[AAS07-18] 2011年東南極の昭和基地周辺における積雪中のBC濃度と粒径分布の観測
キーワード:ブラックカーボン、積雪中BC、南極、アルベド、積雪、気候
エアロゾルは自然由来だけでなく人為活動からも多く排出され、様々な地点へ輸送され分布している。エアロゾルは太陽光を吸収・散乱し、また雲凝結核や氷晶核となることで雲生成や雲特性を変化させて気候へ影響を及ぼす。特に有色エアロゾルは雪氷面に沈着した後にも雪氷面反射率を低下して温暖化に寄与する。黒色炭素質エアロゾル(BC)は、雪氷面の反射率低下により温暖化に寄与する有色エアロゾルの重要な一つとして注目されているが、その気候影響評価にはまだ不確定が大きい。正確に積雪中BCの気候影響を評価するには、多くの地点の積雪中BC濃度と粒径分布の情報が必要であるが、南極ではその知見がまだ少ない。本研究では、東南極にある昭和基地周辺及びみずほ基地までのルート上において、表面積雪採取を第52次南極観測期間中の2011年4~12月に実施し、その積雪中BC濃度及び粒径分布、無機イオン濃度を測定した結果について報告する。
BC濃度と粒径分布(70~4170nm)の測定には、改良型のSingle Particle Soot Photometer (SP2)を使用した。BC質量・個数濃度の平均値は、4~11月は288.2 ng L-1及び101.5 particle µL-1だったが、12月には2117.3 ng L-1及び812.7 particle µL-1と大きく上昇した。みずほルート上積雪試料では、BC質量・個数濃度は727.7~1153.2 ng L−1及び249.6~454.6 particle µL−1となり、同期間中の昭和基地試料の1.7~2.7倍となった。本研究で測定されたBC濃度は、過去に南極の様々な地点で測定されたBC濃度と同程度だったが、粒径分布は140nm周辺と690nm周辺に質量中央径(MMD)をもつ特徴的な二山分布を示した。単一対数正規分布を仮定したMMDは149~191nmとなり、西南極で測定されたMMDに比べ小さく、平均単一粒子質量は2.8 fg particle-1で北極の観測例に比べ小さかった。無機イオン濃度はそのほぼ全てが海塩由来でBC濃度の挙動とは一致せず、内陸に行くにしたがって急激に濃度が低下した。
積雪中BC濃度と大気中BC濃度観測値と比較したところ、積雪中BC濃度は大気中BC濃度の季節変動とは挙動が異なった。12月の急激な濃度上昇時には気温が0℃を超え、太陽放射も最大となる時期であることから、積雪表面の昇華・融解・蒸発によるポストプロセスが寄与していることが示唆された。より内陸で採取された積雪ほど無機イオン濃度が低くなったことから、内陸では海洋上で生成・輸送されてくる降雪の寄与が低いと考えられる。一方で、BC濃度が内陸試料ほど高かったことから、内陸積雪中のBCは高層大気からのBC輸送、地点間の涵養量や沈着効率の違いなどを反映していると考えられる。他地域と比べて粒径分布が小さかったことは、近隣の排出源ではなく遠隔地域から長距離輸送されたBCが沈着していることを示しており、大きい粒子が除去過程によって大気中から除去され、平均単一粒子質量が低下したと考えられる。
References
T. Kinase, K. Adachi, N. Oshima, K. Goto-Azuma, Y. Ogawa-Tsukagawa, Y. Kondo, N. Moteki, S. Ohata, T. Mori, M. Hayashi, K. Hara, H. Kawashima, and K. Kita. (2019). Concentrations and Size Distributions of Black Carbon in the Surface Snow of Eastern Antarctica in 2011, Journal of Geophysical Research: Atmospheres. 125. e2019JD030737. https://doi.org/10.1029/2019JD030737
BC濃度と粒径分布(70~4170nm)の測定には、改良型のSingle Particle Soot Photometer (SP2)を使用した。BC質量・個数濃度の平均値は、4~11月は288.2 ng L-1及び101.5 particle µL-1だったが、12月には2117.3 ng L-1及び812.7 particle µL-1と大きく上昇した。みずほルート上積雪試料では、BC質量・個数濃度は727.7~1153.2 ng L−1及び249.6~454.6 particle µL−1となり、同期間中の昭和基地試料の1.7~2.7倍となった。本研究で測定されたBC濃度は、過去に南極の様々な地点で測定されたBC濃度と同程度だったが、粒径分布は140nm周辺と690nm周辺に質量中央径(MMD)をもつ特徴的な二山分布を示した。単一対数正規分布を仮定したMMDは149~191nmとなり、西南極で測定されたMMDに比べ小さく、平均単一粒子質量は2.8 fg particle-1で北極の観測例に比べ小さかった。無機イオン濃度はそのほぼ全てが海塩由来でBC濃度の挙動とは一致せず、内陸に行くにしたがって急激に濃度が低下した。
積雪中BC濃度と大気中BC濃度観測値と比較したところ、積雪中BC濃度は大気中BC濃度の季節変動とは挙動が異なった。12月の急激な濃度上昇時には気温が0℃を超え、太陽放射も最大となる時期であることから、積雪表面の昇華・融解・蒸発によるポストプロセスが寄与していることが示唆された。より内陸で採取された積雪ほど無機イオン濃度が低くなったことから、内陸では海洋上で生成・輸送されてくる降雪の寄与が低いと考えられる。一方で、BC濃度が内陸試料ほど高かったことから、内陸積雪中のBCは高層大気からのBC輸送、地点間の涵養量や沈着効率の違いなどを反映していると考えられる。他地域と比べて粒径分布が小さかったことは、近隣の排出源ではなく遠隔地域から長距離輸送されたBCが沈着していることを示しており、大きい粒子が除去過程によって大気中から除去され、平均単一粒子質量が低下したと考えられる。
References
T. Kinase, K. Adachi, N. Oshima, K. Goto-Azuma, Y. Ogawa-Tsukagawa, Y. Kondo, N. Moteki, S. Ohata, T. Mori, M. Hayashi, K. Hara, H. Kawashima, and K. Kita. (2019). Concentrations and Size Distributions of Black Carbon in the Surface Snow of Eastern Antarctica in 2011, Journal of Geophysical Research: Atmospheres. 125. e2019JD030737. https://doi.org/10.1029/2019JD030737