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[PPS07-02] 南極氷中に含まれる可溶性有機物の検出のための氷昇華手法の確立
現在の地球は生命の宿る惑星であるが、太陽に近く比較的高温な内惑星領域は揮発性成分に欠乏していることから、水や有機物などの揮発性成分を外部から供給するメカニズムが必要である。近年の外惑星や彗星などの探査によって、内惑星領域と比べてより低温な外惑星領域においては、水や有機物などの揮発成分が豊富に存在することが判明している。このことから、エッジワースカイパーベルト天体などの外惑星領域に存在する小天体の理解において、有機物の存在は無視することができないことがわかる。その領域の試料を地球上で手に入れる手段として、南極微隕石と呼ばれるものがある[1]。惑星間空間には惑星間塵と呼ばれる小惑星や彗星などの太陽系小天体から放出された塵が漂っており、その塵が地球に落下してきたものを微隕石と呼び、特に南極に落下してきたものを前述のように呼ぶ。その大きさは2 mm以下の塵と定義されており、その降下量は年間で過去の研究において数万トンと見積もられ、隕石の年間降下量の約10倍以上となっている[2]。塵中には可溶性有機物ならびにケロジェン質の不溶性有機物が存在しているため、内惑星領域への水や有機物などの揮発性成分の供給に貢献したのは、隕石よりも微隕石の寄与が大きいのではないかと考えられている[3]。
宇宙塵の有機化学的特徴を理解するために、我々は南極で採集された微隕石中の可溶性有機物の検出を目指している。前述のように、不溶性有機物はケロジェン質のため構造決定が困難であるが、可溶性有機物は分子量が小さく構造決定が可能なため、太陽系外縁部の低温環境中での物質進化(化学反応)をより具体的に解明する鍵となりうる。先行研究においては氷を融解した水を濾過してサンプルを回収しており、SOMについて始原的微隕石起源であると断定できる分子種は特定できなかった[4、5]。本研究ではサンプル回収の際に可溶性有機物の流出を防ぐため、南極から回収された氷床起源氷をそのまま昇華させた。氷昇華用装置は-70.0℃まで到達可能な恒温槽内に数Paまで到達可能な真空チェンバーを設置したものである。氷が減圧前に溶解してしまうのを防ぐため、恒温槽の温度設定を-10.0℃にし、真空チェンバー全体、南極氷支持用冶具及び昇華残留物回収用シャーレを事前に冷却、その後氷をセットし減圧を行った。昇華の効率を上げるために、80 Pa程度にまで減圧してから恒温槽の温度を40.0℃に設定した。
上記の機器を用いて試験的に330g相当の南極氷を昇華させ、得られた残留物を実体顕微鏡で観察した。昇華残留物の大部分を占めていたのは白色の結晶であった。その一部をSEM-EDSによって観察した結果、それらはNaおよびCl、Ca、C、Oなどの元素から成っている事が分かった。元素組成から判断して海洋性もしくは大陸性エアロゾルと考えられる[6]。また、今回の試験で得られた昇華残留物中にMg、Feを含むケイ酸塩鉱物からなる粒子が見つかった。この組成は南極微隕石とよく一致している[7]。今後µ-FTIRやµ-Raman、DESI-Orbitrap MASなどの手法を経て微隕石であるという確証を得るとともに、主に不溶性有機物の重合度や可溶性有機物の同定など、多面的にサンプルの分析を行っていく予定である。
参考文献
[1] Noguchi T. et al. (2015) Earth Planet. Sci. Lett. 410, 1-11.
[2] Yada T., et al. (2004) Earth Planets, Space 56, 67-79.
[3] Chyba C. and Sagan C. (1992) Nature 355, 125-132.
[4] Yamamoto K. (2018) Master Thesis, depart. Chemist., Grad. Sch. Sci., Univ. Tokyo.
[5] Duprat, J. et al. (2007) Adv. Space Res. 39, 605–611.
[6] Bigler M., R. et al. (2006) J. Geophys. Res. 111, D08205.
[7] M. J. Genge., et al. (2008) Meteoritics Planet. Sci. 43, 497-515.
宇宙塵の有機化学的特徴を理解するために、我々は南極で採集された微隕石中の可溶性有機物の検出を目指している。前述のように、不溶性有機物はケロジェン質のため構造決定が困難であるが、可溶性有機物は分子量が小さく構造決定が可能なため、太陽系外縁部の低温環境中での物質進化(化学反応)をより具体的に解明する鍵となりうる。先行研究においては氷を融解した水を濾過してサンプルを回収しており、SOMについて始原的微隕石起源であると断定できる分子種は特定できなかった[4、5]。本研究ではサンプル回収の際に可溶性有機物の流出を防ぐため、南極から回収された氷床起源氷をそのまま昇華させた。氷昇華用装置は-70.0℃まで到達可能な恒温槽内に数Paまで到達可能な真空チェンバーを設置したものである。氷が減圧前に溶解してしまうのを防ぐため、恒温槽の温度設定を-10.0℃にし、真空チェンバー全体、南極氷支持用冶具及び昇華残留物回収用シャーレを事前に冷却、その後氷をセットし減圧を行った。昇華の効率を上げるために、80 Pa程度にまで減圧してから恒温槽の温度を40.0℃に設定した。
上記の機器を用いて試験的に330g相当の南極氷を昇華させ、得られた残留物を実体顕微鏡で観察した。昇華残留物の大部分を占めていたのは白色の結晶であった。その一部をSEM-EDSによって観察した結果、それらはNaおよびCl、Ca、C、Oなどの元素から成っている事が分かった。元素組成から判断して海洋性もしくは大陸性エアロゾルと考えられる[6]。また、今回の試験で得られた昇華残留物中にMg、Feを含むケイ酸塩鉱物からなる粒子が見つかった。この組成は南極微隕石とよく一致している[7]。今後µ-FTIRやµ-Raman、DESI-Orbitrap MASなどの手法を経て微隕石であるという確証を得るとともに、主に不溶性有機物の重合度や可溶性有機物の同定など、多面的にサンプルの分析を行っていく予定である。
参考文献
[1] Noguchi T. et al. (2015) Earth Planet. Sci. Lett. 410, 1-11.
[2] Yada T., et al. (2004) Earth Planets, Space 56, 67-79.
[3] Chyba C. and Sagan C. (1992) Nature 355, 125-132.
[4] Yamamoto K. (2018) Master Thesis, depart. Chemist., Grad. Sch. Sci., Univ. Tokyo.
[5] Duprat, J. et al. (2007) Adv. Space Res. 39, 605–611.
[6] Bigler M., R. et al. (2006) J. Geophys. Res. 111, D08205.
[7] M. J. Genge., et al. (2008) Meteoritics Planet. Sci. 43, 497-515.