[AAS15-03] 地表光ファイバーケーブルとDASテクノロジーを使った激しい気象現象の観測
キーワード:DAS、hDVS、光ファイバー、マイクロスケール気象学、稠密観測、激しい気象
DAS (Distributed Acoustic Sensing)テクノロジーは新しいセンシング技術で、光通信のように光ファイバーを用いるが、入力と出力が同じ側にある。つまり、光ファイバー内を入力に対して順方向に伝搬するレーザー光を直接使わず、光ファイバーのコア内に存在する不純物や欠陥に対しレーザー光が散乱し、その一部が逆方向に伝搬する後方散乱光を用いる。散乱光は光通信にとっては損失に相当する。光ファイバーのある1点にストレスを与えると、後方散乱光はその点で振幅と位相が変化する。その後方散乱光の変化が光ファイバーのひずみの変化に一致する。光ファイバー内でのレーザー光の伝搬速度はコアの屈折率によって真空中の光速より遅くなるが、一定速度なので、時系列での後方散乱光の変化を光ファイバーの距離方向のひずみの変化に対応させることができる。つまり、接続した光ファイバーを線状の1次元の振動計測センサーにすることをDASは行う。主にシングルモードファイバーを使うが、最大で40㎞程度のセンシングが可能である。
DASテクノロジーはパイプラインのモニタリングや侵入者を感知する目的で、石油・ガス産業に今世紀初めから導入されているが、2011年頃から物理探査への応用が始まった。“heterodyne Distributed Vibration Sensing”(以下、hDVS)と呼ばれる位相差データを用いる最新の光ファイバーセンシング技術が2014年頃から使われ始め、Vertical Seismic Profile(以下、VSP)を含む良好な物理探査データ取得ができるようになった1)。3DVSPの手法で立体的なイメージングもでき、日本においても既に使われるようになってきた2)。そのhDVS装置を使って自然地震が良好に記録され、地震計を用いて記録されたデータと類似していることが近年のSEGや地震学会等で発表されている3) 4)。
2017年から日本において、50㎝以下の深さに埋設した光ファイバケーブルを使った地震観測を含むhDVSの実証実験を行っている。光ファイバーの長さは数百メートルの時もあれば、10㎞を超える長さの光ファイバーを使うこともある。観測期間は数日のこともあれば1ヶ月を超えることもある。連続記録された振動データをざっと評価すると、時折、平均的なバックグランドノイズが高いデータが記録された時があった。hDVSは光ファイバーのひずみを変化させる全ての現象に対し地震計に準ずる感度で振動に反応するので、自然地震動の他、車両の往来、工場や工事現場等からの人為的なノイズの影響を受けることは知られていた。しかし夜間、これらの要因が考えにくい時間帯に長時間に渡ってノイズレベルが高いデータが記録されることがあった。その要因を調査した際、実験現場の近くに設置してあるアメダスのデータと比較した時、激しく雨が降っていた時間帯にノイズレベルの高いデータを記録していた。
このことは、光ファイバーを振動センサーとして用いるDASテクノロジーが、激しい気象現象の観測に利用できることを示唆する。最大40kmの範囲の激しい気象状況を一台のhDVS装置で数十m置きに観測することができれば、より詳細な警報を発することが可能であろう。
日本における通信用光ファイバーは大都市部の幹線通信網を除き、電柱や鉄塔等の空気中に設置される場合が多い。そのような光ファイバーは雨や風の影響を直接受けるが、車両、工場、工事現場等の地表で発生する人為的ノイズ源の影響が少ない。つまりOPGWと呼ばれる送電線上の光ファイバーにhDVS装置をつなげると、瞬くうちに激しい気象現象の観測網を構築することができる可能性がある。雨の場合、雨脚が穏やかなときは雨がOPGWに当たる率が低くなり振動、つまり光ファイバーのひずみの変化が少なく現れ信号が小さい。雨脚が激しくなると雨がOPGWに当たる率が高くなり、振動が大きく現れ信号が大きい。さらに雨粒の大きさや、雨か雹なのかの違いを把握することができる可能性もある。
風の影響も同じように扱うことができる。風速が小さい場合は、光ファイバーの振動が小さく信号が小さく現れる。風速が大きい場合は、光ファイバーの振動が大きく信号が大きく現れる。この現象は、井戸内での液体の流れの観測に酷似しており、同じような手法で風速を定量的に観測できるであろう。
近年の日本に上陸する台風は地球温暖化の影響を受け、より激しい気象現象をもたらす。電柱や鉄塔が倒れるケースが報告されており、そのような状況の時は、より早く被害が起きた場所を特定することが早期復旧に不可欠である。DASテクノロジーと光ファイバーを用いれば、どの場所で光ファイバーが切れたか、またはそれに準ずる倒壊時の激しいショックがどこで起きたかを数mの精度で特定することができる。それに加え、光ファイバーの状況が良好なところまでの観測を継続できる。
hDVSを地中、海底、そして地上の光ファイバー網につなげることにより、地震、火山、津波、そして台風やゲリラ豪雨の観測という、総括的な防災の観測網を構築することができる可能性がある。
引用文献:
1) Kimura, T. et al, Optical Fiber Vertical Seismic Profile using DAS Technology, JpGU 2016 (RAEG 2016) STT17-12, Extended Abstract
2) Fujisawa, M. et al, Acquisition and Imaging of the Kijiyama DAS-VSP + SSP Experiment Data, SEG-J 2019
