日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS26] 南北両極のサイエンスと大型研究

2019年5月30日(木) 13:45 〜 15:15 303 (3F)

コンビーナ:野木 義史(国立極地研究所)、中村 卓司(国立極地研究所)、杉本 敦子(北海道大学 北極域研究センター)、杉山 慎(北海道大学低温科学研究所)、座長:末吉 哲雄(国立極地研究所)、野木 義史(国立極地研究所)

14:15 〜 14:30

[MIS26-03] グリーンランドおよび南極氷床の質量収支変動の理解に向けて

青木 輝夫1,2,4庭野 匡思4、*末吉 哲雄2,3 (1.岡山大学、2.情報・システム研究機構 国立極地研究所、3.国立研究開発法人 海洋研究開発機構、4.気象研究所)

キーワード:北極、南極、氷床、表面質量収支、領域気候システムモデル

グリーンランドと東西南極の氷床は地球最大の淡水貯蔵庫であり、これら氷床の変動は単に海水準のみならず、深層水形成の変調を通して全球の気候に影響を与えうる。そのため両極の氷床は地球環境の変動研究・予測において大きな重要性を持っている。

北極では温暖化増幅により気候変動の影響が最も顕著に現れ、グリーンランドでは90年代後半から急激な融解が進行しており、2012年には観測史上初めて、表面全面で融解が生じるイベントが生じた。原因としては、北極温暖化増幅による気温上昇を背景に、内陸涵養域では雪温の上昇に伴う積雪粒径の増加、沿岸涵養域では裸氷域及び暗色裸氷域の増加によってアルベドが低下したこと、さらに末端部では海水温上昇による質量損失の増加が加わっていると考えられる(Box, 2013; Fettweis et al., 2013; 青木, 2015)。

南極では、標高の低い西南極の地上気温が全球平均よりも速いペースで温暖化し、氷流の加速による顕著な質量損失が観測されている一方、東南極域の地上気温には統計的に有意なシグナルは検出されておらず(Steig et al., 2009 など)、質量収支の傾向もはっきりしていない。さらに温暖化トレンドと重なって気温や降水量が大きく年々変化する原因は、質量収支の理解する上で大きな不確実性となっている。

このような両極の研究の現状を踏まえた上で、今後の研究を進める上で必要なこととして、以下が考えられる(青木, 2015):AWS観測網の展開と継続、現地観測によるプロセス研究、雪氷表面の放射過程・積雪変質過程などの物理過程のモデル化と、それらを組み込んだ次世代の極域領域システムモデルの構築。さらに数値実験の結果を衛星観測と組み合わせて検証していくという方向性が必要であろう。これらの研究は部分的には既に研究に着手されており、必要なインフラの一部と関連する研究者を、日本と日本の研究者コミュニティは既に有している。このアドバンテージを活かすことが重要であると考える。