日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC37] 火山噴火のダイナミクスと素過程

2019年5月30日(木) 13:45 〜 15:15 A07 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:鈴木 雄治郎(東京大学地震研究所)、座長:鈴木 雄治郎(東京大学 地震研究所)、志水 宏行(東京大学地震研究所)

15:00 〜 15:15

[SVC37-06] 新燃岳2018年噴火のドーム形成に伴う間欠的ガス放出

★招待講演

*山田 大志1上田 英樹1森 俊哉2棚田 俊收1 (1.防災科学技術研究所、2.東京大学大学院理学系研究科 地殻化学実験施設)

キーワード:溶岩ドーム噴火、新燃岳

霧島連山の新燃岳では、2018年3月からおよそ7年ぶりとなる一連の噴火活動が発生した。噴火開始期の3月には、新燃岳火口内に溶岩ドームが形成された。霧島連山周辺に展開されている防災科学技術研究所(防災科研)の基盤的火山観測網(V-net)や気象庁火山観測網の傾斜計データ、V-netや国土地理院のGEONETのGNSS データには、同期する顕著な地盤変動が記録されている。この地盤変動は前回の2011年噴火の準プリニー式噴火や溶岩ドーム形成に伴う地盤変動と同様に、新燃岳から北西に約7 kmの地下10 kmの領域に球状圧力源を仮定することで説明することができる(上田, 2018, 火山学会)。測地観測によって得られるマグマ溜まり収縮の時間変化は、噴火活動の巨視的な振る舞いの把握に有効である。一方で溶岩ドーム形成時の観測記録には、低周波地震や火山性微動、噴火に起因すると思われる空振信号、上空二酸化硫黄量の急上昇、火口からの激しい火山灰放出等、興味深い特徴を有する観測データが記録されている(山田・他, 2018, 火山学会)。こうしたより時定数の短い信号は、地盤変動のモデリングのみでは拘束が難しい詳細なマグマの流動様式などに関する情報を有しているかもしれない。本発表では、V-netや気象庁火山観測網、東京大学が運用する上空二酸化硫黄量の定点測定データなどに記録された、溶岩ドーム形成に伴う観測記録や推定される噴火機構の特徴などについて紹介する。

防災科研による霧島連山の火山性地震リストには、3月6日の地盤変動の開始と同時に低周波地震(卓越周期が8 Hz以下)が急増し、3月7日の未明まで継続する様子が記録されている。低周波地震の震源はいずれも新燃岳の直下の深さ0.1–3.2 kmに分布することから、少なくとも地表から深さ3 km程度の領域までは、火口は鉛直の構造を有していることが示唆される。V-netや気象庁火山観測網の孔井式短周期地震計による地震波形には、上記の低周波地震の他に、継続時間が10–20分程度の微動が記録され始める。この微動はV-netの夷守台観測点(KRHV)における観測波形では0.8 Hz付近にピークをもち、低周波地震と同様に3月7日の未明までに概ね5–20分程度の休止時間を挟みながら継続する。この微動に同期して、V-net観測点に設置された微気圧計、気象庁火山観測網に設置された空振計による観測波形には、火口から伝搬していると思われる信号が記録されている。観測期間が日中の晴天時に限られる上空二酸化硫黄の定点測定データにも、3月6日の10時から17時ごろにかけて、微動に対応すると見られる二酸化硫黄量の間欠的な増加が記録されている。つまり、間欠的な微動は火口でのガス放出を伴うことが示唆される。先にも述べたとおり、溶岩ドーム形成時の傾斜変動記録には、マグマ溜まりの収縮と見られる変動が卓越している。しかし、周期250秒から2000秒のバンドパスフィルターを施すと、火口に比較的近い気象庁の高千穂河原観測点(KITK)の傾斜記録には、上記の微動に対応する山上り-山下りの周期的な変動が、最大で50 nrad程度の振幅で記録されている。この傾斜変動と地震波形における微動との対応関係を調べると、山下りの変動が微動振幅の増加に、山上りの変動が微動の休止時にそれぞれ対応する。

以上の観測データの特徴をまとめると間欠的なガス放出現象は、(1)山上りの傾斜変動、(2)山下りの傾斜変動と火口からのガス放出(微動、空振の励起)、(3)ガス放出の終了、休止時間を挟んで再びの山上りの傾斜変動、というサイクルを有している。新燃岳2011年噴火の溶岩ドーム形成期においても、上記のような間欠的な微動が地震波形に記録されており、同期する傾斜変動についてはTakeo et al. (2013)によって報告されている。Santiaguitoの溶岩ドーム成長時においても、類似する間欠的なガス放出に伴う地震波・音波の放出、関連する傾斜変動の観測事例が報告されている(Johnson et al., 2014)。また、噴火発生に先行する山上りの地盤変動という観点からは、ストロンボリ式噴火やブルカノ式噴火との類似性も指摘することができる。今後は各観測データに記録された信号の励起源の定量化を図ること、測地観測で得られているマグマ溜まり収縮の時間変化との対応を調べることで、溶岩ドーム形成の素過程についての普遍的な知見が得られることが期待される。


謝辞:気象庁火山観測網のデータを使用させて頂きました。