09:30 〜 09:45
[O07-03] 柱状節理の幾何パターン解析と澱粉ペーストによるアナログ実験
キーワード:火成岩、岩石の亀裂、乾燥ペースト、乾燥亀裂、多角形パターン
柱状節理とは、岩体を規則的に貫く角柱状の亀裂であり、マグマの冷却収縮と破断によって形成されたものである。その例としては、北アイルランドのGiant's Causewayやイギリス・スタファ島のFingal Cave、アメリカのDevil's Towerが世界的に有名であるほか、日本国内でも兵庫県の玄武洞で見ることができる。
柱状節理の特徴に関しては、地球物理分野での長年の研究によって様々な成果が報告されてきた。ただし、その形成メカニズムについては、理論予測を立証するだけの明確な結果が得られているとは言い難い。その主な原因は、柱状節理の再現実験が困難である点にあった。しかし近年になって、柱状節理と類似した規則的な亀裂構造を、身近な材料を使って極めて容易に実現できることが発見された。その材料とは、澱粉の粉と水を混ぜて出来る澱粉ペーストである。
澱粉ペーストを用いた柱状節理のアナログ実験は、以下の方法で行うことができる。まず澱粉粉と少量の水をよく混合して、ペースト状にする。次にこのペーストを容器に流し込み、ペーストの表面に白熱灯の光を照射して、そのまま長時間放置する。すると、表面部分からの水分蒸発に伴い、ペースト表面が乾燥してひび割れを起こす。さらに時間が経過すると、この表層のひび割れはペースト内部に向かって徐々に進展し、結果的にペースト全体を規則的に貫く角柱構造が形成される。さらに完全乾燥後のペースト表面には、柱状節理と同様、網目状の多角形模様が発生するのである。
柱状節理と澱粉ペースト。この2つの系は、化学組成・長さスケール・亀裂発生要因の全てが明らかに異なっている。それにも関わらず、なぜ類似した角柱状の亀裂が形成されるのだろうか?その詳細な理解は未だ確立していない。そこで本研究では、柱状節理と乾燥澱粉ペーストの両者について、媒質表面を覆う多角形パターンの統計的性質を調査し、その物理的起源の推定を試みた。具体的に測定・解析した幾何学量は、網目パターンを構成する多角形のセル面積(=亀裂で囲まれた領域の面積)・頂点数・辺の長さ・亀裂の接合角度の4つである。柱状節理と澱粉ペーストのどちらに対しても、網目パターンが露出した媒質表面を撮影し、その画像データを地理座標システムArcGISにより解析することで、上記の幾何学量の統計分布を算出した。
柱状節理の撮影は、以下に示す4つの調査地で行った: (1)沖縄県久米島町の「畳石」、(2)山口県萩市の「畳ヶ淵」、(3)静岡県下田市の「俵磯」、(4)島根県出雲市日御碕。これら4つの地点で見られる柱状節理は、いずれも露頭表面がほぼ平らである。よって、ドローンを用いて露頭全体を撮影した際に、得られる画像の歪みが抑えられるため、多角形パターンの解析に適した調査地と考えた。さらに、岩石の組成が地点ごとに異なる― 畳石・俵磯は安山岩質、畳ヶ淵は玄武岩質、日御碕は流紋岩質の柱状節理であることが知られている。すなわち、岩石中に含まれる二酸化ケイ素の含有率が異なるため、固化する前の段階におけるマグマの粘性と熱拡散係数が、地点ごとに異なったと推察される。この相違が、網目パターンの統計的性質に与える影響の有無に注目して、画像解析と考察を行った。
澱粉ペーストの乾燥亀裂実験においては、構成粒子のサイズ分布幅と形状(真球度)の違いが、亀裂パターンの幾何形状に与える効果を精査した。用いた澱粉は、コーンスターチと片栗粉の2種類である。これら2つは粒子形状とサイズ分布が有意に異なるため、上記の目的に見合うモデル物質といえる。さらに、乾燥させるペースト試料の厚さを4段階に変化させることで、ペースト膜厚と亀裂パターンとの相関有無を調べた。
まず柱状節理のセル面積については、調査地によって平均値が1桁以上異なることがわかった。粘性の高い流紋岩で構成される日御碕では平均値がおよそ0.007 m2(直径0.1 m程度)だったのに対し、粘性の低い玄武岩で構成される畳ヶ淵ではおよそ0.7 m2(直径0.9 m程度)であった。いっぽう、澱粉ペーストで観察される亀裂パターンのセル面積は、片栗粉ペーストの場合のみ、膜厚の増加に従ってセル面積が増大した。この後者の実験結果は、粒子間隙を伝う水の拡散過程、および表面からの水分蒸発に伴う水分濃度の空間不均一性から説明することができる。水分の拡散と濃度分布は、ペーストを構成する粒子のサイズと形状が直接影響する物理量である。このことから、乾燥亀裂パターンの幾何形状は、構成粒子のサイズと形状に強く依存することが明らかとなった。次に、多角形の頂点数については、柱状節理で五角形・六角形が同じ程度に頻出する一方で、澱粉ペーストでは五角形のみが頻出した。この結果は、冷却・乾燥速度の相違によって解釈できる。さらに、セル面積の分布曲線に対してフィッティング解析をした結果、どちらの系もガンマ分布(指数分布を一般化した確率分布)にのることが明らかになった。このことは、マグマの冷却収縮とペーストの乾燥収縮の両者に共通する、統一的なパターン形成機構の存在を示唆するものである。結果の詳細およびその解釈は、当日の講演に譲る。
