[SSS11-P01] アレイ解析による東京湾岸北部におけるLove波の位相速度推定の試み −地震動シミュレーション波形を用いた検討−
キーワード: Love波、関東堆積盆地、アレイ解析、位相速度、地震動シミュレーション
はじめに
関東堆積盆地は厚さ数km以上の堆積層に覆われているため,周期数秒以上のやや長周期地震動(以下,単に長周期地震動)が頻繁に観測される[例えば,Yoshimoto and Takemura (2014)].長周期地震動を引き起こす表面波は,堆積層と地震基盤の3次元的な不均質構造の影響を受けて,空間的に複雑に伝播することが知られている[例えば,Furumura and Hayakawa (2007)].表面波の伝播特性の解明と堆積盆地構造の正確な把握は長周期地震動の予測精度向上のために重要であり,その方策のひとつとして関東平野に高密度に設置された地震観測点を利用したアレイ解析が考えられる.本研究では,地震観測記録を用いた表面波の伝播特性の把握と堆積盆地構造の推定を目指して,ビームフォーミング解析によりLove波の位相速度を求める試行的な実験を地震動シミュレーションの速度波形を対象に実施した.
データと解析方法
2011年3月19日の茨城県北部の地震(MW 5.8),2013年2月25日の栃木県北部の地震(MW5.8),2014年11月22日の長野県北部の地震(MW6.3)など方位の異なる複数の地震を解析対象とした.地震波速度構造モデルSBVSM[増田・他 (2014, 地震学会); Takemura et al. (2015)],F-net MT解によるダブルカップル型の点震源を用いて,差分法に基づいた地震動シミュレーションを実施した.同シミュレーションでは,4356点の仮想観測点(以下,高密度仮想観測点; 北緯35.5〜35.9度,東経139.4〜139.9度,750 m間隔)における地動速度波形を合成した.
ビームフォーミング解析[Riahi et al. (2013)]では,高密度仮想観測点を用いて局所的な小アレイを構成し,水平動成分(NS成分とEW成分)の速度波形を一括して解析した.小アレイのサイズは,解析周期(5.9,6.4,7.3,8.5,10.2,12.8秒)によって6〜24kmの範囲で変化させた.解析時間は,水平動成分のエネルギーエンベロープが最大になる時間を中心に51.2秒間とした.ただし,評価結果の解析時間依存性について検討するために,この設定時間を変化させた解析も行った.
解析結果
ビームフォーミング解析で求めた位相速度の大きさは,SBVSMを局所的に水平成層構造で近似して求めたLove波の基本モードの位相速度の大きさと概ね一致した.求めた分散曲線では,正分散の特徴も明瞭に確認された.このような結果より,ビームフォーミング解析によって,堆積盆地内を複雑に伝播するLove波の位相速度を概ね正確に評価できることが示された.
位相速度の評価では,周期5.9秒においてその値が特に安定して求まった.同周期は,中規模の地震による関東堆積盆地内の長周期地震動の卓越周期に対応する[例えば,Yoshimoto and Takemura (2014)].また,この安定性は,2013年2月25日の栃木県北部の地震において広域にわたって確認された.このことは,同地震が横ずれ型の浅発地震であるため,Love波の基本モードが強く励起されて伝播したためと考えられる.また,本解析で確認された,長周期地震動のPGVの大きい地域において位相速度が安定して求まる傾向も,関東堆積盆地内の長周期地震動がLove波の基本モードによって特徴付けられることを示唆している.
ビームフォーミング解析で求めた位相速度の空間変化は,周期5.9,6.4,7.3秒において,SBVSMの関東堆積盆地内における東西方向のLove波の基本モードの位相速度の変化と整合した.しかしながら,周期10 秒以上では,安定した位相速度の評価が困難であった.この要因としては,解析に使用した小アレイのサイズが大きくなり,水平方向の構造変化(位相速度変化)の影響を強く受けるようになることが考えられる.本研究では,この他に,地震によっては特定の地域で位相速度が過大評価されることを確認した.解析結果の詳細については,発表時に紹介する.
