[MIS07-P01] IRDによる赤外線高精度ドップラー法から明らかになる系外惑星: 低温M型星の惑星の大規模探査の開始
キーワード:系外惑星、ドップラー法、ハビタブルゾーン、IRD、惑星形成、M型星
太陽系外に存在する惑星、すなわち系外惑星の観測は、アストロバイオロジーの研究の新たな窓として注目を集めている。その中でも低温のM型星 (約 3000 K 以下の有効温度を持つ恒星)を周回する惑星は、系外惑星におけるアストロバイオロジーの研究を前進させるための大きな可能性を持つ。そのような低温の恒星の周囲では、水が惑星表面で液体として存在可能な領域であるハビタブルゾーンが主星に近くなると期待できる(Kopparapu et al. 2013, ApJ 765, 131)。また、Kepler宇宙望遠鏡による近年の系外惑星の観測から、地球のようにサイズの小さな惑星の存在率が、恒星の有効温度の低下に伴い増加する傾向が見られている(例: Mulders et al. 2015, ApJ 798, 112)。さらに、系外惑星の観測に利用される主要な方法の一つであるドップラー法では、主星に近い軌道を持つ惑星ほど、その検出が容易になる。したがって、低温M型星を対象にすることで、ハビタブルゾーンに存在する岩石惑星のドップラー法による観測が優位に進められると期待できる。また、低温M型星の惑星系ではその雪線も主星に近くなるが、それは惑星の形成過程の観点から興味深い。
それにも関わらず、低温M型星の系外惑星観測は、より高温の恒星における系外惑星の観測と比較してあまり進んでいない。これは、低温M型星の光度が非常に低いためである。特に、系外惑星の観測は可視光を利用したものが主流であったが、低温M型星は可視光で暗いことも問題であった。そこで我々は、高精度ドップラー法による系外惑星の観測を近赤外線で行うための高分散分光器、Infrared Doppler (IRD)の開発を進めてきた(Kotani et al. 2018, Proc. of the SPIE 10702, 1070211)。低温M型星の放射のピークがある近赤外線は、その観測に適している。近赤外線でドップラー法に基づく高精度の測定を得るのが困難であった理由の一つが、装置の不安定性に由来する測定の変動を正確に較正するための参照光源に欠けていたことである。我々はレーザー周波数コムを発生する装置をIRD用に新たに開発し、それを参照光として測定値の較正に利用する。レーザー周波数コムは細かい波長間隔で並ぶ多くの輝線のスペクトルであるが、それを天体と同時に観測することで、正確な波長較正が可能になる。IRDはその装置性能の実験室での検証を経て (Kuzuhara et al. 2018, Proc. of the SPIE 10702, 1070260)、レーザー周波数コムとともにすばる望遠鏡での運用が開始された。すばる望遠鏡の大口径の主鏡により低温M型星に対しても、高い感度の観測が可能になる。したがって、すばる望遠鏡とIRDを利用することにより、低温M型星の系外惑星の発見と特徴付けが大きく進展すると期待できる。
我々はすばる望遠鏡とIRDを利用した、大規模な低温M型星の惑星探査を計画してきたが、同探査は2019年の2月から実際に開始する。同探査では、5年間で175夜の観測により、約60のM型星をモニター観測する。我々が事前に行ったシミュレーションからは、IRD探査では60以上の惑星の検出が見込まれる。その中には、数十の地球型惑星の検出が含まれ、そのうちのいくつかはハビタブルゾーンに存在する可能性も期待できる。そのように、IRDによる惑星探査は、低温M型星のような低質量の恒星における惑星形成の理論モデルのより良い理解や、TMTなど将来建設される大望遠鏡による系外惑星の特徴付けの研究を展開するためのサンプル提供に重要な貢献を果たすだろう。ここでは、IRDの測定の精度や安定性などを評価するために我々が現在進めている天体観測による試験の結果を報告する。さらに、我々が定めた研究目標や、そのためのターゲット選定、それらの観測戦略など、上記の大規模探査計画の内容についても詳しく説明する。
それにも関わらず、低温M型星の系外惑星観測は、より高温の恒星における系外惑星の観測と比較してあまり進んでいない。これは、低温M型星の光度が非常に低いためである。特に、系外惑星の観測は可視光を利用したものが主流であったが、低温M型星は可視光で暗いことも問題であった。そこで我々は、高精度ドップラー法による系外惑星の観測を近赤外線で行うための高分散分光器、Infrared Doppler (IRD)の開発を進めてきた(Kotani et al. 2018, Proc. of the SPIE 10702, 1070211)。低温M型星の放射のピークがある近赤外線は、その観測に適している。近赤外線でドップラー法に基づく高精度の測定を得るのが困難であった理由の一つが、装置の不安定性に由来する測定の変動を正確に較正するための参照光源に欠けていたことである。我々はレーザー周波数コムを発生する装置をIRD用に新たに開発し、それを参照光として測定値の較正に利用する。レーザー周波数コムは細かい波長間隔で並ぶ多くの輝線のスペクトルであるが、それを天体と同時に観測することで、正確な波長較正が可能になる。IRDはその装置性能の実験室での検証を経て (Kuzuhara et al. 2018, Proc. of the SPIE 10702, 1070260)、レーザー周波数コムとともにすばる望遠鏡での運用が開始された。すばる望遠鏡の大口径の主鏡により低温M型星に対しても、高い感度の観測が可能になる。したがって、すばる望遠鏡とIRDを利用することにより、低温M型星の系外惑星の発見と特徴付けが大きく進展すると期待できる。
我々はすばる望遠鏡とIRDを利用した、大規模な低温M型星の惑星探査を計画してきたが、同探査は2019年の2月から実際に開始する。同探査では、5年間で175夜の観測により、約60のM型星をモニター観測する。我々が事前に行ったシミュレーションからは、IRD探査では60以上の惑星の検出が見込まれる。その中には、数十の地球型惑星の検出が含まれ、そのうちのいくつかはハビタブルゾーンに存在する可能性も期待できる。そのように、IRDによる惑星探査は、低温M型星のような低質量の恒星における惑星形成の理論モデルのより良い理解や、TMTなど将来建設される大望遠鏡による系外惑星の特徴付けの研究を展開するためのサンプル提供に重要な貢献を果たすだろう。ここでは、IRDの測定の精度や安定性などを評価するために我々が現在進めている天体観測による試験の結果を報告する。さらに、我々が定めた研究目標や、そのためのターゲット選定、それらの観測戦略など、上記の大規模探査計画の内容についても詳しく説明する。