[MIS07-P08] 国際宇宙ステーション搭載シリカエアロゲルで捕獲された微粒子の高速衝突トラックの3次元形状
キーワード:たんぽぽ計画、宇宙塵
日本初のアストロバイオロジー実験「たんぽぽ計画」では、生命起源物質が地球外から供給されたとの仮説[1]を実証する目的で、国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」に超低密度シリカエアロゲルを設置し宇宙塵を捕獲する試みがなされている[2]。シリカエアロゲルはNASAによる彗星塵サンプルリターン計画「スターダスト」で用いられた物質で[3]、彗星塵が6.1 km/sでシリカエアロゲルに高速衝突して生じた痕(衝突トラック)の形状はタイプA, B, Cに分類され[4]衝突粒子の密度などを推定するための有用な情報をもつ [5]。そこで本研究では(1)宇宙塵の衝突により形成された衝突トラックを探すこと、(2)宇宙塵以外の微粒子の衝突により形成されたトラックの3次元形状などを記載することにより最終的にトラック形状と起源の関係を明らかにすることを目的とした。
簡易曝露実験装置の宇宙側に設置されたシリカエアロゲル中の衝突トラック8個(D1-231, D1-298, D1-362, E1-200, E1-304, F1-328, F1-389, F1-623)について、放射光施設SPring-8のBL47XUにおいて結像型吸収CT撮影(7, 8, 9 keV)をおこなった。8 keVのCT像(吸収コントラスト像:0.24または0.465 µm/画素)を解析しトラックの形状抽出、楕円体近似をおこない、トラック長(Lt)、最大トラック直径(Dm)、アスペクト比などを求め、スターダストトラックと比較した。また、7, 8 keVのCT像からdual-energy tomography (DET)[6]を用いてトラック中に見られる微粒子の線吸収係数を調べ、物質の推定をおこなった。D1-231, D1-298, D1-362についてはエアロゲルを押しつぶし、トラック中の微粒子の光学顕微鏡観察をおこなった。さらに光学顕微鏡観察のみを行った1個のトラック(E2-000)を加え、計9個のトラックを5タイプに分類した。
タイプ1(E2-000)は宇宙塵による衝突トラックで、トラックの先端に輝石を含む2粒子が確認された[7]。その形状はスターダストトラックタイプBに似ているが、入口が大きく広がっているのが特徴である。タイプ2(D1-231)はスターダストトラックタイプAにやや似ている。タイプ3(E1-200, E1-304)はクラックが非常に発達しており、入口が非常に狭いという特徴を持つ。タイプ4(F1-328, F1-389)はタイプ3と同様にクラックが発達しており、かつ非対称な形状をしている。タイプ5(D1-362, F1-623)はお椀型のトラックで、入口が大きく広がっている。これらのトラックのLtとDmとの関係は、タイプ5を除き、スターダストのものとほとんど変わらなかった。しかし、具体的な形状はスターダストトラックと大きく異なっている。トラックの壁面から伸びたクラックの形状は、スターダストトラックタイプA, Bの先端で見られたものと似ていることから、比較的低速度の衝突によってできたと考えられる。DETの結果からは、トラック中に見られるほとんどの微粒子はFeやNiなどを含まず、その線級数係数は宇宙塵が持つ線吸収係数よりもはるかに小さかった。これらは、固着度の低い物質が衝突の衝撃で砕け、エアロゲルを巻き込むように生成したもの(condensed aerogel)であると考えられる。また、D1-231, D1-362中に1粒子ずつ高い線吸収係数を持つ微粒子が確認され、光学顕微鏡観察からもその存在が確認できた。一方、タイプ5のトラックと同様のものは、宇宙ステーション・ミールの暴露実験におけるシリカエアロゲル中にも報告があり、固着度の低い物質の高速衝突によるものかもしれない[8]。このような衝突トラックの定量的な分析から、従来研究では得られなかった新しいパラメータ領域に関する知見が得られる可能性がある。
[1] Chyba C. & Sagan C. 1992. Nature, 355, 125. [2] Yamagishi A. et al. 2012. Space Utiliz Res, 28, 220. [3] Brownlee D. et al. 2006. Science, 314, 1711. [4] Hörz et al. 2006. Science, 314, 1716. [5] Tsuchiyama A. et al. 2009. Meteoritics & Planetary Science, 44, 1203. [6] Tsuchiyama A. 2013. Geochimica et Cosmochimica Acta 116, 5. [7] 野口高明, 2018, 私信. [8] Hörz and Zolensky, 2000, Icarus 147, 559.
