[PCG23-P06] 紫外波長域スペクトルを用いた天体表面の有機物同定における宇宙風化の影響
キーワード:星間塵、フォボス、多環芳香族炭化水素、宇宙風化
天体表面の組成同定に反射スペクトルの解析は常套手段と考えられているが、紫外光領域でのスペクトルの解析がなされた例は少ない。星間塵の吸収スペクトルや火星の衛星フォボスの紫外線反射スペクトルの解析から、多環芳香族炭化水素(PAH)の存在が示唆されている報告もあるが、追試は不十分である。地球上に存在する種々のPAHを含む混合物と星間塵やフォボスのスペクトルを比較すると、それぞれ波長210nmと217.5nm付近に輪郭の似た吸収帯が存在する。この吸収帯の類似性が星間塵やフォボス表面に PAH が存在するという仮説の根拠とされる。一方で、吸収帯のピーク波長が異なる点を問題視し、この類似性を根拠に吸収帯を PAH 由来だとする考えに否定的な意見も多くあり、現在まで決定的な結論は出ていない。この問題に対し、説明を与えうる現象の一つとして、宇宙風化に伴う吸収スペクトル変化がある。PAHのもつ波長210nm 付近の吸収帯は芳香族性π電子の遷移に起因しており、芳香環が分子内に多数結合し、芳香族性π電子の軌道領域が大きい分子に対して顕著に表れる。PAH分子の芳香環に結合する水素原子が宇宙風化作用によって脱離した場合、芳香族性π電子の軌道領域が拡大し波長210nm 付近のピークはフォボスのピークに近づくことが理論的に示唆されている。本研究では、宇宙風化作用が PAH の光学特性に与える影響を評価するため、国際宇宙ステーションきぼう実験棟簡易曝露実験装置ExHAM利用研究テーマ「 炭素質固体微粒子の宇宙風化と有機物進化の実証研究」においてExHAMに搭載され、約1年間軌道上の宇宙環境に曝露された数種のPAH試料と非曝露の比較用試料の反射特性を100-300nmの波長域において比較した。その結果として宇宙風化後の試料は波長210-300nmの範囲では反射が抑えられることが解った。今回の発表では、この結果の評価と考察を主点に置き議論を行う。