日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS20] 山の科学

2019年5月27日(月) 10:45 〜 12:15 103 (1F)

コンビーナ:鈴木 啓助(信州大学理学部)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、佐々木 明彦(国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース)、奈良間 千之(新潟大学理学部理学科)、座長:佐々木 明彦

11:30 〜 11:45

[MIS20-10] 秋田駒ヶ岳北方の偽高山帯におけるオオシラビソ小林分の成立過程

*今野 明咲香1 (1.東北大学災害科学国際研究所)

キーワード:オオシラビソ林、形成過程、秋田駒ヶ岳、偽高山帯

秋田駒ヶ岳では,本来亜高山帯針葉樹が成立する標高帯にササや灌木を主とする偽高山帯景観が広がっており,亜高山帯性針葉樹であるオオシラビソ林は小林分で存在する。守田(1985)の花粉分析の研究によると,秋田駒ヶ岳地域北部でオオシラビソの花粉が検出されるのが約600年前からであり,現在まで増加傾向にあることから,秋田駒ヶ岳地域における偽高山帯景観の成立は,オオシラビソ林が未だ分布拡大途上であることが要因と考えられている。今野(2015)では,よりミクロなオオシラビソ林の成立時期を検討するために,秋田駒ヶ岳北方のオオシラビソ小林分において植物珪酸体分析を行い,少なくとも500年前以降に成立したと推定した。このことから,この林分の樹齢構成には現在もオオシラビソ林成立の形跡が残っている可能性が高く,オオシラビソ林拡大の初期段階を把握できる重要な地域であると言える。

そこで本研究は,秋田駒ヶ岳北方のオオシラビソ小林分における胸高直径階分布から林分の更新過程を明らかにすることで,オオシラビソ小林分の成立過程を考察することを目的とする。

オオシラビソ小林分内において植生を分類し,それぞれの胸高直径階分布を作成した。オオシラビソ疎林では20 cmと30 cmにピークを持ち,より小さいサイズでは減少する。オオシラビソ密林では5 cmと30 cmにピークを持ち,10~25 cmの個体で減少する。オオシラビソ・ダケカンバ・ブナ林では,個体数が少なく特徴が見いだせなかった。

一般に,順調に更新が行われている林分では,胸高直径階分布はサイズが小さい個体ほど多く,大きくなるにつれて個体数が減少しL字型の分布を示す。しかし,本調査では小さい階級で減少する傾向が認められた。

この個体数の減少は,林分の成立が新しく現在林分を構成している胸高直径20~30 cmの世代の多くが種子を生産できる樹齢に達していないことと,これ以前に種子を生産できた個体がほとんどなかったことを反映していると考えられる。すなわち,胸高直径階20~30 cmの個体は細々と存在していた第一世代から生産された第二世代である可能性が高く,この林分は第二世代において急速に形成されたと考えられる。
この結果は,東北地方の多くの地域の花粉分析結果から認められるモミ属花粉の急増とも整合的であり,現在東北日本の亜高山帯一面に広がるオオシラビソ林は,急速に拡大して亜高山帯を代表する植生となったと推測される。