[STT45-P03] 活火山の噴気地帯の干渉SAR解析結果に認められる特異な変位:箱根火山上湯地区の例
キーワード:干渉SAR、活火山、噴気地帯、箱根火山
本発表では,箱根火山の上湯地区の噴気域(上湯噴気)を対象としたALOS-2/PALSAR-2データの干渉SAR解析結果に認められた変位の特徴および原因について報告する.
上湯噴気は,箱根火山中央火口丘北側の斜面に位置する噴気域で,2015年に水蒸気噴火を起こした大涌谷の火口付近から北に約500mの地点に位置する.上湯噴気は,2001年に箱根火山で活発な地震活動が発生したのち,2003年頃に新たに確認された噴気域である(辻内ほか,2003).その内,現在最も活発な噴気活動が認められるE領域と呼ばれる噴気地帯は,2011年の東北地方太平洋沖地震の際に箱根火山において群発地震活動が誘発された後(Yukutake et al., 2011),活発化が認められた噴気地帯である(原田ほか,2012).E領域の大きさは,南北約200m,東西約150mである.また,このE領域の放熱量は,7~8MWと推定されている(Mannen et al., 2018).
箱根火山を対象としたALOS-2/PALSAR-2による観測は,主に4つの軌道で繰り返し実施されており,各軌道とも概ね数ヶ月に一回の頻度で実施されている.2014年10月以降,2018年末時点において,南行軌道・右観測のPath18で22シーン,Path19で15シーン,北行軌道・右観測のPath125,126でそれぞれ11シーンずつのデータが得られている.本研究では,これらのデータ全てについて直近の干渉ペアとの間で差分干渉解析を実施し,上湯E噴気における地表面の変位を明らかにした.
噴気地の外側の任意の地点を不動と仮定し,上湯噴気の変位を推定したところ,E領域において,東側上空からの観測(Path18,19)では,約4年間で3~5cm程度衛星に近づく変位が認められた.また,西側上空からの観測(Path 125,126)では,同期間で10~13cm程度衛星から遠ざかる変位が認められた.このことから,長期的には,E領域が北東方向に定常的に変位していることが示唆され,それはE領域の傾斜方向とも合致することから,地すべり性の変位が生じているものと言える.
一方,東側上空から観測されたPath18,19の解析結果では,夏季に衛星に近づき,冬季には衛星から遠ざかる年周変化が認められる.西側上空から観測されたPath125,126ではこのような年周変化は認められないが,そもそもこれらのPathでは夏季の観測が少なく,実際の年周変化の有無は判断できない.この年周変化の原因については,地上付近の水蒸気量が噴気地外では季節変化するのに対し,噴気地内では年間を通してほぼ飽和状態にあると考えられることから,そのコントラストが夏季と冬季とで異なることが影響している可能性が挙げられる.加えて,噴気地は裸地に近い状態のため周囲の森林よりも表面散乱が卓越することから,夏季と冬季における土壌水分量の差も影響している可能性も考えられる.その他にものいくつかの要因が考えられるが,今後検討を進め,噴気地帯における地すべり運動を正確に評価することに加え,噴気そのものの活動評価にも繋げていく予定である.
本研究で使用したALOS-2/PALSAR-2データは,火山噴火予知連絡会衛星解析グループを通してJAXAよりご提供頂きました.原初データの所有権はJAXAにあります.ここに記して感謝します.
上湯噴気は,箱根火山中央火口丘北側の斜面に位置する噴気域で,2015年に水蒸気噴火を起こした大涌谷の火口付近から北に約500mの地点に位置する.上湯噴気は,2001年に箱根火山で活発な地震活動が発生したのち,2003年頃に新たに確認された噴気域である(辻内ほか,2003).その内,現在最も活発な噴気活動が認められるE領域と呼ばれる噴気地帯は,2011年の東北地方太平洋沖地震の際に箱根火山において群発地震活動が誘発された後(Yukutake et al., 2011),活発化が認められた噴気地帯である(原田ほか,2012).E領域の大きさは,南北約200m,東西約150mである.また,このE領域の放熱量は,7~8MWと推定されている(Mannen et al., 2018).
箱根火山を対象としたALOS-2/PALSAR-2による観測は,主に4つの軌道で繰り返し実施されており,各軌道とも概ね数ヶ月に一回の頻度で実施されている.2014年10月以降,2018年末時点において,南行軌道・右観測のPath18で22シーン,Path19で15シーン,北行軌道・右観測のPath125,126でそれぞれ11シーンずつのデータが得られている.本研究では,これらのデータ全てについて直近の干渉ペアとの間で差分干渉解析を実施し,上湯E噴気における地表面の変位を明らかにした.
噴気地の外側の任意の地点を不動と仮定し,上湯噴気の変位を推定したところ,E領域において,東側上空からの観測(Path18,19)では,約4年間で3~5cm程度衛星に近づく変位が認められた.また,西側上空からの観測(Path 125,126)では,同期間で10~13cm程度衛星から遠ざかる変位が認められた.このことから,長期的には,E領域が北東方向に定常的に変位していることが示唆され,それはE領域の傾斜方向とも合致することから,地すべり性の変位が生じているものと言える.
一方,東側上空から観測されたPath18,19の解析結果では,夏季に衛星に近づき,冬季には衛星から遠ざかる年周変化が認められる.西側上空から観測されたPath125,126ではこのような年周変化は認められないが,そもそもこれらのPathでは夏季の観測が少なく,実際の年周変化の有無は判断できない.この年周変化の原因については,地上付近の水蒸気量が噴気地外では季節変化するのに対し,噴気地内では年間を通してほぼ飽和状態にあると考えられることから,そのコントラストが夏季と冬季とで異なることが影響している可能性が挙げられる.加えて,噴気地は裸地に近い状態のため周囲の森林よりも表面散乱が卓越することから,夏季と冬季における土壌水分量の差も影響している可能性も考えられる.その他にものいくつかの要因が考えられるが,今後検討を進め,噴気地帯における地すべり運動を正確に評価することに加え,噴気そのものの活動評価にも繋げていく予定である.
本研究で使用したALOS-2/PALSAR-2データは,火山噴火予知連絡会衛星解析グループを通してJAXAよりご提供頂きました.原初データの所有権はJAXAにあります.ここに記して感謝します.