[SSS11-P02] ACROSSによる地震波伝播特性の振幅変化と走時変化の同時推定
キーワード:振幅変化、走時変化、速度変化、人工震源装置、ACROSS
概要
人工震源装置ACROSSにより得られた伝達関数(グリーン関数)の振幅変化と走時変化を同時に推定する手法を開発した。
背景
地震波の振幅変化は実験室レベルの研究では、断層面を透過する波の透過率が断層面の強度と良く対応することなどが知られており(例えば、Nagata et al., 2008)、その変化を調べることは重要である。しかし、地震波の伝播速度変化をクロススペクトル法により議論した研究は多くあるが(例えば、Ikuta et al., 2002; Hobiger et al., 2016)、振幅変化を扱ったものは多くない。また、ACROSSの解析においても従来は時間領域でenvelopeを用いた解析が行われていた。しかし、この方法はノイズが信号強度を見かけ上大きく見せてしまうという欠点があった。そこで、本研究では、伝達関数の振幅変化と走時変化を同時に推定可能で誤差評価もできる新たな手法を開発した。
方法
振幅変化と走時変化の同時推定は、振幅変化と走時変化は周波数によらず一定であると仮定して、複素平面上での最小二乗推定で実現した。評価関数には、各期間の伝達関数を全期間の平均でデコンボルーション(周波数領域における割り算)して得た関数(変化関数)を用いた。従来の走時変化を求める研究では、周波数領域での掛け算(クロスコリレーション)をもちいているため、振幅の情報が失われていた。本手法では振幅変化と走時変化は周波数によらず一定であると仮定し、さまざまな振幅変化と走時変化を持つ変化関数モデルを計算し、実際の変化関数との複素平面上の長さが最小になるものを見つけるというグリッドサーチによる推定を行った。これにより、各周波数のデータの信号ノイズ比が1を下回るようなノイズが大きなデータでも振幅変化や走時変化が推定できる。また、変化関数の誤差は、複素平面上で同心円状の確率密度分布を持つことを利用して、得られた振幅変化と走時変化のノイズ評価を行うことができた。
結果と考察
本研究では、この手法を岐阜県土岐市にある人工震源装置ACROSSのデータに適用し、周辺のHi-net観測点で得られた伝達関数に適応した。その結果、振幅変化と走時変化を同時に推定することができ、本研究の手法で得られた走時変化と従来のクロススペクトル法で得られる走時変化はおおむね誤差の範囲で等しいことも確認できた。一方で、振幅変化の平均が、伝達関数の平均値でデコンボルーションをしているにもかかわらず1にはならない場合があった。これは、複素平面上でのフィッティングの結果を、振幅と位相で解釈をしている数学的扱いが原因と思われる。
人工震源装置ACROSSにより得られた伝達関数(グリーン関数)の振幅変化と走時変化を同時に推定する手法を開発した。
背景
地震波の振幅変化は実験室レベルの研究では、断層面を透過する波の透過率が断層面の強度と良く対応することなどが知られており(例えば、Nagata et al., 2008)、その変化を調べることは重要である。しかし、地震波の伝播速度変化をクロススペクトル法により議論した研究は多くあるが(例えば、Ikuta et al., 2002; Hobiger et al., 2016)、振幅変化を扱ったものは多くない。また、ACROSSの解析においても従来は時間領域でenvelopeを用いた解析が行われていた。しかし、この方法はノイズが信号強度を見かけ上大きく見せてしまうという欠点があった。そこで、本研究では、伝達関数の振幅変化と走時変化を同時に推定可能で誤差評価もできる新たな手法を開発した。
方法
振幅変化と走時変化の同時推定は、振幅変化と走時変化は周波数によらず一定であると仮定して、複素平面上での最小二乗推定で実現した。評価関数には、各期間の伝達関数を全期間の平均でデコンボルーション(周波数領域における割り算)して得た関数(変化関数)を用いた。従来の走時変化を求める研究では、周波数領域での掛け算(クロスコリレーション)をもちいているため、振幅の情報が失われていた。本手法では振幅変化と走時変化は周波数によらず一定であると仮定し、さまざまな振幅変化と走時変化を持つ変化関数モデルを計算し、実際の変化関数との複素平面上の長さが最小になるものを見つけるというグリッドサーチによる推定を行った。これにより、各周波数のデータの信号ノイズ比が1を下回るようなノイズが大きなデータでも振幅変化や走時変化が推定できる。また、変化関数の誤差は、複素平面上で同心円状の確率密度分布を持つことを利用して、得られた振幅変化と走時変化のノイズ評価を行うことができた。
結果と考察
本研究では、この手法を岐阜県土岐市にある人工震源装置ACROSSのデータに適用し、周辺のHi-net観測点で得られた伝達関数に適応した。その結果、振幅変化と走時変化を同時に推定することができ、本研究の手法で得られた走時変化と従来のクロススペクトル法で得られる走時変化はおおむね誤差の範囲で等しいことも確認できた。一方で、振幅変化の平均が、伝達関数の平均値でデコンボルーションをしているにもかかわらず1にはならない場合があった。これは、複素平面上でのフィッティングの結果を、振幅と位相で解釈をしている数学的扱いが原因と思われる。