日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-EM 太陽地球系科学・宇宙電磁気学・宇宙環境

[P-EM15] 太陽地球系結合過程の研究基盤形成

2019年5月30日(木) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:山本 衛(京都大学生存圏研究所)、小川 泰信(国立極地研究所)、野澤 悟徳(名古屋大学宇宙地球環境研究所)、吉川 顕正(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)

[PEM15-P06] 北欧に展開された流星レーダーによる両極性拡散係数の異常増大の時間・空間分布の研究

*高橋 透1堤 雅基1,2小川 泰信1,2,3野澤 悟徳3Hall Chris4宮岡 宏1,2 (1.国立極地研究所、2.総合研究大学院大学、3.名古屋大学宇宙地球環境研究所、4.ノルウェー北極大学TGO)

キーワード:流星レーダー、トロムソ、EISCATレーダー

流星レーダーは高度75-100 kmの流星飛跡からの反射波を観測し、そのドップラーシフトから風速測定を推定している(Hall et al., 2005)。それに加えて、反射波の強度減衰から両極性拡散係数も推定することができる。両極性拡散係数はイオン温度と電子温度に依存する係数ではあるが、イオンと電子が中性大気と衝突を介してほぼ熱平衡状態にあると考えられるため、中性大気温度を推定する情報源として活用されている。しかし、近年、国立極地研究所と名古屋大学の研究グループによってノルウェー・トロムソ(北緯69.6度、東経19.2度)に設置された流星レーダーで中性大気温度変動では説明できないほどの両極性拡散係数の増大現象(以下、異常増大)が見出された。
 これまでの研究では、トロムソ流星レーダーで観測された異常増大とEISCAT(European Incoherent Scatter)レーダーで観測されたイオン速度及びイオン・電子温度とを比較した(堤他, 平成28年度大気圏シンポプロシーディングス, 2017)。これによると、イオン速度と電子温度の増大と同時に異常増大が観測されるケースが多く、特に16 UTに集中して異常増大が発生していることが分かっている。また、1例ではあるが高エネルギー粒子の降り込みとの比較も行われた。2012年11月17日に発生した高エネルギー粒子の降り込みイベント時には異常増大は観測されなかった。これらのことから高エネルギー粒子の降り込みは異常増大の生成に大きく寄与をしていないものと考えられる。以上のように異常増大の基本的な描像は理解されつつあるが、トロムソの1地点の観測データでしか調査が行われていないため、その生成メカニズムの理解は未だ不十分である。異常増大のメカニズムを理解するためには異常増大の広域観測データと対流電場などのグルーバルな現象とを比較する必要がある。しかし、極域の広範囲において、両極性拡散係数の異常増大が発生しやすい緯度帯及び時間帯の知見は、これまでに得られていない。
 北極域ノルウェー・トロムソ、ベアアイランド(北緯74.5度、東経19.0度)、ロングイヤビン(北緯78.2度、東経16.2度)には流星レーダーがほぼ同一経度線上設置されており、異常増大の空間分布の導出が可能である。これらの3つの流星レーダーは、アンテナはノルウェー北極大学製、コントロール系がATRAD製である(Nozawa et al., 2012, JGR; Hall et al., 2002, GRL, Hall et al., 2006, JASTP)。本研究ではこの3つの流星レーダーを使って異常増大の空間分布及び発生確率の空間分布を導出した。トロムソ、ベアアイランド、ロングイヤビンのそれぞれの観測点において、20-22, 19-21, 16-19 MLT(~UT+3)に発生頻度の極大が現れており、高緯度ほど異常増大が早い時間帯にピークを持っていた。また、この発生確率のピークはベアアイランのみで朝側2-6 MLTにも見られた。
地磁気活動度で発生確率を分類すると、Kp>3の時の夕側の異常増大の発生頻度のピーク時間が17-21, 15-19, 12-16 MLTと早い時間に異常増大の発生頻度のピークがシフトすることがわかった。また、3つの観測点すべてで朝側にも発生確率のピークが出現し、それぞれの観測点で3-5, 4-8, 7-10 MLTとなり、夕側とは反対に低緯度から順にピークを迎えることが分かった。さらに、トロムソ天頂から約100 km低緯度側では19-21 MLTに約90%高い確率で異常増大が発生していた。地磁気活動度が活発な時に見られるこの特徴は対流電場の地磁気活動依存性と良い一致をする。
 この一方で、地磁気擾乱時に朝側に見られる異常増大の発生頻度のピークは夕方側に比べて低い。これは、強い電場とともに出現するアーク状のオーロラが主に夕側付近に出現し、朝側では強い電場を伴わない脈動オーロラやパッチ状のオーロラが主に出現することに関連していると考えられる。即ち、異常増大は対流電場とオーロラの双方に影響を受け出現していると考えられる。
 本発表では、異常増大の緯度分布、磁気地方時、地磁気活動度依存性についての解析結果を述べるとともに、EISCATレーダーとESRによって観測された電場強度との定量的な比較についても報告する予定である。