[SSS13-P17] 日本全国を対象とした応答スペクトルの確率論的地震動ハザード評価(その1:地震動予測式の選定)
キーワード:地震ハザード評価、応答スペクトル、最大加速度、地震動予測式
地震調査研究推進本部より公表されている全国地震動予測地図のうち、確率論的地震動予測地図では、震度または最大速度で表現されている。一方、地震リスク評価や工学分野においては、応答スペクトルの地震ハザード評価が有益である。本検討では、日本全国を対象とした全国地震動予測地図の地震活動モデルによる応答スペクトルの地震ハザード評価を試みる。本稿では、地震ハザード評価に用いる地震動予測式の選定について述べ、次報(その2)において評価結果を示す。
Douglas (2019) では、1973年以後に発表された290の地震動スペクトルの予測式が整理されているが、そのうち主に日本の観測記録から求められたものは約50ある。2003年十勝沖地震は高密度強震観測網(K-NET、KiK-net)で記録が得られた世界でも初めてのマグニチュード8クラスの地震であり、地震ハザードに対する海溝型巨大地震の影響が大きい日本において当該地震の記録を用いた地震動予測式を用いることは重要である。本検討ではやや短周期成分を主としつつもある程度広い周期帯域について工学的基盤上で評価を行う。また、日本全国を対象とすることを踏まえて、以下の条件を満たす式を選定する。
a. 査読付き論文として発表されている。
b. 主に日本の観測記録が用いられており、2003年十勝沖地震の記録を含む。
c. 最大加速度および周期0.1~5秒を含み、工学的基盤上で評価できる。
d. 地震タイプ(地殻内地震、海溝型プレート間地震、海溝型プレート内地震)の震源特性や伝播経路特性の違いを考慮できる。
e. 異常震域がモデル化されている
f. 特定の地域のみを対象としていない。
g. マグニチュード9クラスの地震のデータも用いられている。
その結果、Morikawa and Fujiwara (2013) およびZhao et al. (2016a, b, c)による二組の式が選定された。ただし、g.の条件に関しては、いずれの式も東北地方太平洋沖地震のみの記録から求められているため、南海トラフ地震への適用性などに関しては不確実さが大きいと言わざるを得ない。そこで、不確実さを考慮するためにその他の条件を満たす式の中から最新のGoda and Atkinson (2009) の式も追加することとした。
これらの式による地震動を比較すると、データが豊富なマグニチュード5~6、断層最短距離50~100kmについては差が小さいものの、データが少ない震源近傍や巨大地震では差が大きい。しかしながら、データセットはそれぞれの研究者で作成されている。その結果、
・観測波形データのフィルター処理などの方法、水平動最大振幅の定義が異なる。
・同一の地震であってもマグニチュードや震源断層モデルの設定が異なる。
・地盤増幅に関する指標が地盤種別や平均S波速度など様々であり統一されていない。
という状況にあり、厳密に同一条件での比較ができない。このことはここで選定された3つの式に限定されるものでなく、同一のデータセットから求められた式が存在しない日本の予測式すべてに共通する問題である。観測記録のきわめて少ない超巨大地震や震源断層ごく近傍などを対象に含む地震ハザード評価を行う際には、認識論的不確定性を考慮して複数の地震動予測式を用いることが必要である。特定地点を対象とした地震ハザード評価を行う場合には、観測記録との整合性に基づいて重み付けを行という考えもある。ただし、その整合性を評価するためには同一条件で比較できる統一基準のデータセットを構築するとともにそれに基づいて導出された地震動予測式を用いることが必要となる。
Douglas (2019) では、1973年以後に発表された290の地震動スペクトルの予測式が整理されているが、そのうち主に日本の観測記録から求められたものは約50ある。2003年十勝沖地震は高密度強震観測網(K-NET、KiK-net)で記録が得られた世界でも初めてのマグニチュード8クラスの地震であり、地震ハザードに対する海溝型巨大地震の影響が大きい日本において当該地震の記録を用いた地震動予測式を用いることは重要である。本検討ではやや短周期成分を主としつつもある程度広い周期帯域について工学的基盤上で評価を行う。また、日本全国を対象とすることを踏まえて、以下の条件を満たす式を選定する。
a. 査読付き論文として発表されている。
b. 主に日本の観測記録が用いられており、2003年十勝沖地震の記録を含む。
c. 最大加速度および周期0.1~5秒を含み、工学的基盤上で評価できる。
d. 地震タイプ(地殻内地震、海溝型プレート間地震、海溝型プレート内地震)の震源特性や伝播経路特性の違いを考慮できる。
e. 異常震域がモデル化されている
f. 特定の地域のみを対象としていない。
g. マグニチュード9クラスの地震のデータも用いられている。
その結果、Morikawa and Fujiwara (2013) およびZhao et al. (2016a, b, c)による二組の式が選定された。ただし、g.の条件に関しては、いずれの式も東北地方太平洋沖地震のみの記録から求められているため、南海トラフ地震への適用性などに関しては不確実さが大きいと言わざるを得ない。そこで、不確実さを考慮するためにその他の条件を満たす式の中から最新のGoda and Atkinson (2009) の式も追加することとした。
これらの式による地震動を比較すると、データが豊富なマグニチュード5~6、断層最短距離50~100kmについては差が小さいものの、データが少ない震源近傍や巨大地震では差が大きい。しかしながら、データセットはそれぞれの研究者で作成されている。その結果、
・観測波形データのフィルター処理などの方法、水平動最大振幅の定義が異なる。
・同一の地震であってもマグニチュードや震源断層モデルの設定が異なる。
・地盤増幅に関する指標が地盤種別や平均S波速度など様々であり統一されていない。
という状況にあり、厳密に同一条件での比較ができない。このことはここで選定された3つの式に限定されるものでなく、同一のデータセットから求められた式が存在しない日本の予測式すべてに共通する問題である。観測記録のきわめて少ない超巨大地震や震源断層ごく近傍などを対象に含む地震ハザード評価を行う際には、認識論的不確定性を考慮して複数の地震動予測式を用いることが必要である。特定地点を対象とした地震ハザード評価を行う場合には、観測記録との整合性に基づいて重み付けを行という考えもある。ただし、その整合性を評価するためには同一条件で比較できる統一基準のデータセットを構築するとともにそれに基づいて導出された地震動予測式を用いることが必要となる。