日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC35] 火山防災の基礎と応用

2019年5月27日(月) 13:45 〜 15:15 105 (1F)

コンビーナ:宝田 晋治(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、吉本 充宏(山梨県富士山科学研究所)、石峯 康浩(鹿児島大学地震火山地域防災センター)、久保 智弘(防災科学技術研究所)、座長:久保 智弘(防災科学技術研究所)、宝田 晋治(産総研地質調査総合センター)

14:15 〜 14:30

[SVC35-03] ALB計測で明らかとなった本栖湖の湖底地形 -溶岩流入による湖面水位の上昇-

*千葉 達朗1金田 真一1大橋 真1 (1.アジア航測株式会社)

キーワード:レーザ計測、溶岩流、湖底地形、水位変化

1.はじめに
 本栖湖は富士山の北西に位置する堰止湖で、湖面標高は約900mである。西暦864年の貞観噴火で青木ヶ原溶岩流が流入したため、湖岸線は北東側が円弧で切り取られたような形状をしている。富士山の巡検でも、よく訪問する地点である。ここで見られる溶岩流の特徴については、小幡・海野(1999)の研究があるが、湖底について特に浅い部分の調査は行われてこなかった。
 一般的に、湖に大量の土砂や溶岩などが流れ込むと、湖の水位は上昇する可能性がある。もちろん津波のような一過性のものではなく、湖底が浅くなるために恒久的に上昇するという可能性である。青木ヶ原溶岩流流入の際に、本栖湖の水位が変化したのかを検討するために、ALB計測を行ったので、その結果を報告する。

2.ALB計測
 航空レーザ測深(以下ALB)は、河川や海岸沿いの浅瀬の水深・地形計測を目的とした計測手法である。本研究で用いた機材は、地上計測と水中計測の2系統のレーザ測距システムから構成されており、地上計測用レーザは近赤外、水中計測用レーザは可視域(532nm)の波長を用いる。計測可能水深は対象の透明度に大きく依存する。本栖湖は年間を通じて透明度が高く約14-16m程度であるので、水深15m程度まで計測可能と予想された。計測は2017年9月9日に実施した。周辺地域の起伏が激しいことから、飛行高度の調整が容易なヘリコプターを用いた。飛行コースは全11コースである。

3.計測結果
 ALB計測では電子基準点を 基準としたキネマティックGNSS測量により航空機の位置を決定、慣性航法装置と2系統のレーザ測距装置のデータとを合わせて、対象の陸上・水底の地形 を計測する。点群データの密度は陸上10~100点/m2、水中では1~5点/m2程度であった。最大水深は11~15mまで計測できた。付図は点群データをもとに作成した赤色立体地図である。湖底の地形は計測範囲の南北で大きく異なる。北側は陸上から水中にかけて、青木ヶ原溶岩による特徴的な凹凸がみられる。現在の湖面を境にほとんど変化せず、連続的に水深15m程度に達している。一方、南側の湖底段丘部分には、湖岸から少し離れた地点に緩やかに盛り上がった地形が認められる。その北側斜面の一部に、矩形の平坦面が少なくとも2段確認できる。

4.湖面上昇の可能性
 測定範囲の北側には、枝珊瑚のように分岐し、中央部が裂けたた溶岩地形が見られ、赤色酸化した部分もあることから陸上で堆積したことは明らかである(小幡・海野、1999)。この地形と類似した地形を、水深15m付近まで連続的に追跡できたことは、溶岩流入時の水位が少なくとも現在よりも15mほど低かった可能性を示唆する。また、南側の湖底段丘付近では、水中考古学的な調査も行われている(上九一色村教育委員会,1999)。これまで甕形土器をはじめとする遺物が確認されており、大半は古墳時代前期初頭に位置づけられるものであった。完形のものも多く、おそらくそれ以降水没したと推定されていたが、それが平安時代の青木ヶ原溶岩流の流入時点としても矛盾はしない。
 今後、水中での溶岩地形の赤色酸化部の確認や、平坦面が水没村落遺稿である可能性についての詳細な調査が望まれる。

文献
小幡涼江・海野進(1999)富士火山北西山麓本栖湖畔の864年青木ヶ原溶岩の形態について,火山,44,201-206.
上九一色村教育委員会(2004)本栖湖湖底遺跡調査報告書
金田真一・千葉達朗(2017)航空レーザ測深(ALB)による本栖湖湖底の地形計測,http://www.rssj.or.jp/wp-content/uploads/2018/08/u05_64_h30.pdf