[SVC36-P15] 那須火山群,二岐火山の地質と岩石
キーワード:二岐火山、那須火山群、噴出物層序、マグマ供給系
二岐火山は,那須成層火山群を構成する火山の一つとされる.那須成層火山群の活動は,甲子旭岳(540〜420ka)に始まり,噴出源を南下させながら,三本槍岳(360〜270ka),朝日岳(170〜70ka),南月山(210〜80ka),茶臼岳(16ka〜現在)を形成したが,二岐火山(140〜90ka)はこの傾向に逆行するように北部に独立して形成された(伴・高岡,1995;藤田,1988;山元,1999).本火山が形成された那須成層火山群北部は,白河火砕流を供給した塔のへつりカルデラや,大白森山溶岩円頂丘群などの珪長質な火山活動が卓越するが,これらのマグマと二岐火山との関係も不明である.本研究では,那須成層火山群の中でも不明点が多い二岐火山について,地質学的・岩石学的手法を用いて,その形成史やマグマプロセスを詳しく検討したので報告する.
二岐火山の噴出物については,山元(1999)でその層序の概要が示され,下位から岩山溶岩,二俣火砕流堆積物(以下,堆積物を省略),二岐山溶岩(溶岩円頂丘)とされた.本研究では地形判読や地質調査から,二岐火山の詳しい噴出物層序を構築し,地質図を作成した.これまで一括されていた岩山溶岩は,流下方向の違いにより大きく3つのグループ(二岐北部溶岩:FLN,二岐西部溶岩:FLW,二岐南部溶岩:FLS)に分けられ,それぞれFLNは3つ,FLWは3つ,FLSは6つのフローユニットからなる.その上位に位置する二俣火砕流は,分布と岩相などから2つのユニット(二岐西部火砕流:FBW;二岐東部火砕流:FBE)に細分でき,FBEは二岐山溶岩の近傍に明瞭な地形的高まりを形成する.二岐山溶岩は,地形や斑晶鉱物組み合わせの違いから2つのユニット(二岐男岳溶岩円頂丘:FOD;二岐女岳溶岩円頂丘:FMD)に細分できる.本研究では,後述する岩石学的特徴も加味して,本火山の活動を溶岩流出期(前期)と溶岩円頂丘形成期(後期)の2ステージに大別した.前期噴出物はFLN,FLW,FLS,FBWであり,後期噴出物はFOD,FMD,FBEである.
全ての噴出物には球粒状の苦鉄質包有物が認められる.これらは母岩との接触部に急冷縁を持つものも認められる.母岩の斑晶鉱物組み合わせは,前期では主に石英含有カンラン石単斜輝石直方輝石安山岩〜デイサイトである.後期では主に単斜輝石直方輝石安山岩〜デイサイトで,特徴的に普通角閃石を含む場合がある.苦鉄質包有物の斑晶鉱物組み合わせは,ステージ間に有意な差はなく,主にカンラン石単斜輝石直方輝石玄武岩〜玄武岩質安山岩である.母岩と苦鉄質包有物のSiO2量は,それぞれ53.5〜68.4wt.%と50.6〜59.3wt.%である.
都城図(FeO*/MgO-SiO2図)において,前期噴出物と後期噴出物はほぼ平行で異なる組成変化トレンドを示し,同程度のSiO2量で比較した場合,後期は前期よりも高いFeO*/MgO値を示す(たとえばSiO2= 64.1wt.%のとき,前期:FeO*/MgO = 1.9;後期:FeO*/MgO = 2.2).K2Oのハーカー図では,全体に,SiO2量の増加とともに低カリウムから中間カリウム系列に遷移する.両ステージの噴出物は苦鉄質側で収束するものの,珪長質側では発散する組成変化トレンドを示し,前期は後期噴出物よりも高いK2O値である(SiO2= 63.8wt.%のとき,前期:K2O = 1.6wt.%;後期:K2O = 1.3wt.%).また,Crのハーカー図において,SiO2= 55wt.%以下の苦鉄質側で,前期噴出物は高いCr値(Cr = 120〜180ppm)を示す一方,後期では明瞭に低いCr値(Cr = 32〜66ppm)を示す.
FeO*/MgO-SiO2図で,両ステージの組成変化トレンドはほぼ平行で互いに交わらないことから,前期と後期でマグマ供給系が入れ替わったと考えられる.また全ての噴出物に苦鉄質包有物が含まれていることや,ハーカー図上で直線的な組成変化傾向を示すことなどから,本火山ではマグマ混合のプロセスが支配的であったと考えられる.ステージごとにマグマ供給系が異なり,かつマグマ混合が起きていたことを考慮すると,2つのステージでそれぞれ苦鉄質と珪長質,すなわち4つの端成分マグマの存在が示唆される(S1-mafic,S1-felsic,S2-mafic,S2-felsic).斑晶鉱物組み合わせから,S1-felsicとS2-felsicは,それぞれ特徴的に,石英および普通角閃石を含むマグマと考えられる.苦鉄質包有物については,前期(S1-mafic)から後期(S2-mafic)にかけてCrの含有量が著しく低下する一方,両方の不適合元素比が変わらないから,後期では前期より結晶分化が進んだ苦鉄質マグマがS2-felsicマグマと混合したと考えられる.
