日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP33] 鉱物の物理化学

2019年5月29日(水) 09:00 〜 10:30 A07 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:鎌田 誠司(東北大学学際科学フロンティア研究所)、鹿山 雅裕(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、座長:鎌田 誠司(東北大学学際科学フロンティア研究所)

09:00 〜 09:15

[SMP33-01] CO2を含むメラノフロジャイトの高温その場ラマン分光研究

*神崎 正美1 (1.岡山大学惑星物質研究所)

キーワード:二酸化炭素含有メラノフロジャイト、高温その場ラマン分光、低周波数ラマン分光、包摂化合物、脱ガス過程

緒言:メラノフロジャイトはシリカ鉱物の一種で、クラスレート構造を持つ。その構造は2種のカゴからなり、12個の5員環からなるM12カゴと、それにさらに2個の6員環が加わったM14カゴがある。過去の結晶構造解析からは、CO2はより大きなM14カゴに主に入っていると考えられている。数年前に我々はCO2を含むメラノフロジャイトに強くてブロードな低周波数ラマンピークがあることを発見した。このピークの原因を探るために、熱処理実験と1100 oCまでの高温その場ラマン分光観察を行った。
実験方法:顕微ラマンスペクトルはシングルモノクロメーター、CCD検出器と低周波数が測定できるOndax SureBlockフィルターからなる自家製のラマンシステムで取得した。熱処理にはマッフル炉を使い、その場観察にはワイヤーヒーターを使った。イタリアのFortunillo産の球状メラノフロジャイト単結晶を砕き、破片を実験に使用した。
結果と議論(低周波数ピークの起源)熱処理実験において、950 oC6 h保持条件では、CO2の振動ラマンピーク(Fermi diad)強度から判断して、ほとんどCO2が脱ガスしたメラノフロジャイトが得られた。同時に低周波数ピークもほぼ消えた。より低温や短時間の条件ではまだ残っているCO2の振動ピークが観察された。また、そのようにして得られた試料のCO2振動ピークが分裂していることを新たに見出した。
 その場高温観察においては、CO2の総積分振動ピーク強度が450 oCくらいから低下することが観察され、同時に低周波数ピークの強度も低下した。それらのピークは1100 oCで完全に消えたが、メラノフロジャイト自体はまだ安定であった。これらの観察から、低周波数ピークはメラノフロジャイト自体ではなくて、CO2に由来するものと結論づけた。そして、CO2分子のカゴ内でのlibrationalとtranslationalモードが低周波数ピークの起源だと推定した。したがって、メラノフロジャイトの脱ガス過程は、CO2の振動ピークだけではなくて、低周波数ピークを使っても調べることができることになる。
(CO2振動ピークの分裂)その場観察から、450 oCくらいからCO2振動ピークが分裂する(正確には新しいピークが高周波数側に出現して温度とともにその強度を増加させる)ことに気づいた。この分裂はある程度は急冷可能で、それは前述の熱処理実験の結果でも見られた。メラノフロジャイト中におけるCH4とH2Sの振動ピークについては、分裂があることが既に知られており、分子がM12M14カゴ両方に入っているためと解釈されている。我々の観察したCO2振動ピーク分裂も同様に解釈できるであろう。CO2のピーク分裂については、極低温における1例を除いて、報告がこれまでなかった。我々の実験から、450 oC以上で最初M14カゴに入っていたCO2が、高温になることで隣接するM12M14カゴに移動できるようになり、M12カゴのCO2振動ピークが出現したと解釈できる。M14カゴは隣のM14カゴと6員環を共有して1次元の鎖を作るので、M14からM14への移動は長距離の拡散となり、これが脱ガスに寄与する。一方で、M14からM12への移動はピーク分裂に寄与する。したがって、高温その場ラマン分光測定は、メラノフロジャイトにおけるCO2(および他のガス分子)の拡散を詳細に調べるために有用であると言える。