JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC39] 雪氷学

コンビーナ:縫村 崇行(東京電機大学)、石川 守(北海道大学)、舘山 一孝(国立大学法人 北見工業大学)、永井 裕人(早稲田大学 教育学部)

[ACC39-P09] 空振計および地震計を使用した冬季富士山の雪崩観測 (2018-2019冬シーズン)

*池田 航1市原 美恵1本多 亮2青山 裕3酒井 慎一1 (1.東京大学地震研究所、2.山梨県富士山科学研究所、3.北海道大学地震火山研究観測センター)

キーワード:雪崩、空振、地震

空振アレイによる雪崩観測は以前から複数報告されてきたが(Arai et al., 2017)、空振計と地震計を広範囲に設置して雪崩を観測している例はまだ少ない。先行研究では大規模な雪崩発生時、序盤に密度の低いフローによって空振が励起され、デブリが降下するにつれて流れ自体の密度が増し、空振に続いて地震が発生することがあると報告されている(Kogelning et al., 2011)。つまり地震波と空振波を区別し、それぞれの到達時間を別々に特定することで雪崩の発生時刻・終了時刻を従来の地震波のみもしくは空振波のみでの観測より正確に特定するとともに、雪崩の発生地点や種類を波形から予想することができる可能性を示唆している。

 この研究では、冬の五か月の期間富士山に空振計および地震計を複数設置し、空振波・地震波の観測を行った。複数の観測点への到達時刻差による方向推定と同時に、空振波と地震波のスペクトル比などを比較することで、空振波と地震波を明確に分離して従来よりも詳細に雪崩のシグナルを得るとともに雪崩の発生地点や種類を特定することを目指している。

 今観測で空振計は、約1km離れた2地点において、マイクロフォンペアを約10m離して設置した。また、3成分地震計を2地点に、1成分地震計を3点に設置した。そのうち青草同門観測点では、空振計と地震計が近接して設置されている(図1)。観測期間は2018年12月から2019年5月の約6か月間で、サンプリングレート100Hzで記録した。同期間に、青草洞門周辺に40cm間隔のプローブ式の温度計を設置することで鉛直温度分布を計測し、降雪量および外気温のデータとした。

 まず、マイクロフォンペアの記録を1~10 Hzの帯域において相互相関を取り、空振と風ノイズを識別した。そして、2つの空振観測点(青草洞門・小御岳)において、相互相関係数が同時に0.8以上を示している時刻を抽出した。その中から人工音源や地震由来であると明確にわかる波形を除いた、雪崩に由来する可能性が高いと考えられる波形候補を50サンプル選び出した。次に、地震計記録のうち、空振励起で発生している地動と、地震波として伝播して来た揺れを区別するために、地震計・空振計が併設されている青草洞門のデータを解析した。空振励起による地震計の信号のリファレンスとして、富士山麓の北富士演習場および東富士演習場の演習によって生じていると思われる人工空振を使用した。空振計・地震計ともに記録されていたイベントが10以上あり、それらのパワースペクトル比の平均から空振に対する地震計の応答関数を求めた。雪崩候補の50サンプルに対して、同様に地震波-空振波のスペクトル比を計算し、前に求めた応答関数との比を算出した。地震計が空振由来の振動波形を描いている場合、この比率は1に近づくが、地震波が別に到来している場合、比率が大幅に跳ね上がる。この点に注目すると、雪崩候補波形の大半は空振波であると考えられる。イベントに対応する空振は、ほぼ全ての地震観測点で記録されていた。マイクロフォンペア、空振観測点間、地震観測点間それぞれに対して、時間遅れを利用した方向推定を行い、その結果はおおむね整合的であった。一方、最低4サンプルが空振波とは別に空振波由来でない地震波を記録していることが判明した。その地震動は局所的であり,雪崩の流下した場所の最寄りの観測点のみで記録されたと考えている。プローブ式温度計の記録を参照すると、これらの4サンプルはいずれも、2019/4/10~11にかけての降雪の後、昇温した期間に起こっており、雪崩の発生や様式と天候条件の関係を意味すると考えられる。

 以上の2018-2019シーズンの観測結果を受け、配置を改善した空振・地震計を2019-2020冬シーズンも富士山の北側に設置した。2019-2020冬シーズンは南岸低気圧が多発しているため、これらによる雪崩の発生状況の把握が今後の課題となっている。