二岐火山の噴出物については,山元(1999)でその層序の概要が示され,下位から岩山溶岩,二俣火砕流堆積物(以下,堆積物を省略),二岐山溶岩(溶岩円頂丘)とされた.本研究では地形判読や地質調査から,二岐火山の詳しい噴出物層序を構築し,地質図を作成した.これまで一括されていた岩山溶岩は,流下方向の違いにより大きく3つのグループ(二岐北部溶岩:FLN,二岐西部溶岩:FLW,二岐南部溶岩:FLS)に分けられ,それぞれFLNは3つ,FLWは3つ,FLSは6つのフローユニットからなる.その上位に位置する二俣火砕流は,分布と岩相などから2つのユニット(二岐西部火砕流:FBW;二岐東部火砕流:FBE)に細分でき,FBEは二岐山溶岩の近傍に明瞭な地形的高まりを形成する.二岐山溶岩は,地形や斑晶鉱物組み合わせの違いから2つのユニット(二岐男岳溶岩円頂丘:FOD;二岐女岳溶岩円頂丘:FMD)に細分できる.本研究では,後述する岩石学的特徴も加味して,本火山の活動を溶岩流出期(前期)と溶岩円頂丘形成期(後期)の2ステージに大別した.前期噴出物はFLN,FLW,FLS,FBWであり,後期噴出物はFOD,FMD,FBEである.
全ての噴出物には球粒状の苦鉄質包有物が認められる.これらは母岩との接触部に急冷縁を持つものも認められる.母岩の斑晶鉱物組み合わせは,前期では主に石英含有カンラン石単斜輝石直方輝石安山岩〜デイサイトである.後期では主に単斜輝石直方輝石安山岩〜デイサイトで,特徴的に普通角閃石を含む場合がある.苦鉄質包有物の斑晶鉱物組み合わせは,ステージ間に有意な差はなく,主にカンラン石単斜輝石直方輝石玄武岩〜玄武岩質安山岩である.母岩と苦鉄質包有物のSiO2量は,それぞれ53.5〜68.4wt.%と50.6〜59.3wt.%である.
都城図(FeO*/MgO-SiO2図)において,前期噴出物と後期噴出物はほぼ平行で異なる組成変化トレンドを示し,同程度のSiO2量で比較した場合,後期は前期よりも高いFeO*/MgO値を示す(たとえばSiO2= 64.1wt.%のとき,前期:FeO*/MgO = 1.9;後期:FeO*/MgO = 2.2).K2Oのハーカー図では,全体に,SiO2量の増加とともに低カリウムから中間カリウム系列に遷移する.両ステージの噴出物は苦鉄質側で収束するものの,珪長質側では発散する組成変化トレンドを示し,前期は後期噴出物よりも高いK2O値である(SiO2= 63.8wt.%のとき,前期:K2O = 1.6wt.%;後期:K2O = 1.3wt.%).また,Crのハーカー図において,SiO2= 55wt.%以下の苦鉄質側で,前期噴出物は高いCr値(Cr = 120〜180ppm)を示す一方,後期では明瞭に低いCr値(Cr = 32〜66ppm)を示す.
FeO*/MgO-SiO2図で,両ステージの組成変化トレンドはほぼ平行で互いに交わらないことから,前期と後期でマグマ供給系が入れ替わったと考えられる.また全ての噴出物に苦鉄質包有物が含まれていることや,ハーカー図上で直線的な組成変化傾向を示すことなどから,本火山ではマグマ混合のプロセスが支配的であったと考えられる.ステージごとにマグマ供給系が異なり,かつマグマ混合が起きていたことを考慮すると,2つのステージでそれぞれ苦鉄質と珪長質,すなわち4つの端成分マグマの存在が示唆される(S1-mafic,S1-felsic,S2-mafic,S2-felsic).斑晶鉱物組み合わせから,S1-felsicとS2-felsicは,それぞれ特徴的に,石英および普通角閃石を含むマグマと考えられる.苦鉄質包有物については,前期(S1-mafic)から後期(S2-mafic)にかけてCrの含有量が著しく低下する一方,両方の不適合元素比が変わらないから,後期では前期より結晶分化が進んだ苦鉄質マグマがS2-felsicマグマと混合したと考えられる.