[MIS21-P10] 日本海東縁とロシア沿海州沖の後期第四紀有機炭素濃度変動
キーワード:全有機炭素量、日本海、後期第四紀、表層型メタンハイドレート
日本海南部〜東部は対馬暖流の影響下にあり,生物生産量の高い海域である.日本海の表層で生成された有機炭素は沈降して堆積物中に固定され,埋没を経て,やがては炭化水素の供給源になる.過去の生物生産量を反映するとされる堆積物中の有機炭素濃度について,日本海東縁とロシア沿海州沖で採取されたコアに記録された後期第四紀の変動を報告する.
メタンハイドレートの生成にはメタンが必要不可欠である.メタンは,堆積物中に含まれている有機物が熱分解生成(熱分解起源),及び,微生物活動により生成して(微生物起源),堆積物深部から表層へ上昇する.そこで,表層型メタンハイドレート賦存海域である日本海において,堆積物中の全有機炭素量(TOC),全窒素(TN),および全硫黄(TS)の3成分の濃度を測定し,有機炭素濃度の変動,および有機物の起源を明らかにする.
本研究で用いた試料は,日本海南部の隠岐トラフ(PC1606),新潟県沖の最上トラフ南部(PC1726),日本海北部の沿海州沖のプリモーリエ沖北部〜タタールトラフ(Lv81-35GC)の海域から採取した.各コアの年代幅はPC1606が59ka以降,PC1726が17ka以降,Lv81-35GCが42ka以降である.
分析には島根大学エスチュアリー研究センターに設置されているCNS分析装置を使用した.分析試料には,110℃のホットプレートで乾燥した約1gの堆積物試料を均質化するためにメノウ乳鉢で粉末化し,これから10mgを銀製の容器に取り分け,塩酸(3%)を滴下し炭酸塩成分を除去した後に蒸発乾固させた試料を錫製の容器で包んだものを用いた.各成分の濃度は乾燥試料中の重量%として求めた.
いずれのコアもTNとTOCの関係には良い相関が見られ,C/Nの値はほぼ6から10の間に収まっている.これは,どのコアの有機炭素も主に海洋プランクトン起源であることを示している.一方でTSとTOCの関係には相関が見られず,C/Sの値は0.2から10以上まで幅広い値を取る.硫黄の堆積物への固定は有機炭素とは異なる過程を経ていることがわかる.PC1606のTOC濃度変動は,6ka付近から現代までは2.4%程度で安定しているが,10ka前後に4%近いピークがあり,最終氷期最盛期にあたる20ka付近では1%前後の低い値となっている.最終氷期最盛期には日本海の循環が停滞して深層水が貧酸素化したことで,海洋表層から沈降した有機物が堆積物中に保存されやすい条件にあったが,この期間にTOC濃度が低下しているということは,日本海南部の基礎生産そのものが低下していたと考えられる.また,最終氷期以降の急激な温暖化に伴って日本海の循環が活発化し,深層の栄養塩が表層にもたらされたことで,10ka前後に一時的な基礎生産が増大した可能性がある.
最終氷期の海退期にあたる30から60kaにTOC濃度は1〜3.5%の範囲で変動しており増加と減少を繰り返している.ATテフラ層準の30kaにはTOC濃度が0.2%まで急激に落ち込み,その後3kyr程度の時間を要して1%代まで回復する.南九州で発生した巨大噴火が日本海南部の基礎生産に大きな影響を与えたことが明瞭である.テフラに随伴したTOC濃度の急減は10ka付近(U-Oki)や53ka付近(テフラ未同定)にも見られる.
上越沖の研究事例では,TOC濃度変動が全体的な古気候変動と同調していることが指摘されている(Urabe et al., 2014).隠岐トラフのPC1606に見られるTOC変動は,上越沖のTOC変動と酷似している.隠岐トラフと上越沖の基礎生産や有機物の保存条件は,少なくとも過去数万年間は同様な過程をたどったと考えられる.
