日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT45] 合成開口レーダー

2019年5月27日(月) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:木下 陽平(筑波大学)、森下 遊(国土地理院)、小林 祥子(玉川大学)、阿部 隆博(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 地球観測研究センター)

[STT45-P01] 気象研究所における干渉SAR対流圏遅延補正プログラムの開発(第2報)

*奥山 哲1安藤 忍1新堀 敏基1 (1.気象研究所)

キーワード:干渉SAR、大気遅延、気象モデル

はじめに
SAR差分干渉法は、2枚のSAR画像を用いて、観測間に生じた地表変位の衛星視線方向成分の面的分布を求めるリモートセンシング技術である.しかしながら、その結果にはアンテナ-ターゲット間に存在する媒質の影響、すなわち電離圏遅延・対流圏遅延が含まれる.このうち対流圏遅延を補正する手法として、遅延誤差を標高の関数として近似する方法が長らく使われてきた(藤原他, 1999).しかしこの方法は、広範囲な地殻変動の場合には適用することができず、また地形と相関を持つ地殻変動を遅延誤差として誤って補正してしまう恐れがある等の問題がある.これらの問題を解決するため、干渉SARで用いるデータとは独立した数値気象モデルを用いた対流圏遅延補正も複数提案され、その有効性が示されている(例えばHobiger et al., 2008, 小澤・清水, 2010など).気象研究所は気象庁の開発する各種の気象モデルを利用できる環境を活用して、過去にはJMA-NHMを用いた遅延補正を試み、一定の成果をあげた(安藤他, 2013).しかし局地大気現象の予報精度を向上させるべく、数値気象モデルも日々改良され高度化が進んでいる.我々はこれら最新の気象庁数値気象モデルを用いた対流圏遅延補正プログラムの開発に着手し、日本測地学会第130回講演会においてその予備解析結果を報告した(奥山他, 2018).予備解析では天頂遅延量の視線方向投影を用いて補正を行ったが、今回、視線方向の遅延量を直接計算する手法を確立したので報告する.

データと方法
気象データはNuSDaS形式のモデル面解析値を用い、各種モデルを切替えられるよう、可能な限り入力データに依存しないシステムとする.システムは1) 気象データを補間し、SARによる観測時刻の気象データを作成する部分、2) 気象データから各格子点での屈折率を計算する部分および3) 屈折率を積分し、干渉SAR画像の各点について対流圏遅延を計算する部分からなる.このうち、2)は各モデルによって記録されているパラメタが異なるため(局地解析では気圧が記録されているが、過去のメソ解析では無次元気圧であるなど)、モデル毎にプログラムを使い分ける必要がある.屈折率の計算は小澤・清水(2010)による式を用いた.

予備解析との差異
パス125/フレーム660のPALSAR-2データ(2015年1月4日-2015年8月16日)を補正対象、気象庁メソ解析値を気象データとし、天頂遅延量の視線方向投影を用いて補正した場合(A)と、視線方向の遅延量を直接計算した場合(B)を比較した.上で述べたように遅延誤差は標高と相関をもつため、補正後の干渉画像において標高と位相の相関係数を計算した所、A:-0.097・B:-0.047と改善が見られた.なお補正前の干渉画像における標高と位相の相関係数は-0.431である.
(A)と(B)の差分画像は地形に相関をもつが、その比例係数は空間的に変化する.これは(A)が直上の遅延量分布を参照するのに対して(B)はよりニアレンジ側の遅延量分布を参照するためであり、遅延量分布の水平不均質が原因である.(A)と(B)の差の最大値は-2.1rad.であった.

今後の展望
局地解析値・全球解析値等、他モデルへの対応を進める.その上で屈折率の計算式や補間アルゴリズムの差を比較検証する予定である.

謝辞
本研究で用いたPALSAR-2データはPIXELにおいて共有しているものであり、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と東京大学地震研究所との共同研究契約によりJAXAから提供されたものである.PALSAR-2データの所有権はJAXAにある.本研究の一部は、東京大学地震研究所特定共同研究(B) (2018-B-02)で行われた.