[MIS16-P01] 新しい気象庁移流拡散モデルの開発
キーワード:移流拡散モデル、JMA-ATM、火山灰、火山礫、降灰予報、航空路火山灰情報
気象庁移流拡散モデル(JMA-ATM)を新たに開発する.
現在,気象庁では,主な目的として航空路火山灰情報(VAA)を発表するために全球モデル(GSM)の格子点値(GPV)を入力する全球移流拡散モデル(JMA-GATM)と,降灰予報のために非静力学モデルasuca(気象庁予報部, 2014)に基づくメソモデル(MSM)または局地モデル(LFM)のGPVを入力する領域移流拡散モデル(JMA-RATM)を運用している.2019年度から始まる気象研究所中期研究計画の一つ『火山活動の監視・予測に関する研究』の副課題3「火山噴出物の監視技術とデータ同化に基づく輸送予測」においては,JMA-ATMを新たに開発して,火山灰データ同化(石井・他, 2017)と結合した解析・予報サイクル,すなわち火山灰データ同化・予測システムの構築をテーマに研究を進める計画である.
新しいATMは,降灰予報およびVAA業務における現業化を念頭に,堅牢性・速報性・柔軟性および開発管理の観点から設計している.堅牢性:現業運用において異常終了しないためにラグランジュ記述.速報性:降灰予報およびVAAを迅速に発表するためにオフライン計算.さらに今後,濃度予測の業務化などに伴う計算量の増加を見込んで,GPV要素変換の前処理化,スーパーコンピュータ上ではMPIによる並列計算.柔軟性:初期値は供給源モデルによる火山灰に限定せず,入力値は数値予報モデル(GSM, MSMおよびLFM)のGPVに特化しない計算粒子・座標系の設定.開発管理:気象庁内におけるモデル開発の相互点検・共有のためのシステムによるプロジェクト管理およびバージョン管理.これらのうち,ラグランジュ記述でオフライン計算することは現行モデルを踏襲する.GPVの入力方法は,従来GATMはGSMと同じ地形に沿った気圧座標系,RATMはasucaと同じ地形に沿った高度座標系(新堀・他, 2016)で直接読込していたが,新しいATMは前処理で異なる種類のGPVを共通の気象要素に変換して高度座標系で読込む.この方針により,二つに分かれていたGATMとRATMは,一つのATMに統一される(Fig. 1).新しいATMのプログラム(ソースコード)は,コーディングルール(室井・他, 2002)を規範としてFortranで書き,すべてのサブルーチンをモジュール化して可読性を高める.そして,各力学・物理過程では計算粒子の時間変化率を求め,タイムステップの最後に時間積分することにより,各過程は基本的に可換にして独立性を保たせる.新しいATMのソースコードを含む開発環境については,気象庁予報部(2017)で導入されたSubversion(SVN)により変更履歴を管理するとともに,SVNと連携したRedmineにより作業工程を記録する.
現業モデルとしての新しいATMの最初の目標は, GATMおよびRATMと同等の予測精度を確保することである.特に地表面に近い大気輸送を予測するためには,高度座標系における地形の適切なモデル表現が重要になる.また,新しいATMに対応した可視化や検証ツールなどの開発基盤の整備も必要である.現業化に向けた一連の開発は2020年度をめどにして,JMA-ATMの設計内容は気象研究所技術報告にまとめて上梓を予定している.その後,気象レーダーなどによる観測データ(例えば,佐藤・他, 2019)を同化するためのシステムに結合するとともに,モデル自体の予測精度を上げるために,凝集や再飛散過程の導入などによりATMの改良を行ってゆきたい.
参考文献
石井憲介, 新堀敏基, 佐藤英一, 林 勇太, 徳本哲男, 福井敬一, 橋本明弘, 2017: 火山灰拡散予測のための火山灰データ同化システムの開発. 日本地球惑星科学連合大会予稿集, MIS02-P02.
気象庁予報部, 2014: 次世代非静力学モデルasuca. 数値予報課報告・別冊, 60, 151 p.
気象庁予報部, 2017: 数値予報モデル開発のための基盤整備および開発管理. 数値予報課報告・別冊, 63, 108 p.
室井ちあし,豊田英司, 吉村裕正, 保坂征宏, 杉 正人, 2002: 標準コーディングルール. 天気, 49, 91-95.
佐藤英一, 千馬竜太郎, 福井敬一, 新堀敏基, 2019: 二重偏波レーダーを用いた曇天・雨天時の火山噴煙の観測について(第2報). 日本気象学会春季大会講演予稿集.
新堀敏基, 2016: 火山灰輸送:モデルと予測. 火山, 61, 399-427.
新堀敏基, 林 洋介, 藤原善明, 松田康平, 石井憲介, 佐藤英一, 徳本哲男, 2016: 領域移流拡散モデルへのasucaモデル面GPV導入―降灰予報で活用するために―. 日本火山学会講演予稿集, 189.
