日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS11] 水惑星学

2019年5月27日(月) 13:45 〜 15:15 A02 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:関根 康人(東京工業大学地球生命研究所)、臼井 寛裕(東京工業大学地球生命研究所)、福士 圭介(金沢大学環日本海域環境研究センター)、渋谷 岳造(海洋研究開発機構)、座長:関根 康人(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、臼井 寛裕渋谷 岳造(海洋研究開発機構)

14:15 〜 14:30

[MIS11-03] 潮汐加熱と氷殻下における熱の南北非対称性が生み出す氷殻のダイナミクス

*原田 果穂1,2中川 貴司3森重 学2廣瀬 重信2 (1.慶應義塾大学、2.海洋研究開発機構、3.香港大学)

キーワード:エンセラダス、熱対流、潮汐加熱

土星の氷衛星エンセラダスは,北半球ではクレーターが多い一方で南半球ではクレーターが少なく,特に南極付近においては約15 GWの熱放出が確認されているタイガーストライプと呼ばれる亀裂が見られる.このような熱放出を伴う表面地形が形成される要因は,エンセラダスの内部海とそこでの熱水環境を維持している熱エネルギーにあると考えられ,その熱源となりうるのは土星の潮汐力による摩擦熱(潮汐加熱)である.実際,潮汐加熱が駆動する氷殻内部における熱対流現象が表面地形形成に寄与することが先行研究によって示されているものの,南極付近のみに活発な地質活動が見られる理由はまだ分かっていない.一方,エンセラダスの岩石コアは熱源分布の不均質性がある可能性が示されている.

 そこで本研究では,エンセラダスの岩石コア内部の熱生成に南北非対称性を仮定し,氷殻下から伝わる熱の南北非対称性が南極付近にのみ活発な地質活動をもたらすという仮説を立て,氷殻における熱対流シミュレーションを用いてその検証を行った.具体的には,氷殻上部の境界温度を73Kで一様にする一方で,氷殻下部の境界温度を北半球全体で273K,南半球全体で283Kと10Kの差をつけた.シミュレーションの結果,氷殻上下の温度差によって熱対流が駆動される中で,特に南極付近に集中した上昇流と北極付近に集中した下降流が現れることがわかった.下部境界温度は各半球で一様であるにもかかわらず,それぞれの極付近に集中した上昇・下降流が現れるのは,それらの流れを結ぶグローバルな子午面循環が発生するためである.また氷殻内部における熱対流が全体として輸送するエネルギーは約300GWであり,エンセラダスの南極付近で観測される熱放出の20倍に相当する.すなわち,本研究で仮定した南北非対称性のある岩石コア内部で生成される熱は大きすぎると言える.以上のような結果から生成される熱は大きすぎるものの,岩石コア内部における熱生成の南北非対称性が,現在観測されている南極付近に限定した表面地形の形成の原因となりうることが示された.ただし本研究では氷殻上面を固定境界としているため,タイガーストライプをはじめとする,熱対流が駆動すると考えられる表面地形の形成の再現はできておらず,今後の課題として残っている.