簡易曝露実験装置の宇宙側に設置されたシリカエアロゲル中の衝突トラック8個(D1-231, D1-298, D1-362, E1-200, E1-304, F1-328, F1-389, F1-623)について、放射光施設SPring-8のBL47XUにおいて結像型吸収CT撮影(7, 8, 9 keV)をおこなった。8 keVのCT像(吸収コントラスト像:0.24または0.465 µm/画素)を解析しトラックの形状抽出、楕円体近似をおこない、トラック長(Lt)、最大トラック直径(Dm)、アスペクト比などを求め、スターダストトラックと比較した。また、7, 8 keVのCT像からdual-energy tomography (DET)[6]を用いてトラック中に見られる微粒子の線吸収係数を調べ、物質の推定をおこなった。D1-231, D1-298, D1-362についてはエアロゲルを押しつぶし、トラック中の微粒子の光学顕微鏡観察をおこなった。さらに光学顕微鏡観察のみを行った1個のトラック(E2-000)を加え、計9個のトラックを5タイプに分類した。
タイプ1(E2-000)は宇宙塵による衝突トラックで、トラックの先端に輝石を含む2粒子が確認された[7]。その形状はスターダストトラックタイプBに似ているが、入口が大きく広がっているのが特徴である。タイプ2(D1-231)はスターダストトラックタイプAにやや似ている。タイプ3(E1-200, E1-304)はクラックが非常に発達しており、入口が非常に狭いという特徴を持つ。タイプ4(F1-328, F1-389)はタイプ3と同様にクラックが発達しており、かつ非対称な形状をしている。タイプ5(D1-362, F1-623)はお椀型のトラックで、入口が大きく広がっている。これらのトラックのLtとDmとの関係は、タイプ5を除き、スターダストのものとほとんど変わらなかった。しかし、具体的な形状はスターダストトラックと大きく異なっている。トラックの壁面から伸びたクラックの形状は、スターダストトラックタイプA, Bの先端で見られたものと似ていることから、比較的低速度の衝突によってできたと考えられる。DETの結果からは、トラック中に見られるほとんどの微粒子はFeやNiなどを含まず、その線級数係数は宇宙塵が持つ線吸収係数よりもはるかに小さかった。これらは、固着度の低い物質が衝突の衝撃で砕け、エアロゲルを巻き込むように生成したもの(condensed aerogel)であると考えられる。また、D1-231, D1-362中に1粒子ずつ高い線吸収係数を持つ微粒子が確認され、光学顕微鏡観察からもその存在が確認できた。一方、タイプ5のトラックと同様のものは、宇宙ステーション・ミールの暴露実験におけるシリカエアロゲル中にも報告があり、固着度の低い物質の高速衝突によるものかもしれない[8]。このような衝突トラックの定量的な分析から、従来研究では得られなかった新しいパラメータ領域に関する知見が得られる可能性がある。
[1] Chyba C. & Sagan C. 1992. Nature, 355, 125. [2] Yamagishi A. et al. 2012. Space Utiliz Res, 28, 220. [3] Brownlee D. et al. 2006. Science, 314, 1711. [4] Hörz et al. 2006. Science, 314, 1716. [5] Tsuchiyama A. et al. 2009. Meteoritics & Planetary Science, 44, 1203. [6] Tsuchiyama A. 2013. Geochimica et Cosmochimica Acta 116, 5. [7] 野口高明, 2018, 私信. [8] Hörz and Zolensky, 2000, Icarus 147, 559.