数拠点間でコンテンツ共有表示が可能である。
これらの特徴により、ChOWDERは比較的小規模な投資でタイルドディスプレイを構築可能な、柔軟性に優れたソフトウェアであると言える。

3. 利用事例
気象シミュレータNICAMの「京」コンピュータ全系(88,128CPU)による並列計算結果を、理研が開発する可視化ソフトウェアHIVEにより16K解像度画像にレンダリングし、ChOWDERを通じて4Kディスプレイ12枚で構成されるタイルドディスプレイ(総解像度15,360 × 6,480ピクセル)に等倍表示した(Fig.2)。HIVEにはレンダリング結果画像をChOWDERに直接送信する機能があるため、スーパーコンピュータを利用した大規模シミュレーションによる生成される高解像度データを間引きすることなく、全体俯瞰と詳細部分の観察が同時に可能である。
千葉大学環境リモートセンシング研究センターが所有するフルHDディスプレイ36枚で構成されるタイルドディスプレイ(総解像度17,280 × 5,120ピクセル)に、情報通信研究機構が提供するAMATERASS(http://amaterass.nict.go.jp/index.html)の画面2つと、ひまわり8号からの画像を表示している(Fig.3)。AMATERASSの画面はユーザの手元のPC画面をChOWDERにストリーミング送信しており、手元のPC上でAMATERASSを操作するとタイルドディスプレイ上の表示もリアルタイムで追従する。複数ユーザのPCがコンテンツ送出元となってそれぞれの情報を1つのタイルドディスプレイに並べて表示できるため、情報を俯瞰した共同作業が可能である。

4. ソフトウェアの入手方法
ChOWDERはBSD修正2条項ライセンスで配布されるオープンソースソフトウェアであり、学術・商用を問わず無償で利用できる。GitHubからソフトウェアと利用者向けドキュメントがダウンロードできる。(https://github.com/SIPupstreamDesign/ChOWDER)