日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-EM 固体地球電磁気学

[S-EM18] 地磁気・古地磁気・岩石磁気

2019年5月26日(日) 10:45 〜 12:15 A08 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:清水 久芳(東京大学地震研究所)、佐藤 雅彦(東京大学地球惑星科学専攻学専攻)、座長:北原 優(九州大学大学院比較社会文化研究院)、清水 久芳(東京大学地震研究所)

11:30 〜 11:45

[SEM18-10] 磁鉄鉱離溶相と斜長石結晶に関する鉱物学的研究

*田村 裕二郎1中田 亮一2佐藤 雅彦3山本 伸次4 (1.横浜国立大学環境情報学府自然環境専攻、2.海洋研究開発機構高知コア研究所、3.東京大学地球惑星科学専攻、4.横浜国立大学大学院環境情報研究院)

キーワード:Magenite exsolution、斜長石

斜長石結晶中には細粒な磁鉄鉱離溶相が存在することから、磁場情報の優良な記録媒体であると考えられ、近年では磁鉄鉱を含む斜長石単結晶を用いた古地磁気測定が行われている(Kato et al., 2018など)。信頼度の高い古地磁気強度記録を得るためには試料中に含まれる磁性鉱物の成因の情報が不可欠であるが、斜長石中の磁鉄鉱離溶相の成因についてはほとんど未解明である。磁鉄鉱離溶相は全ての斜長石中に普遍的には存在しておらず、また磁鉄鉱離溶相を含む斜長石単結晶中でもその存在量や形態は一様ではない。斜長石中での磁鉄鉱離溶相は、温度低下による斜長石への鉄の最大固溶量の低下により形成され、全岩組成および斜長石中の鉄濃度によってその形成は制限される。また、磁鉄鉱は鉄の2価と3価を含むため、斜長石中の鉄の価数によっても制限される。本研究で、斜長石単結晶の波動累帯構造に沿って磁鉄鉱離溶相の存在に差が見られる丹沢複合岩体における道志はんれい岩について、斜長石中に含まれる磁鉄鉱離溶相と斜長石の関係について鉱物学的な研究を行った。
試料は、丹沢トーナル岩複合岩体の北西に位置する道志岩体中央部のはんれい岩を用い、ミクロン~サブミクロンスケールの磁鉄鉱離溶相を観察するため両面鏡面研磨の岩石薄片を作成したのち、光学顕微鏡下での観察・モード比測定および電界放出型電子プローブマイクロアナライザでの斜長石の組成決定をおこなった。また、SPring 8のBL37XUにて鉄K端X線吸収端近傍構造(XANES)測定、および詳細なカルシウム、鉄の元素マッピングをおこなった。
光学顕微鏡観察から、1方向に配列した最大数ミクロンの磁鉄鉱が観察され、その形状はラグビーボール状のものがほとんどであった。光学顕微鏡観察と元素マッピングの結果より、斜長石は複数回の波動累帯構造をしており、アノーサイト成分の少ない領域において磁鉄鉱離溶相が多く存在することがわかった。鉄の濃度は、多少の増減はあるが斜長石のリム以外ではおおよそ均質であると考えられる。K端XANES測定より、斜長石中の鉄の価数に関しては、コアからリムまで2.47~2.55となっており、アノーサイト成分との正の相関が見られた。
斜長石の累帯構造は、その晶出過程を見ていると考えられ、一般に一度の晶出でアノーサイト成分に富む斜長石から晶出し、次第にアルバイト成分に富む斜長石が晶出していく。斜長石には鉄の2価に比べ3価の方が分配されやすく(Lundgaard & Tegner, 2004)、今回得られたアノーサイト成分と鉄の価数の正の相関は、晶出の前半であると考えられる累帯構造中のアノーサイトの多い領域には鉄の3価が優先的に分配され、その後に晶出するアノーサイト成分の少ない領域は、相対的に鉄の2価が多く分配されることで形成されたと考えられる。累帯構造の形成に伴ってアノーサイト成分と含まれる鉄の価数が変化しているため、累帯構造の一部において磁鉄鉱が離溶する適切な条件を満たしていると考えられる。今回の観察で得られた結果は、斜長石単結晶においても成因の異なる磁鉄鉱離溶相が存在することを示唆し、磁鉄鉱離溶相を含む斜長石単結晶を古地磁気強度研究では鉱物学的情報が必要不可欠であると考えられる。