JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG56] 沿岸海洋生態系─2.サンゴ礁・藻場・マングローブ

コンビーナ:梅澤 有(東京農工大学)、宮島 利宏(東京大学 大気海洋研究所 海洋地球システム研究系 生元素動態分野)、渡邉 敦(笹川平和財団 海洋政策研究所)、樋口 富彦(東京大学大気海洋研究所)

[ACG56-10] 環境DNAを利用したブルーカーボン生態系からの有機炭素系外移出・外洋隔離の実証

*宮島 利宏1浜口 昌巳2堀 正和2Munar Jeffrey3Abad Jesus3森本 直子1San Diego-McGlone Maria Lourdes3 (1.東京大学 大気海洋研究所 海洋地球システム研究系 生元素動態分野、2.水産研究・教育機構 瀬戸内海区水産研究所、3.フィリピン大学ディリマン校海洋科学研究所)

キーワード:炭素隔離、海草藻場、マングローブ、堆積物、環境DNA、ブルーカーボン

マングローブや海草藻場等のブルーカーボン生態系(塩生維管束植物が優占する極浅海域生態系)は高い群集純生産に支えられた二酸化炭素(CO2)吸収源となっている。群集純生産に対応する過剰有機炭素生産量のうち、一部は生態系内の堆積物中に難分解性有機炭素として長期貯留されるが、残りは有機物の状態のままで系外(外洋)に移出されている。地球環境に対するブルーカーボン生態系の役割を正当に評価するためには、この系外移出された有機炭素の行方を解明する必要がある。一般に、有機炭素が外洋に移出されたのち、海洋表層にあるうちに速やかに分解無機化が進むと、再びCO2として大気に回帰するため、正味のCO2吸収源として算入されない。それに対して移出有機炭素が、①有機炭素のままで外洋堆積物中に長期貯留されるか、②難分解性溶存有機炭素となって海水中に長期貯留されるか、もしくは③深海に沈降したのちに分解無機化を受けて海洋深層水中にCO2としてとどまるならば、短期的には大気に回帰しないので、正味のCO2隔離に算入することができる。これら①②③に対応する炭素プールが存在することは明らかだが、そのプールの中にブルーカーボン生態系由来の炭素がどのくらい含まれているのかを明らかにすることは技術的に極めて難しい。このことがブルーカーボン生態系のCO2吸収源評価を正確に行うための障壁となっている。
 本研究ではこのうち①のプロセス、すなわちブルーカーボン生態系から移出された有機炭素が外洋域の堆積物中に長期貯留されることを実証することを目的として、環境DNAをベースとした研究技術の開発を行った。事例研究として、今回は天然のサンゴ礁・海草藻場・マングローブが比較的良好に保存されているフィリピン・ブスアンガ島と、その西側約20 kmの範囲の海域を対象とした。この地域に優占するマングローブ2種(Rhizophora mucronata, Sonneratia alba)と海草2種(Enhalus acoroides, Thalassia hemprichii)のMatK配列(葉緑体DNAの一部)、およびR. mucronataのITS配列(核DNAの一部)に対するプローブを設計し、この海域の多点採取した表層堆積物からの抽出物に含まれるDNAコピー数をqPCR法によって定量した。また表層堆積物試料の有機・無機炭素濃度と比表面積を定量するとともに、炭素安定同位体比混合モデルによる起源推定法を適用した。採集時には船上からサブボトムプロファイラーによる観測を行い、堆積物の蓄積状況を合わせて調査した。今回の発表ではこうした調査結果の概要を報告するとともに、海草・マングローブ由来有機炭素の分布域、それらの有機炭素が貯留されやすい外洋堆積物の条件、種ごとの残留率の違いを支配する要因、堆積物中のDNAの定量結果から特定植物由来の有機炭素量を推定する際の問題点等について考察を加える。