現在,気象庁では,主な目的として航空路火山灰情報(VAA)を発表するために全球モデル(GSM)の格子点値(GPV)を入力する全球移流拡散モデル(JMA-GATM)と,降灰予報のために非静力学モデルasuca(気象庁予報部, 2014)に基づくメソモデル(MSM)または局地モデル(LFM)のGPVを入力する領域移流拡散モデル(JMA-RATM)を運用している.2019年度から始まる気象研究所中期研究計画の一つ『火山活動の監視・予測に関する研究』の副課題3「火山噴出物の監視技術とデータ同化に基づく輸送予測」においては,JMA-ATMを新たに開発して,火山灰データ同化(石井・他, 2017)と結合した解析・予報サイクル,すなわち火山灰データ同化・予測システムの構築をテーマに研究を進める計画である.
新しいATMは,降灰予報およびVAA業務における現業化を念頭に,堅牢性・速報性・柔軟性および開発管理の観点から設計している.堅牢性:現業運用において異常終了しないためにラグランジュ記述.速報性:降灰予報およびVAAを迅速に発表するためにオフライン計算.さらに今後,濃度予測の業務化などに伴う計算量の増加を見込んで,GPV要素変換の前処理化,スーパーコンピュータ上ではMPIによる並列計算.柔軟性:初期値は供給源モデルによる火山灰に限定せず,入力値は数値予報モデル(GSM, MSMおよびLFM)のGPVに特化しない計算粒子・座標系の設定.開発管理:気象庁内におけるモデル開発の相互点検・共有のためのシステムによるプロジェクト管理およびバージョン管理.これらのうち,ラグランジュ記述でオフライン計算することは現行モデルを踏襲する.GPVの入力方法は,従来GATMはGSMと同じ地形に沿った気圧座標系,RATMはasucaと同じ地形に沿った高度座標系(新堀・他, 2016)で直接読込していたが,新しいATMは前処理で異なる種類のGPVを共通の気象要素に変換して高度座標系で読込む.この方針により,二つに分かれていたGATMとRATMは,一つのATMに統一される(Fig. 1).新しいATMのプログラム(ソースコード)は,コーディングルール(室井・他, 2002)を規範としてFortranで書き,すべてのサブルーチンをモジュール化して可読性を高める.そして,各力学・物理過程では計算粒子の時間変化率を求め,タイムステップの最後に時間積分することにより,各過程は基本的に可換にして独立性を保たせる.新しいATMのソースコードを含む開発環境については,気象庁予報部(2017)で導入されたSubversion(SVN)により変更履歴を管理するとともに,SVNと連携したRedmineにより作業工程を記録する.
現業モデルとしての新しいATMの最初の目標は, GATMおよびRATMと同等の予測精度を確保することである.特に地表面に近い大気輸送を予測するためには,高度座標系における地形の適切なモデル表現が重要になる.また,新しいATMに対応した可視化や検証ツールなどの開発基盤の整備も必要である.現業化に向けた一連の開発は2020年度をめどにして,JMA-ATMの設計内容は気象研究所技術報告にまとめて上梓を予定している.その後,気象レーダーなどによる観測データ(例えば,佐藤・他, 2019)を同化するためのシステムに結合するとともに,モデル自体の予測精度を上げるために,凝集や再飛散過程の導入などによりATMの改良を行ってゆきたい.
参考文献
石井憲介, 新堀敏基, 佐藤英一, 林 勇太, 徳本哲男, 福井敬一, 橋本明弘, 2017: 火山灰拡散予測のための火山灰データ同化システムの開発. 日本地球惑星科学連合大会予稿集, MIS02-P02.
気象庁予報部, 2014: 次世代非静力学モデルasuca. 数値予報課報告・別冊, 60, 151 p.
気象庁予報部, 2017: 数値予報モデル開発のための基盤整備および開発管理. 数値予報課報告・別冊, 63, 108 p.
室井ちあし,豊田英司, 吉村裕正, 保坂征宏, 杉 正人, 2002: 標準コーディングルール. 天気, 49, 91-95.
佐藤英一, 千馬竜太郎, 福井敬一, 新堀敏基, 2019: 二重偏波レーダーを用いた曇天・雨天時の火山噴煙の観測について(第2報). 日本気象学会春季大会講演予稿集.
新堀敏基, 2016: 火山灰輸送:モデルと予測. 火山, 61, 399-427.
新堀敏基, 林 洋介, 藤原善明, 松田康平, 石井憲介, 佐藤英一, 徳本哲男, 2016: 領域移流拡散モデルへのasucaモデル面GPV導入―降灰予報で活用するために―. 日本火山学会講演予稿集, 189.