謝辞
地震動シミュレーションには海洋研究開発機構の地球シミュレータを使用しました.地震の発震機構には防災科学技術研究所のF-net MT解を使用しました.
関東堆積盆地は厚さ数km以上の堆積層に覆われているため,周期数秒以上のやや長周期地震動(以下,単に長周期地震動)が頻繁に観測される[例えば,Yoshimoto and Takemura (2014)].長周期地震動を引き起こす表面波は,堆積層と地震基盤の3次元的な不均質構造の影響を受けて,空間的に複雑に伝播することが知られている[例えば,Furumura and Hayakawa (2007)].表面波の伝播特性の解明と堆積盆地構造の正確な把握は長周期地震動の予測精度向上のために重要であり,その方策のひとつとして関東平野に高密度に設置された地震観測点を利用したアレイ解析が考えられる.本研究では,地震観測記録を用いた表面波の伝播特性の把握と堆積盆地構造の推定を目指して,ビームフォーミング解析によりLove波の位相速度を求める試行的な実験を地震動シミュレーションの速度波形を対象に実施した.
データと解析方法
2011年3月19日の茨城県北部の地震(MW 5.8),2013年2月25日の栃木県北部の地震(MW5.8),2014年11月22日の長野県北部の地震(MW6.3)など方位の異なる複数の地震を解析対象とした.地震波速度構造モデルSBVSM[増田・他 (2014, 地震学会); Takemura et al. (2015)],F-net MT解によるダブルカップル型の点震源を用いて,差分法に基づいた地震動シミュレーションを実施した.同シミュレーションでは,4356点の仮想観測点(以下,高密度仮想観測点; 北緯35.5〜35.9度,東経139.4〜139.9度,750 m間隔)における地動速度波形を合成した.
ビームフォーミング解析[Riahi et al. (2013)]では,高密度仮想観測点を用いて局所的な小アレイを構成し,水平動成分(NS成分とEW成分)の速度波形を一括して解析した.小アレイのサイズは,解析周期(5.9,6.4,7.3,8.5,10.2,12.8秒)によって6〜24kmの範囲で変化させた.解析時間は,水平動成分のエネルギーエンベロープが最大になる時間を中心に51.2秒間とした.ただし,評価結果の解析時間依存性について検討するために,この設定時間を変化させた解析も行った.
解析結果
ビームフォーミング解析で求めた位相速度の大きさは,SBVSMを局所的に水平成層構造で近似して求めたLove波の基本モードの位相速度の大きさと概ね一致した.求めた分散曲線では,正分散の特徴も明瞭に確認された.このような結果より,ビームフォーミング解析によって,堆積盆地内を複雑に伝播するLove波の位相速度を概ね正確に評価できることが示された.
位相速度の評価では,周期5.9秒においてその値が特に安定して求まった.同周期は,中規模の地震による関東堆積盆地内の長周期地震動の卓越周期に対応する[例えば,Yoshimoto and Takemura (2014)].また,この安定性は,2013年2月25日の栃木県北部の地震において広域にわたって確認された.このことは,同地震が横ずれ型の浅発地震であるため,Love波の基本モードが強く励起されて伝播したためと考えられる.また,本解析で確認された,長周期地震動のPGVの大きい地域において位相速度が安定して求まる傾向も,関東堆積盆地内の長周期地震動がLove波の基本モードによって特徴付けられることを示唆している.
ビームフォーミング解析で求めた位相速度の空間変化は,周期5.9,6.4,7.3秒において,SBVSMの関東堆積盆地内における東西方向のLove波の基本モードの位相速度の変化と整合した.しかしながら,周期10 秒以上では,安定した位相速度の評価が困難であった.この要因としては,解析に使用した小アレイのサイズが大きくなり,水平方向の構造変化(位相速度変化)の影響を強く受けるようになることが考えられる.本研究では,この他に,地震によっては特定の地域で位相速度が過大評価されることを確認した.解析結果の詳細については,発表時に紹介する.
謝辞
地震動シミュレーションには海洋研究開発機構の地球シミュレータを使用しました.地震の発震機構には防災科学技術研究所のF-net MT解を使用しました.