柱状節理の特徴に関しては、地球物理分野での長年の研究によって様々な成果が報告されてきた。ただし、その形成メカニズムについては、理論予測を立証するだけの明確な結果が得られているとは言い難い。その主な原因は、柱状節理の再現実験が困難である点にあった。しかし近年になって、柱状節理と類似した規則的な亀裂構造を、身近な材料を使って極めて容易に実現できることが発見された。その材料とは、澱粉の粉と水を混ぜて出来る澱粉ペーストである。
澱粉ペーストを用いた柱状節理のアナログ実験は、以下の方法で行うことができる。まず澱粉粉と少量の水をよく混合して、ペースト状にする。次にこのペーストを容器に流し込み、ペーストの表面に白熱灯の光を照射して、そのまま長時間放置する。すると、表面部分からの水分蒸発に伴い、ペースト表面が乾燥してひび割れを起こす。さらに時間が経過すると、この表層のひび割れはペースト内部に向かって徐々に進展し、結果的にペースト全体を規則的に貫く角柱構造が形成される。さらに完全乾燥後のペースト表面には、柱状節理と同様、網目状の多角形模様が発生するのである。
柱状節理と澱粉ペースト。この2つの系は、化学組成・長さスケール・亀裂発生要因の全てが明らかに異なっている。それにも関わらず、なぜ類似した角柱状の亀裂が形成されるのだろうか?その詳細な理解は未だ確立していない。そこで本研究では、柱状節理と乾燥澱粉ペーストの両者について、媒質表面を覆う多角形パターンの統計的性質を調査し、その物理的起源の推定を試みた。具体的に測定・解析した幾何学量は、網目パターンを構成する多角形のセル面積(=亀裂で囲まれた領域の面積)・頂点数・辺の長さ・亀裂の接合角度の4つである。柱状節理と澱粉ペーストのどちらに対しても、網目パターンが露出した媒質表面を撮影し、その画像データを地理座標システムArcGISにより解析することで、上記の幾何学量の統計分布を算出した。
柱状節理の撮影は、以下に示す4つの調査地で行った: (1)沖縄県久米島町の「畳石」、(2)山口県萩市の「畳ヶ淵」、(3)静岡県下田市の「俵磯」、(4)島根県出雲市日御碕。これら4つの地点で見られる柱状節理は、いずれも露頭表面がほぼ平らである。よって、ドローンを用いて露頭全体を撮影した際に、得られる画像の歪みが抑えられるため、多角形パターンの解析に適した調査地と考えた。さらに、岩石の組成が地点ごとに異なる― 畳石・俵磯は安山岩質、畳ヶ淵は玄武岩質、日御碕は流紋岩質の柱状節理であることが知られている。すなわち、岩石中に含まれる二酸化ケイ素の含有率が異なるため、固化する前の段階におけるマグマの粘性と熱拡散係数が、地点ごとに異なったと推察される。この相違が、網目パターンの統計的性質に与える影響の有無に注目して、画像解析と考察を行った。
澱粉ペーストの乾燥亀裂実験においては、構成粒子のサイズ分布幅と形状(真球度)の違いが、亀裂パターンの幾何形状に与える効果を精査した。用いた澱粉は、コーンスターチと片栗粉の2種類である。これら2つは粒子形状とサイズ分布が有意に異なるため、上記の目的に見合うモデル物質といえる。さらに、乾燥させるペースト試料の厚さを4段階に変化させることで、ペースト膜厚と亀裂パターンとの相関有無を調べた。
まず柱状節理のセル面積については、調査地によって平均値が1桁以上異なることがわかった。粘性の高い流紋岩で構成される日御碕では平均値がおよそ0.007 m2(直径0.1 m程度)だったのに対し、粘性の低い玄武岩で構成される畳ヶ淵ではおよそ0.7 m2(直径0.9 m程度)であった。いっぽう、澱粉ペーストで観察される亀裂パターンのセル面積は、片栗粉ペーストの場合のみ、膜厚の増加に従ってセル面積が増大した。この後者の実験結果は、粒子間隙を伝う水の拡散過程、および表面からの水分蒸発に伴う水分濃度の空間不均一性から説明することができる。水分の拡散と濃度分布は、ペーストを構成する粒子のサイズと形状が直接影響する物理量である。このことから、乾燥亀裂パターンの幾何形状は、構成粒子のサイズと形状に強く依存することが明らかとなった。次に、多角形の頂点数については、柱状節理で五角形・六角形が同じ程度に頻出する一方で、澱粉ペーストでは五角形のみが頻出した。この結果は、冷却・乾燥速度の相違によって解釈できる。さらに、セル面積の分布曲線に対してフィッティング解析をした結果、どちらの系もガンマ分布(指数分布を一般化した確率分布)にのることが明らかになった。このことは、マグマの冷却収縮とペーストの乾燥収縮の両者に共通する、統一的なパターン形成機構の存在を示唆するものである。結果の詳細およびその解釈は、当日の講演に譲る。