日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP32] 変形岩・変成岩とテクトニクス

2019年5月29日(水) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:針金 由美子(産業技術総合研究所)、中村 佳博(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター)

[SMP32-P03] 南インド・トリバンドラム岩体にみられる長時間(>9000万年)のグラニュライト相変成作用

*門脇 ひかる1角替 敏昭2Santosh M.3Shaji E.4高村 悠介5堤 之恭6 (1.筑波大学生命環境科学研究科地球科学専攻、2.筑波大学生命環境系、3.School of Earth Sciences and Resources, China University of Geosciences Beijing、4.Department of Geology, University of Kerala、5.筑波大学生命環境科学研究科地球進化科学専攻、6.国立科学博物館地学研究部)

キーワード:トリバンドラム岩体、温度―圧力―時間経路、超高温変成作用、鉱物平衡モデリング、U-Pb年代分析

南インドグラニュライト地塊は太古代〜新原生代の様々な微小大陸や火山弧が、後期新原生代〜カンブリア紀のゴンドワナ超大陸形成に伴う複雑な沈み込み―付加―衝突による高度変成作用を受けたことにより形成された。トリバンドラム岩体はインドの南端に位置し、主要な構成岩相は変堆積岩と正片麻岩である。このような高度変成岩体の変成温度―圧力―時間経路を求めることはゴンドワナ大陸衝突における変成過程を明らかにする上で重要である。トリバンドラム岩体の温度―圧力経路に関する先行研究は多く、現在も議論が続いている。Morimoto et al. (2004)やTadokoro et al. (2008)などはピーク変成条件が950 °Cを超え、12 kbarに達するとし、超高温変成作用を示唆した。一方でNandakumar and Harley (2000)やPattison et al. (2003)などは800-900 °C、4.5-6.0 kbarと、低い温度圧力条件を示している。先行研究で報告されているトリバンドラム岩体のピーク変成年代にも約600-510 Maと幅がある (Santosh et al., 2005, Harley and Nandakumar, 2014, Blereau et al., 2016など)。以上のことから、トリバンドラム岩体が温度圧力幅のある1回の変成作用を経たのか800-900 °Cと950 °C以上の2回の独立した変成作用を経たのかは議論の余地がある。そこで、本研究ではトリバンドラム岩体西部から採集したコンダライト、チャノッカイト、およびチャノッカイトの脱色帯の岩石学的記載、鉱物化学組成分析、変成温度圧力条件の計算、年代分析のデータを基に、当該地域の温度―圧力―時間経路を決定することで、高度変成作用の期間とメカニズムを解明することを目的とした。

 トリバンドラム岩体西部のElavinmoodu採石場から採集したコンダライトを用いた鉱物平衡モデリングの結果から、超高温変成作用を示す920-1030 °C、6.0-7.6 kbarのピーク変成条件が得られた。累進・後退変成作用の温度圧力条件はそれぞれ~750 °C/~7 kbar、 ~750 °C/~4 kbarと決定され、地温勾配に沿って徐冷した時計回りの温度圧力経路が得られた。コンダライト中のパッチ状チャノッカイトや塊状チャノッカイト中の亀裂に沿った脱色部が見られるKakkod採石場から採集したコンダライトからも、調和的な温度圧力条件が得られた。チャノッカイトと脱色部の鉱物平衡モデリングでは820-950 °C/ 5-10 kbar、800-1000 °C/~6 kbarの変成温度圧力条件が得られた。これはチャノッカイトの脱色が高度変成作用中に起こったことを示唆し、変成作用のピーク周辺で流体が浸透した可能性を示す。

 Elavinmoodu採石場から採集したコンダライト中のジルコンとモナザイトを用いたU-Pb年代分析から、累進・ピーク・後退変成作用はそれぞれ約582±17 Ma、555.1±8.1 Ma、527.3±8.0〜501.9±8.5 Maに、含水流体の浸透によるザクロ石の分解・黒雲母の形成は約489±12 Maに起きたと求まった。以上のことは地殻やマグマが熱源となり、高度変成作用が少なくとも582 Maから489 Ma の9000万年以上という非常に長い期間続いたことを示す。

 本研究結果は時計回りの一回の長期間の変成作用が起きたことを示す。この9000万年という変成期間はスリランカのワンニ岩体の変堆積岩から報告されているものとほぼ調和的であるが(>50 Myr; Hirayama et al., 2018)、スリランカのハイランド岩体からの報告(~180 Myr; He et al., 2018)よりも短い。Dharmapriya et al. (2016)やTakamura et al. (2018)などによる先行研究ではトリバンドラム岩体はハイランド岩体に延長することが示されているが、ゴンドワナ超大陸形成の過程でハイランド岩体の変成がトリバンドラム岩体の変成に先立って起きていた可能性が考えられる。