[MIS16-P04] 落下速度観測から推定された桜島ブルカノ式噴火の噴煙からの火山灰粒子分離高度と粒径分布
キーワード:噴煙からの分離、桜島火山、降下火山灰、パーシベル
1. はじめに
降灰予測モデルにおいて,精度に最も影響を与える入力値は質量噴出率や風だが,さらに精度を上げるには噴煙からの粒子分離も重要である。そのためMannen [2014]は伊豆大島の1986年B噴火(噴煙高度10kmの準プリニー式噴火)の降灰量と移流拡散モデルTephra2を用いて,火山灰粒子の噴煙からの分離高度を推定した。本研究はこの事例研究と似た手法を用いて,桜島の多数のブルカノ式噴火により放出された火山灰の落下速度の実測値に基づいて,粒子の分離高度と粒径分布の特徴を調べた。
2. 観測手法およびデータ
レーザー式雨量計Parsivel2(OTT社)を桜島の島内13地点に設置して観測した。本機器は一粒ごとに粒子の直径(0.2-24.5mm)と落下速度(0.2-20.8m/s)を各32区間に分類し,毎分の粒数を記録する。火山灰観測にも有用である[小園・他, 2015]。2018年5月から12月までの8ヶ月間のデータを解析した結果,期間中に発生した346回の噴火のうち156回の噴火によるのべ261地点の降灰が検知された。粒径は0.25mm - 20mmの範囲で検知され,最も体積比での検知量が多かった粒度区間は0.625mm - 0.75mmだった。また落下速度は0m/s -12.8m/sの範囲で検知され,いずれの粒径でも球形粒子の終端速度[Wilson and Huang, 1973]を下回った。
3. 解析手法
噴煙を離れた火山灰は移流,拡散,落下の複合過程を経て地上に到達する。地上の観測点から遡って流跡線を推定し,噴煙に最も近づいた高度を噴煙分離高度とした。風の場の水平成分は鹿児島地方気象台による観測値を高度・時間方向に内挿することにより得られ,鉛直成分は無視された。また拡散は水平方向の二次元ガウス分布[Suzuki, 1983]で表せること,落下速度は地表で観測される値で一定であること,噴煙は火口から高度方向に伸びる線状源であることを仮定した。
4. 粒子分離高度と粒径分布
噴火開始から10分以内に分離したと推定された粒子から,17回の噴火での高度ごとの火山灰の分離重量と粒径分布が推定された。これらの噴火は噴煙高度が400m - 4700m(3回は不明)で,噴煙全体のうち150m - 990mの高度区間が推定された。このうち最も広い高度区間で推定された,2018年6月9日15:09の噴火は,噴煙高度1400m(海抜2400m)の噴煙を伴い,引ノ平観測点(火口から1.6km,14,642粒検知)とハルタ山観測点(2.7km,229粒検知)で降灰が検知された。噴煙のうち海抜1260mから2250mまでの990mの区間が推定された。この区間から分離した火山灰の重量は4.4×103tだった。ここで火山灰の分離密度[t/m]の対数をαと定義する。この噴火においては,αはどの高度でも-1から0の間で推移し,高度との相関はなかった。また粒度分布については,0.75mm未満の粒子の割合と離脱高度が強い逆相関(R=-0.94)を示し,高い場所ほど小さな粒径の割合が下がることが示唆された。
2018年7月16日15:38の噴火は高度4600mの噴煙を放出し,引ノ平観測点(7,767粒検知),ハルタ山観測点(176粒検知),赤水観測点(火口から4.6km,2,501粒検知)で降灰が検知された。3地点のデータから,噴煙のうち海抜1290mから1710m,2070mから2570mまでのあわせて920mの区間が推定された。この範囲から分離した火山灰の重量は3.6×103tで,αは-2から0の間で推移し,高度との相関はなかった。0.75mm未満の粒子の割合と離脱高度も強い相関は見られなかった(R=-0.39)。
ほとんどの噴火では高度と粒径分布に相関が見られなかったが,中には6月9日の噴火と同様の逆相関(R<-0.9)が見られたもの(4回),強い正相関(R>0.9)が見られたもの(1回)があった。Mannen [2014]も似たような逆相関を示した。
5.手法の検証
同じ期間に鹿児島県内のより広い範囲で継続的に観測された総降灰量から得られたαの平均は0.46である。本研究におけるαの平均は-0.18で,この値よりも小さい。これは本研究が噴火開始から10分間のデータのみを扱っているためである。
