日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT45] 合成開口レーダー

2019年5月27日(月) 13:45 〜 15:15 303 (3F)

コンビーナ:木下 陽平(筑波大学)、森下 遊(国土地理院)、小林 祥子(玉川大学)、阿部 隆博(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 地球観測研究センター)、座長:木下 陽平(RESTEC)、阿部 隆博(JAXA)

14:45 〜 15:00

[STT45-11] SAR干渉法における電離圏遅延推定:分割スペクトル二重差分干渉画像を用いた手法の有用性

*小澤 拓1 (1.防災科学技術研究所)

キーワード:SAR、電離圏遅延、地殻変動

SAR干渉法における大きな誤差要因の一つである電離圏遅延誤差の軽減においては、Split-spectrum法(e.g., Brcic et al., 2010; Rosen et al., 2010; Gomba et al., 2016)が有用な方法として用いられるようになりつつある。この手法は、SARのチャープ信号を高周波側と低周波側に分割したSAR画像を作成し、それぞれの干渉ペアから得られる干渉画像において、電離圏遅延成分と地殻変動等の成分の周波数に対する応答の違いを利用して、それぞれの成分を分離する。一般に、電離圏遅延成分は、
 Φiono=fLfHLfH - ΦHfL)/(f0(fH2-fL2)) -(1)
の式から推定される。ここで、Φionoは電離圏遅延成分、f0、fL、fHはフルバンドSAR画像、低周波側SAR画像、高周波側SAR画像の中心周波数、ΦL、ΦHは、低周波側の干渉ペアと高周波側の干渉ペアから得られる干渉画像の位相差である。経験的に、干渉性が高い干渉ペアにおいては、この式から精度よく電離圏遅延成分を推定できるが、干渉性が低い干渉ペアにおいては、主にアンラッピングの困難により、精度が劣化する場合が多い。そこで、Wegmüller et al. (2018)は、
 Φiono=AΦ0 + B(ΦHL) -(2)
の式から電離圏遅延成分を推定する方法を提案した。Φ0はフルバンドSAR画像の干渉ペアから得られる位相差であり、A,Bは周波数から求められる係数である。一般に、帯域幅が広いほど、干渉性は良いので、第1項は周波数を分割した干渉ペアよりもアンラッピングは比較的容易である。第2項は、ほとんどの場合で-πから+πの値に入るため、容易に位相差を求めることが可能である。さらに、Aはほぼ0.5であることから、
 2Φiono0 + 2B(ΦHL) -(3)
と近似することが可能である。前述したように、第2項は容易に位相差を推定することが可能であので、アンラッピングすることなしに、電離圏遅延成分のみを示す干渉画像を得ることが可能である。
以上で述べた3つの式に基づいた電離圏遅延成分を推定するツールは、防災科研が開発を進めているSAR干渉解析ツール(RINC)に組み込むために、開発を進めている。ここでは、開発中のツールを用いて行った、いくつかのペアについてのテスト解析結果を述べる。本解析においては、帯域を半分に分割して作成した高周波側と低周波側のSAR画像を用いる。高周波側と低周波側の干渉ペアについて、それぞれ干渉画像を作成し、軌道情報に基づいて、軌道・地形縞成分を除去してスペクトル強調フィルター(Goldstein and Werner, 1998)を適用し、それらの干渉画像から、それぞれの式に基づいて電離圏遅延を推定する。推定した結果は、それぞれ、ほぼ同様のパラメータを用いて、outlierを除去するフィルター、ガウスフィルターを適用し、電離圏遅延成分を求めた。
まず、比較的干渉性が高いペアとして、ALOS-2/PALSAR-2のパス124の右方向視で、2014年9月9日と2015年8月11日に吾妻山を観測したSM1の干渉ペアを解析した。このペアについては、どの式に基づいた手法によっても、ほぼ同じ結果が得られた。しかし、ALOS-2/PALSAR-2のパス23の右方向視で、2016年3月7日と2016年4月18日に2016年熊本地震の震源域を観測したSM1の干渉ペアを解析したところ、断層付近において、それぞれの方法で差が見られた。特に、式(1)の解析では、断層付近におけるアンラッピングエラーが大きく影響しているようである。手動解析において、正しくマスクすれば、式(2)とおおよそ同じ結果が得られると考えられる。式(3)においては、断層付近においても、電離圏遅延成分が得られた。しかし、他の特に干渉性が悪い干渉ペアにおいては、式(3)を用いた解析ではうまく処理できない場合もあった。
現時点では解析事例が少なく、より多くの事例解析を要するが、概して、式(2)に基づく方法が、比較的精度良く、電離圏遅延を推定できるように感じられる。ただし、アンラッピングが困難なほどの、大きな地殻変動が含まれる場合には、式(3)に基づく方法が良い場合もある。場合に即した使い分けが必要かもしれない。