一方,最上トラフ南部のPC1726や沿海州沖のLv81-35GCに記録されたTOC濃度変動は,最終氷期最盛期前後に1%程度の低い値を取る点はPC1606と一致するが,PC1606に見られた10ka前後のピークが不明瞭である.最終氷期最盛期には日本海全域で基礎生産量が低下したが,その後の温暖化に対する基礎生産の応答は海域によって異なっていた可能性がある.
メタンハイドレートの生成にはメタンが必要不可欠である.メタンは,堆積物中に含まれている有機物が熱分解生成(熱分解起源),及び,微生物活動により生成して(微生物起源),堆積物深部から表層へ上昇する.そこで,表層型メタンハイドレート賦存海域である日本海において,堆積物中の全有機炭素量(TOC),全窒素(TN),および全硫黄(TS)の3成分の濃度を測定し,有機炭素濃度の変動,および有機物の起源を明らかにする.
本研究で用いた試料は,日本海南部の隠岐トラフ(PC1606),新潟県沖の最上トラフ南部(PC1726),日本海北部の沿海州沖のプリモーリエ沖北部〜タタールトラフ(Lv81-35GC)の海域から採取した.各コアの年代幅はPC1606が59ka以降,PC1726が17ka以降,Lv81-35GCが42ka以降である.
分析には島根大学エスチュアリー研究センターに設置されているCNS分析装置を使用した.分析試料には,110℃のホットプレートで乾燥した約1gの堆積物試料を均質化するためにメノウ乳鉢で粉末化し,これから10mgを銀製の容器に取り分け,塩酸(3%)を滴下し炭酸塩成分を除去した後に蒸発乾固させた試料を錫製の容器で包んだものを用いた.各成分の濃度は乾燥試料中の重量%として求めた.
いずれのコアもTNとTOCの関係には良い相関が見られ,C/Nの値はほぼ6から10の間に収まっている.これは,どのコアの有機炭素も主に海洋プランクトン起源であることを示している.一方でTSとTOCの関係には相関が見られず,C/Sの値は0.2から10以上まで幅広い値を取る.硫黄の堆積物への固定は有機炭素とは異なる過程を経ていることがわかる.PC1606のTOC濃度変動は,6ka付近から現代までは2.4%程度で安定しているが,10ka前後に4%近いピークがあり,最終氷期最盛期にあたる20ka付近では1%前後の低い値となっている.最終氷期最盛期には日本海の循環が停滞して深層水が貧酸素化したことで,海洋表層から沈降した有機物が堆積物中に保存されやすい条件にあったが,この期間にTOC濃度が低下しているということは,日本海南部の基礎生産そのものが低下していたと考えられる.また,最終氷期以降の急激な温暖化に伴って日本海の循環が活発化し,深層の栄養塩が表層にもたらされたことで,10ka前後に一時的な基礎生産が増大した可能性がある.
最終氷期の海退期にあたる30から60kaにTOC濃度は1〜3.5%の範囲で変動しており増加と減少を繰り返している.ATテフラ層準の30kaにはTOC濃度が0.2%まで急激に落ち込み,その後3kyr程度の時間を要して1%代まで回復する.南九州で発生した巨大噴火が日本海南部の基礎生産に大きな影響を与えたことが明瞭である.テフラに随伴したTOC濃度の急減は10ka付近(U-Oki)や53ka付近(テフラ未同定)にも見られる.
上越沖の研究事例では,TOC濃度変動が全体的な古気候変動と同調していることが指摘されている(Urabe et al., 2014).隠岐トラフのPC1606に見られるTOC変動は,上越沖のTOC変動と酷似している.隠岐トラフと上越沖の基礎生産や有機物の保存条件は,少なくとも過去数万年間は同様な過程をたどったと考えられる.
一方,最上トラフ南部のPC1726や沿海州沖のLv81-35GCに記録されたTOC濃度変動は,最終氷期最盛期前後に1%程度の低い値を取る点はPC1606と一致するが,PC1606に見られた10ka前後のピークが不明瞭である.最終氷期最盛期には日本海全域で基礎生産量が低下したが,その後の温暖化に対する基礎生産の応答は海域によって異なっていた可能性がある.