3) Kasahara, J. et al, Comparison of DAS and seismometer measurements to evaluate physical quantities in the field, ACQP2, Expanded abstract of SEG 2018
4) Nishimura, T. et al, Seismic observation at Azuma volcano using fiber optics and DAS system, SSJ 2019 (S02-04)
DASテクノロジーはパイプラインのモニタリングや侵入者を感知する目的で、石油・ガス産業に今世紀初めから導入されているが、2011年頃から物理探査への応用が始まった。“heterodyne Distributed Vibration Sensing”(以下、hDVS)と呼ばれる位相差データを用いる最新の光ファイバーセンシング技術が2014年頃から使われ始め、Vertical Seismic Profile(以下、VSP)を含む良好な物理探査データ取得ができるようになった1)。3DVSPの手法で立体的なイメージングもでき、日本においても既に使われるようになってきた2)。そのhDVS装置を使って自然地震が良好に記録され、地震計を用いて記録されたデータと類似していることが近年のSEGや地震学会等で発表されている3) 4)。
2017年から日本において、50㎝以下の深さに埋設した光ファイバケーブルを使った地震観測を含むhDVSの実証実験を行っている。光ファイバーの長さは数百メートルの時もあれば、10㎞を超える長さの光ファイバーを使うこともある。観測期間は数日のこともあれば1ヶ月を超えることもある。連続記録された振動データをざっと評価すると、時折、平均的なバックグランドノイズが高いデータが記録された時があった。hDVSは光ファイバーのひずみを変化させる全ての現象に対し地震計に準ずる感度で振動に反応するので、自然地震動の他、車両の往来、工場や工事現場等からの人為的なノイズの影響を受けることは知られていた。しかし夜間、これらの要因が考えにくい時間帯に長時間に渡ってノイズレベルが高いデータが記録されることがあった。その要因を調査した際、実験現場の近くに設置してあるアメダスのデータと比較した時、激しく雨が降っていた時間帯にノイズレベルの高いデータを記録していた。
このことは、光ファイバーを振動センサーとして用いるDASテクノロジーが、激しい気象現象の観測に利用できることを示唆する。最大40kmの範囲の激しい気象状況を一台のhDVS装置で数十m置きに観測することができれば、より詳細な警報を発することが可能であろう。
日本における通信用光ファイバーは大都市部の幹線通信網を除き、電柱や鉄塔等の空気中に設置される場合が多い。そのような光ファイバーは雨や風の影響を直接受けるが、車両、工場、工事現場等の地表で発生する人為的ノイズ源の影響が少ない。つまりOPGWと呼ばれる送電線上の光ファイバーにhDVS装置をつなげると、瞬くうちに激しい気象現象の観測網を構築することができる可能性がある。雨の場合、雨脚が穏やかなときは雨がOPGWに当たる率が低くなり振動、つまり光ファイバーのひずみの変化が少なく現れ信号が小さい。雨脚が激しくなると雨がOPGWに当たる率が高くなり、振動が大きく現れ信号が大きい。さらに雨粒の大きさや、雨か雹なのかの違いを把握することができる可能性もある。
風の影響も同じように扱うことができる。風速が小さい場合は、光ファイバーの振動が小さく信号が小さく現れる。風速が大きい場合は、光ファイバーの振動が大きく信号が大きく現れる。この現象は、井戸内での液体の流れの観測に酷似しており、同じような手法で風速を定量的に観測できるであろう。
近年の日本に上陸する台風は地球温暖化の影響を受け、より激しい気象現象をもたらす。電柱や鉄塔が倒れるケースが報告されており、そのような状況の時は、より早く被害が起きた場所を特定することが早期復旧に不可欠である。DASテクノロジーと光ファイバーを用いれば、どの場所で光ファイバーが切れたか、またはそれに準ずる倒壊時の激しいショックがどこで起きたかを数mの精度で特定することができる。それに加え、光ファイバーの状況が良好なところまでの観測を継続できる。
hDVSを地中、海底、そして地上の光ファイバー網につなげることにより、地震、火山、津波、そして台風やゲリラ豪雨の観測という、総括的な防災の観測網を構築することができる可能性がある。
引用文献:
1) Kimura, T. et al, Optical Fiber Vertical Seismic Profile using DAS Technology, JpGU 2016 (RAEG 2016) STT17-12, Extended Abstract
2) Fujisawa, M. et al, Acquisition and Imaging of the Kijiyama DAS-VSP + SSP Experiment Data, SEG-J 2019
3) Kasahara, J. et al, Comparison of DAS and seismometer measurements to evaluate physical quantities in the field, ACQP2, Expanded abstract of SEG 2018
4) Nishimura, T. et al, Seismic observation at Azuma volcano using fiber optics and DAS system, SSJ 2019 (S02-04)