日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC38] 活動的火山

2019年5月28日(火) 13:45 〜 15:15 国際会議室 (2F)

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、西村 太志(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)、座長:青山 裕三浦 哲

15:00 〜 15:15

[SVC38-23] 蔵王山の2015年膨張イベント

*三浦 哲1山本 希1市來 雅啓1出町 知嗣1 (1.東北大学大学院理学研究科)

キーワード:火山、地盤変動、圧力源

はじめに:
 蔵王山では,2012年頃から深部低周波地震の発生頻度が増大するとともに,2013年以降は火山性地震・微動が観測されている.2015年4月には火山性地震が継続的に多数発生したため,気象庁が同月13日に火口周辺警報を発表するに至ったが,その後地震回数は徐々に減り始めたため,同年6月16日に警報は解除された.同時期には蔵王山周辺のGNSS連続観測網によって僅かな山体膨張も観測されている(三浦・他,JpGU2016).それ以降2018年前半に至るまで蔵王山周辺の基線長変化は概ね平坦になっている(気象庁,第141回噴火予知連資料,2018)ことから,この期間中顕著な火山性地殻変動は発生していないと考えられる.本報告ではこの期間のGNSS時系列を定常的であると仮定し,それを差し引くことによって従来よりも信頼性の高い火山性地殻変動を抽出し,変動源に関する検討を行う.
データ解析と結果:
蔵王山周辺では未だに2011年東北沖地震の余効変動が支配的であるため,本研究では2015年7月から2018年6月までの期間を定常的変動と仮定し,その期間の余効変動成分を線型,対数,年周,半年周の各関数の和で表せると仮定し,各項の係数等のパラメタを推定して近似関数を求め,それを原データから差し引いて火山性地殻変動を抽出した.以上の処理により得られた時系列に遮断周期90日のローパスフィルターをかけた上で2015年1月から6月までの期間の地殻変動の水平成分,上下成分を図1に示す.水平成分を見ると山頂周辺を中心とする山体膨張を示していることがわかる.従来の解析では,定常的地殻変動として2015年の膨張イベントの前の期間を採用してきたため,イベント直前に設置された山頂直近の観測点の変位については,解析に使用されていなかったが,今回はイベント終息後の期間を定常変動期間としたために,これらの観測点でも山体膨張を示唆する変動が抽出できた.これらのデータを用いてインバージョン解析を行い,地下の球状圧力源(茂木モデル)を推定したところ,御釜の中心から東側に約800m(図中の赤丸),深さ約5.6kmの位置に推定された。圧力変化を体積増加量に換算すると3.8×106m3といった量になった.このモデルから計算された変位を白の矢印と棒で示している.
 推定された圧力源の位置と蔵王山周辺の震源分布図を比べてみると,深部低周波地震群のほぼ直上で上部地殻内地震発生域の中に対応している.また,小川・他(2014)によって推定された地下の電気伝導度構造と比較すると,球状圧力源は蔵王山以西の深さ5km以深に推定されている高電気伝導度域の上端付近に相当することから、この高電気伝導度域がマグマ溜まりに相当している可能性が考えられる.