日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS19] 古気候・古海洋変動

2019年5月30日(木) 09:00 〜 10:30 304 (3F)

コンビーナ:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)、加 三千宣(愛媛大学沿岸環境科学研究センター)、長谷川 精(高知大学理工学部)、座長:長谷川 精

10:00 〜 10:15

[MIS19-21] 南西太平洋ラウ海盆の遠洋性堆積物から復元された第四紀海水のOs同位体比とその全球的気候変動に対する示唆

*桑原 佑典1安川 和孝1,2藤永 公一郎2,3野崎 達生4,3,5,2大田 隼一郎2,6,3佐藤 峰南2,4木村 純一6中村 謙太郎1加藤 泰浩3,1,2 (1.東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻、2.千葉工業大学 次世代海洋資源研究センター、3.東京大学大学院工学系研究科エネルギー・資源フロンティアセンター、4.国立研究開発法人海洋研究開発機構 海底資源研究開発センター、5.神戸大学大学院理学研究科惑星学専攻、6.国立研究開発法人海洋研究開発機構 地球内部物質循環研究分野)

キーワード:氷期−間氷期サイクル、地球温暖化、オスミウム同位体比、炭素循環、熱水性堆積物

陸域における珪酸塩鉱物の化学的風化は大気CO2の消費を通し,全球気候を数百万年オーダーの長期的スケールで制御してきたといわれている.この過程は気候変動に対する負のフィードバック機構として働き,地球環境が暴走温室,あるいは全球凍結状態に陥るのを回避してきた.しかしながら,このメカニズムがより短い時間スケール (数万年〜数十万年オーダー) の全球気候変動,特に第四紀の氷期−間氷期サイクルにおいても機能したのかどうかについては,未だ統一的な見解は得られていない.
固体地球が全球気候変動に応答する時間スケールを制約するため,発表者らは大陸地殻の風化のプロキシとして海水のオスミウム (Os) 同位体比 (187Os/188Os) を利用した.海水のOs同位体比は,大陸から流入する放射壊変起源Osに富む (187Os/188Os = 1.0−1.4) フラックスと,マントルや宇宙塵に由来する非放射壊変起源Osに富む (187Os/188Os = ~0.12) フラックスの相対強度により決定される.両者の同位体比は大きく異なり,さらに海洋でのOsの滞留時間が数万年オーダーと短いため,海水のOs同位体比は海洋への各流入フラックスの変動を鋭敏に捉えることができる.第四紀を通じて非放射壊変起源のOsフラックスを一定と仮定すると,第四紀海水のOs同位体比の復元を通じて氷期−間氷期サイクルにおける珪酸塩鉱物の風化強度変動を捉えることができると期待される.
発表者らは,南西太平洋ラウ海盆の遠洋性堆積物 (鉄酸化水酸化物に富む炭酸塩軟泥) に記録された,氷期−間氷期サイクルにおける海水のOs同位体比を復元した.海底熱水活動により放出される鉄酸化水酸化物は,海水中のOsを効率的に吸着する.また,炭酸塩軟泥は堆積速度が速く,陸源砕屑物の混入が少ない.したがって,本研究で対象とした堆積物は,海水のOs同位体比の記録媒体として最適であると考えられる.分析の結果,氷期−間氷期サイクルに伴った海水の187Os/188Osの明瞭な変動が見出された.さらに,これに基づき海洋1-box同位体マスバランスモデルを用いて大陸起源のOsフラックス変動を見積もった.本発表では,これらの結果から示唆された第四紀気候変動に対する風化フィードバックの寄与について報告する.