分離高度の一部は火口の標高(海抜1000m)以下と推定された。この原因は下降風を無視したことだと考えられるため,今後考慮する。
降灰予測モデルにおいて,精度に最も影響を与える入力値は質量噴出率や風だが,さらに精度を上げるには噴煙からの粒子分離も重要である。そのためMannen [2014]は伊豆大島の1986年B噴火(噴煙高度10kmの準プリニー式噴火)の降灰量と移流拡散モデルTephra2を用いて,火山灰粒子の噴煙からの分離高度を推定した。本研究はこの事例研究と似た手法を用いて,桜島の多数のブルカノ式噴火により放出された火山灰の落下速度の実測値に基づいて,粒子の分離高度と粒径分布の特徴を調べた。
2. 観測手法およびデータ
レーザー式雨量計Parsivel2(OTT社)を桜島の島内13地点に設置して観測した。本機器は一粒ごとに粒子の直径(0.2-24.5mm)と落下速度(0.2-20.8m/s)を各32区間に分類し,毎分の粒数を記録する。火山灰観測にも有用である[小園・他, 2015]。2018年5月から12月までの8ヶ月間のデータを解析した結果,期間中に発生した346回の噴火のうち156回の噴火によるのべ261地点の降灰が検知された。粒径は0.25mm - 20mmの範囲で検知され,最も体積比での検知量が多かった粒度区間は0.625mm - 0.75mmだった。また落下速度は0m/s -12.8m/sの範囲で検知され,いずれの粒径でも球形粒子の終端速度[Wilson and Huang, 1973]を下回った。
3. 解析手法
噴煙を離れた火山灰は移流,拡散,落下の複合過程を経て地上に到達する。地上の観測点から遡って流跡線を推定し,噴煙に最も近づいた高度を噴煙分離高度とした。風の場の水平成分は鹿児島地方気象台による観測値を高度・時間方向に内挿することにより得られ,鉛直成分は無視された。また拡散は水平方向の二次元ガウス分布[Suzuki, 1983]で表せること,落下速度は地表で観測される値で一定であること,噴煙は火口から高度方向に伸びる線状源であることを仮定した。
4. 粒子分離高度と粒径分布
噴火開始から10分以内に分離したと推定された粒子から,17回の噴火での高度ごとの火山灰の分離重量と粒径分布が推定された。これらの噴火は噴煙高度が400m - 4700m(3回は不明)で,噴煙全体のうち150m - 990mの高度区間が推定された。このうち最も広い高度区間で推定された,2018年6月9日15:09の噴火は,噴煙高度1400m(海抜2400m)の噴煙を伴い,引ノ平観測点(火口から1.6km,14,642粒検知)とハルタ山観測点(2.7km,229粒検知)で降灰が検知された。噴煙のうち海抜1260mから2250mまでの990mの区間が推定された。この区間から分離した火山灰の重量は4.4×103tだった。ここで火山灰の分離密度[t/m]の対数をαと定義する。この噴火においては,αはどの高度でも-1から0の間で推移し,高度との相関はなかった。また粒度分布については,0.75mm未満の粒子の割合と離脱高度が強い逆相関(R=-0.94)を示し,高い場所ほど小さな粒径の割合が下がることが示唆された。
2018年7月16日15:38の噴火は高度4600mの噴煙を放出し,引ノ平観測点(7,767粒検知),ハルタ山観測点(176粒検知),赤水観測点(火口から4.6km,2,501粒検知)で降灰が検知された。3地点のデータから,噴煙のうち海抜1290mから1710m,2070mから2570mまでのあわせて920mの区間が推定された。この範囲から分離した火山灰の重量は3.6×103tで,αは-2から0の間で推移し,高度との相関はなかった。0.75mm未満の粒子の割合と離脱高度も強い相関は見られなかった(R=-0.39)。
ほとんどの噴火では高度と粒径分布に相関が見られなかったが,中には6月9日の噴火と同様の逆相関(R<-0.9)が見られたもの(4回),強い正相関(R>0.9)が見られたもの(1回)があった。Mannen [2014]も似たような逆相関を示した。
5.手法の検証
同じ期間に鹿児島県内のより広い範囲で継続的に観測された総降灰量から得られたαの平均は0.46である。本研究におけるαの平均は-0.18で,この値よりも小さい。これは本研究が噴火開始から10分間のデータのみを扱っているためである。
分離高度の一部は火口の標高(海抜1000m)以下と推定された。この原因は下降風を無視したことだと考えられるため,今後考慮する。