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[SEM18-08] ポケットサイズの磁気回路を用いた反磁性粒子および常磁性粒子の磁気分離と物質同定
キーワード:磁気分離、反磁性体、常磁性体
一方向に減少する定常磁場を希薄空間の中に設定し、その中の一点で種類の異なる反磁性粒子の集団を開放すると、それらの粒子は、物質ごとの集団に分かれて、磁場が減少する方向に並進する[1]。ここで並進する粒子にエネルギー保存則を適応すると、初速度ゼロで開放した粒子の速度は、その質量に依存せず、物質固有の磁化率と、初期位置の磁場強度のみに依存することが導かれる。さらに並進速度から得た磁化率を、文献値の一覧表と比較することで、その物質の種類を非破壊で識別できることが、様々な物質で示された[1]。
従来の磁気分離は、強い磁性を帯びた物質の抽出に限定され、その適応範囲を物質全体に拡張する試みは、(磁気ビーズ付着による間接的な方法を除き)これまでなかった。一方、自然界に存在する物質の多くは反磁性体あるいは弱い常磁性体であり、それらは物質ごとに固有の磁化率を有している。従ってこの磁化率の差異による分離&同定を提案する事ができる。
これまで当グループで報告した磁気分離は、微小重力条件で行われてきたが、今回、新規に開発した小型の装置(4x8x5cm)を用いることで、分離と同定が地上重力条件でも実現した[2]。この装置では、磁化率が-50x10-7emu/gから+300x10-7 emu/gの粒子について、磁気力と重力を重畳させた放物線運動が観測できる。すなわち携帯可能な小型の装置で、自然界に存在する大多数の反磁性&常磁性粒子が分離・識別できる[2]。異種粒子の混合体の精密分析は、地球惑星科学のフィールド活動において重要である。従ってこの装置は、その前処理技術として、有機化学・生化学におけるクロマトグラフ技術と同等の潜在性を有する。
今回開発した装置は小型かつ堅牢であり、さらに原理が単純なことから、地球上や太陽系空間を対象とした無人探査機に搭載する装置としても有用である。ただし自然界に存在する固体粒子の大多数は、地球の寒冷地や太陽系外縁部などに存在する低温固体である。そこで、これらの物質の磁気並進の特性を実証するため、これまでに氷やドライアイスの並進をT = 200Kの条件で観測した[3]。さらにCO,エタン、メタンおよび窒素粒子の観測をT = 100K以下の条件で進めている (JpGU 2019で報告予定)。
これと並行して、従来の微小重力条件の装置に高速度カメラを導入することで、物質同定の分解能を大きく向上させた。具体的には粒子の磁気並進速度の精度が向上した事で、得られるχ値の精度が向上し、識別可能な物質の種類が格段に増加した。今回の成果を基盤として、磁気分離の分解能を、磁化率の差異に換算して10-9emu/gレベルまで向上できれば、将来的には現存するほぼ全ての物質が識別可能となる(JpGU2019で報告予定)。これにより、化学組成、赤外スペクトル加え、磁化率をという新たな物性値による同定法への展望が得られる。
[1] Uyeda, Terada, Hisayoshi, (2019) Sci., Reps., in print.
[2] Hisayoshi, Uyeda & Terada (2016) Sci., Reps., 6, 38431.
[3] Yamaguchi, Hisayoshi, Uyeda & Terada (2017) J. Phys., Conf. Ser.903, 012026.
従来の磁気分離は、強い磁性を帯びた物質の抽出に限定され、その適応範囲を物質全体に拡張する試みは、(磁気ビーズ付着による間接的な方法を除き)これまでなかった。一方、自然界に存在する物質の多くは反磁性体あるいは弱い常磁性体であり、それらは物質ごとに固有の磁化率を有している。従ってこの磁化率の差異による分離&同定を提案する事ができる。
これまで当グループで報告した磁気分離は、微小重力条件で行われてきたが、今回、新規に開発した小型の装置(4x8x5cm)を用いることで、分離と同定が地上重力条件でも実現した[2]。この装置では、磁化率が-50x10-7emu/gから+300x10-7 emu/gの粒子について、磁気力と重力を重畳させた放物線運動が観測できる。すなわち携帯可能な小型の装置で、自然界に存在する大多数の反磁性&常磁性粒子が分離・識別できる[2]。異種粒子の混合体の精密分析は、地球惑星科学のフィールド活動において重要である。従ってこの装置は、その前処理技術として、有機化学・生化学におけるクロマトグラフ技術と同等の潜在性を有する。
今回開発した装置は小型かつ堅牢であり、さらに原理が単純なことから、地球上や太陽系空間を対象とした無人探査機に搭載する装置としても有用である。ただし自然界に存在する固体粒子の大多数は、地球の寒冷地や太陽系外縁部などに存在する低温固体である。そこで、これらの物質の磁気並進の特性を実証するため、これまでに氷やドライアイスの並進をT = 200Kの条件で観測した[3]。さらにCO,エタン、メタンおよび窒素粒子の観測をT = 100K以下の条件で進めている (JpGU 2019で報告予定)。
これと並行して、従来の微小重力条件の装置に高速度カメラを導入することで、物質同定の分解能を大きく向上させた。具体的には粒子の磁気並進速度の精度が向上した事で、得られるχ値の精度が向上し、識別可能な物質の種類が格段に増加した。今回の成果を基盤として、磁気分離の分解能を、磁化率の差異に換算して10-9emu/gレベルまで向上できれば、将来的には現存するほぼ全ての物質が識別可能となる(JpGU2019で報告予定)。これにより、化学組成、赤外スペクトル加え、磁化率をという新たな物性値による同定法への展望が得られる。
[1] Uyeda, Terada, Hisayoshi, (2019) Sci., Reps., in print.
[2] Hisayoshi, Uyeda & Terada (2016) Sci., Reps., 6, 38431.
[3] Yamaguchi, Hisayoshi, Uyeda & Terada (2017) J. Phys., Conf. Ser.903, 012026.