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[SVC36-15] 恵山火山南麓の後期更新世―完新世テフラ堆積物:トレンチ調査結果報告
キーワード:恵山火山、水蒸気爆発、トレンチ調査
1. はじめに
恵山火山の完新世水蒸気爆発堆積物を精査し,同火山の噴出物層序とハザードエリアの推定を目的として,恵山火山南麓にある火山麓扇状地上の2地点において,トレンチ調査を実施した.恵山火山は,山麓の居住地と火口の距離が近く,水蒸気爆発は居住者への脅威となりうる現象である.我々は,2地点でトレンチ調査のための重機掘削を行い,深さ5mほどのトレンチ壁面を成型し,多数の火山砕屑物と古土壌からなる堆積物の詳細な観察を行った.あわせて,堆積物の噴出年代を推定するために,11個の黒色古土壌と炭化木片試料を採取し,14C年代測定を実施した.これら水蒸気爆発堆積物の給源と考えられる爆裂火口は,トレンチ地点A(函館市柏野町)と地点B(同恵山町)からそれぞれ2.2kmと2.6kmの距離にある.このような火口と堆積物の近接は,トレンチ壁面に露出するこれら堆積物が近傍相であることを示している.
2.トレンチ調査結果の概要
トレンチ地点Aでは,EsMP層準の直下に,完新世最初の水蒸気爆発堆積物が見出され,直下の黒色古土壌の年代測定値から,およそ11 kaの堆積物と考えられた.本研究ではEs–0(仮称)と呼ぶ.すなわち,これまで知られていなかった水蒸気爆発エピソード(Es–0) が,完新世マグマ噴火エピソード(EsMP) の前に起こったことを示している.また,トレンチ地点Bでは,水蒸気爆発エピソードであるEs-1とEs-3が,薄い黒色古土壌を挟む3層および5層のサブユニットに細分された.これらには火砕サージ堆積物が挟在されることも確認された.従って,既に知られている山体中央部のEs-3,東麓のEs-4, 5, 6に加え,南麓でも火砕サージ堆積物が見出されたことから,完新世の水蒸気爆発エピソードでは,恒常的に火砕サージを伴ったものと考えられる.これまでの研究成果と総合して,恵山火山の完新世噴火シークエンスを整理すると,1万年間に少なくとも8回の噴火エピソードがあり,13枚の水蒸気爆発堆積物が堆積したことになる.すなわち,約1000年に1回程度の割合以上で,堆積物が残る規模の水蒸気爆発が生じたものと考えられる.
トレンチ壁面で観察された,水蒸気爆発堆積物の特徴を整理すると,少なくとも以下の2点を指摘することが可能である.(1) 水蒸気爆発堆積物の多くが近傍相であることから,運搬距離が短く,淘汰の悪い堆積物になりやすい。従って,水蒸気爆発堆積物の粒度組成は,堆積物毎に大きく異なり離散的な値を示すと予想される.(2) トレンチ地点AとBでは,完新世水蒸気爆発堆積物の数が大きく異なった.地点AとBの間には,地形的な障壁として,古い溶岩ドーム岩体(Ss) があり,このような地形効果も水蒸気爆発堆積物の分布に大きな制約を与えるものと推察される.いずれも既に予想されていたことであるが,今回のトレンチ調査によって改めて確認されたものと考えられる.
本研究には,文部科学省次世代火山研究人材育成プロジェクト研究の一部を使用した.
恵山火山の完新世水蒸気爆発堆積物を精査し,同火山の噴出物層序とハザードエリアの推定を目的として,恵山火山南麓にある火山麓扇状地上の2地点において,トレンチ調査を実施した.恵山火山は,山麓の居住地と火口の距離が近く,水蒸気爆発は居住者への脅威となりうる現象である.我々は,2地点でトレンチ調査のための重機掘削を行い,深さ5mほどのトレンチ壁面を成型し,多数の火山砕屑物と古土壌からなる堆積物の詳細な観察を行った.あわせて,堆積物の噴出年代を推定するために,11個の黒色古土壌と炭化木片試料を採取し,14C年代測定を実施した.これら水蒸気爆発堆積物の給源と考えられる爆裂火口は,トレンチ地点A(函館市柏野町)と地点B(同恵山町)からそれぞれ2.2kmと2.6kmの距離にある.このような火口と堆積物の近接は,トレンチ壁面に露出するこれら堆積物が近傍相であることを示している.
2.トレンチ調査結果の概要
トレンチ地点Aでは,EsMP層準の直下に,完新世最初の水蒸気爆発堆積物が見出され,直下の黒色古土壌の年代測定値から,およそ11 kaの堆積物と考えられた.本研究ではEs–0(仮称)と呼ぶ.すなわち,これまで知られていなかった水蒸気爆発エピソード(Es–0) が,完新世マグマ噴火エピソード(EsMP) の前に起こったことを示している.また,トレンチ地点Bでは,水蒸気爆発エピソードであるEs-1とEs-3が,薄い黒色古土壌を挟む3層および5層のサブユニットに細分された.これらには火砕サージ堆積物が挟在されることも確認された.従って,既に知られている山体中央部のEs-3,東麓のEs-4, 5, 6に加え,南麓でも火砕サージ堆積物が見出されたことから,完新世の水蒸気爆発エピソードでは,恒常的に火砕サージを伴ったものと考えられる.これまでの研究成果と総合して,恵山火山の完新世噴火シークエンスを整理すると,1万年間に少なくとも8回の噴火エピソードがあり,13枚の水蒸気爆発堆積物が堆積したことになる.すなわち,約1000年に1回程度の割合以上で,堆積物が残る規模の水蒸気爆発が生じたものと考えられる.
トレンチ壁面で観察された,水蒸気爆発堆積物の特徴を整理すると,少なくとも以下の2点を指摘することが可能である.(1) 水蒸気爆発堆積物の多くが近傍相であることから,運搬距離が短く,淘汰の悪い堆積物になりやすい。従って,水蒸気爆発堆積物の粒度組成は,堆積物毎に大きく異なり離散的な値を示すと予想される.(2) トレンチ地点AとBでは,完新世水蒸気爆発堆積物の数が大きく異なった.地点AとBの間には,地形的な障壁として,古い溶岩ドーム岩体(Ss) があり,このような地形効果も水蒸気爆発堆積物の分布に大きな制約を与えるものと推察される.いずれも既に予想されていたことであるが,今回のトレンチ調査によって改めて確認されたものと考えられる.
本研究には,文部科学省次世代火山研究人材育成プロジェクト研究の一部を使用した.