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[MIS19-06] 過去100万年間の西赤道太平洋暖水塊における鉛直水温構造の復元
キーワード:西赤道太平洋暖水塊、浮遊性有孔虫、古水温復元
太平洋熱帯域には東西方向の大気循環(ウォーカー循環)が存在し,その強弱と東西の表層水温(Sea Surface Temperature: SST)勾配,水温躍層勾配が大気海洋相互作用によって密接に関係している.このような大気海洋相互作用はエルニーニョ南方振動(El Niño Southern Oscillation : ENSO)として知られており,数年スケールの振動が熱帯のみならず広範囲の気候に影響を与えている.過去のSSTプロキシ記録によると東西方向のSST勾配は様々な時間スケールで変化しており,現在のENSOに類似した大気海洋相互作用が長時間スケールにおいても存在したと解釈されている.しかしながら,SST勾配の変化がウォーカー循環の強弱を伴っていた決定的な証拠は無い.そこで,本研究ではウォーカー循環の強弱に敏感に応答する水温躍層の変化を復元し,東西のSST勾配との連動性を調べることによって,ENSOに似た大気海洋相互作用が数万~数十万年スケールにおいても卓越していたかを検証した.試料は西太平洋暖水塊(Western Pacific warm pool: WPWP)に位置するオントンジャワ海台で採取されたMR14-02 PC4ピストンコアを用いた.堆積物から拾い出した浮遊性有孔虫Globigerinoides ruberとPulleniatina obliquiloculataのMg/Ca分析によって,表層・躍層水温を過去100万年間にわたって復元した.両者の水温差をWPWPにおける鉛直水温勾配(ΔTWPWP)とし,本研究のG. ruber SSTと東赤道太平洋ODP Site 846におけるアルケノンSSTの差を東西水温勾配(ΔSSTW-E)として比較を行った.その結果,過去のΔTWPWP とΔSSTW-Eの関係は,現在の数年スケール変動のそれとは一致しないことが示された.これは熱帯太平洋における数万~数十万年スケールの水温構造の変化が,現在のような東西方向の大気海洋相互作用とは異なるメカニズムによって引き起こされていることを示唆する.また,ΔTWPWP とΔSSTW-Eには氷期―間氷期サイクルよりも長時間スケールの変化が確認され,その周期はおよそ40万年であった.このことは,赤道太平洋の水温構造がミランコビッチサイクルを反映している可能性を示す.本研究の結果から,過去の大気海洋相互作用の動態を理解するためには,東西SST勾配に加えて,鉛直水温構造や緯度方向の水温変化も合わせて議論する必要性が示された.