日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG58] 脆性延性境界と超臨界地殻流体:島弧地殻エネルギー

2019年5月30日(木) 13:45 〜 15:15 A09 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:土屋 範芳(東北大学大学院環境科学研究科環境科学専攻)、浅沼 宏(産業技術総合研究所・再生可能エネルギー研究センター)、小川 康雄(東京工業大学理学院火山流体研究センター)、長縄 成実(国立大学法人秋田大学)、座長:土屋 範芳岡本 敦

14:45 〜 15:00

[SCG58-05] 有馬-高槻断層帯に沿って分布する高塩分温泉水に含まれるアンモニウムイオンの窒素同位体比

*網田 和宏1中村 高志2大沢 信二3 (1.秋田大学大学院理工学研究科システムデザイン工学専攻土木環境工学コース、2.山梨大学大学院・国際流域環境研究センター、3.京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設(別府))

キーワード:窒素同位体比、アンモニウムイオン、高塩分温泉

近年,温泉とプレートの沈み込みにともなって発生すると考えられる深部流体(スラブ脱水流体)の関連についての研究が盛んである(例えば,風早ほか,2014;Kusuda et al., 2014).これまでに行われてきた研究の成果より,スラブ脱水流体はCO2に富んだNa-Cl組成の高塩分泉であることや,温泉に含まれるHeや炭素の同位体比がマントルと同等の値をもっていることなど,化学・同位体的な特徴が明らかにされてきた.しかし,窒素(アンモニウムイオン)に関しては,ほとんどの深部流体に含まれる成分でありながら,その性状や挙動を理解するための十分なデータが得られていない状況にある.

一方で,岩石に含まれる窒素に関する研究は1960年代から進められてきており,その濃度や同位体比に関する多くの知見が得られてきた.Häendel et al.(1986)は,堆積物から堆積岩を経て変成岩にいたる一連の変成作用の進行とともにアンモニウム態窒素の濃度および同位体比が系統的に変化していくことを指摘した.このときの結果は,変成度の進行に対して窒素濃度の低下がみられ,逆に窒素同位体比は増加していくというものであったが,近年,行われたいくつかの研究においても同様の傾向は確認されている(例えば,Gray and Marilyn, 1991,Yiefei, 2006).これに対し網田ら(2014)は,深部流体の生成に変成作用が関与している可能性を指摘しており,岩石と深部流体それぞれの窒素同位体比にみられる関係を明確にしていくことで,地下深部における窒素の挙動に関する知見が得られることが期待される.

そこで高塩分泉に含まれるアンモニウムイオンの窒素同位体比の測定に対する予察的な取り組みとして,有馬-高槻断層帯に沿って分布する高塩分泉の中から2か所の温泉を選出し採水調査および窒素同位体比の測定を行った.これらの温泉は,著者らが過去に調査・研究を行った温泉であり(大沢ほか,2015),その化学・同位体的性状についてよく理解されている温泉である.

現地において採取された温泉水試料は,生物活動を抑制するため直ちに冷却・冷凍し分析の直前まで保管した.アンモニウムイオンの窒素安定同位体比の測定のための前処理は,溶存有機性窒素の分解による測定阻害が抑制できるアンモニア気散法を用いた.密閉したバイアル瓶内で試料水をアルカリ性にし,アンモニウムイオンをアンモニアガスとして気散させ,希硫酸で酸性にした濾紙へ回収したものを,元素分析系直結型安定同位体比質量分析計(Sercon社製, ANCA-GSL with Hydra20-20)を用いて測定した.分析の結果,2か所の温泉水試料の窒素同位体比として+13.3(‰),+12.8(‰)という結果を得た.これらの値はブランク補正前の値であることから,細かい値の評価については今後,検討すべき点を残しているが,溶存成分の総量が数万ppmを超えるような高塩分泉についても窒素同位体比の測定が問題なく行えることが確認された.