[ACG59-01] 安定同位体組成を指標に用いた伊勢湾における過飽和メタンの起源および挙動解明
キーワード:沿岸域、メタン、物質循環、生物地球化学
メタン(CH4)は主要な温室効果ガスとして、地球の気候変動に多大な影響を与える可能性がある。沿岸海洋域はCH4に富むことが多く、大気CH4の主要供給源の一つとして知られているが、その起源(どこで生成されるCH4か?)や挙動(大気に放出されるのか?それとも酸化分解されるのか?)については未解明の部分が多い。例えば、沿岸域の海底堆積物中は還元的でCH4生成が活発に進行することが知られているが、そこに流入する河川水そのものもメタンに富んでいることが多く、沿岸海洋域におけるメタンの起源や挙動は十分理解されているとは言えない。沿岸海洋域におけるメタンの起源や挙動を解明することと、海洋-大気間のメタン放出フラックスを時間変化を含めて正確に見積ることは、海洋環境が現在および将来の地球環境や気候変動に対して与える影響を理解する上で極めて重要である。
そこで本研究では、伊勢湾・三河湾海域において、水柱中と堆積物間隙水、さらに流入河川(木曾川、長良川、矢作川)において溶存CH4の濃度と安定同位体比(δ13CとδD)を測定し、これを指標に用いることでCH4の起源と水圏環境における挙動を解明することに挑戦した。サンプリングは2012、2013、2016、2017、2019年の各年に行った。
その結果、伊勢湾では主要流入河川の河口に近接した湾奥付近の表層水中で濃度極大(60~299 nmol/kg)が観測され、大気に対する過飽和率は、2700 %から13000 %に達することが明らかになった。また、湾口部を除いた伊勢湾表層水中のCH4の同位体比 (δ13C:-60~-56 ‰、δD:-215~-190 ‰) は、流入河川水中のCH4の同位体比 (δ13C:-57 ‰、δD:-206 ‰) とほぼ一致し、伊勢湾奥部の表層で極大値が見られたCH4の大部分は流入河川由来であることと、水柱におけるCH4の酸化は無視できるレベルであることが分かった。従って、河川から流入した過飽和CH4は、希釈と大気への放出のいずれかによって濃度が減少したことになる。そこで、伊勢湾奥部における大気へのCH4放出フラックスを求めたところ3.2~52.3×103 mol/dとなり、流入河川から伊勢湾へのCH4流入フラックス (4.3~73.4×103 mol/d) と同程度になった。つまり、河川から伊勢湾に流入するCH4の大部分は流入した直後に大気へ放出されることが明らかになった。沿岸域における大気へのCH4の放出量を考える上で、流入河川水中のCH4の起源や挙動を解明することが重要である。
そこで本研究では、伊勢湾・三河湾海域において、水柱中と堆積物間隙水、さらに流入河川(木曾川、長良川、矢作川)において溶存CH4の濃度と安定同位体比(δ13CとδD)を測定し、これを指標に用いることでCH4の起源と水圏環境における挙動を解明することに挑戦した。サンプリングは2012、2013、2016、2017、2019年の各年に行った。
その結果、伊勢湾では主要流入河川の河口に近接した湾奥付近の表層水中で濃度極大(60~299 nmol/kg)が観測され、大気に対する過飽和率は、2700 %から13000 %に達することが明らかになった。また、湾口部を除いた伊勢湾表層水中のCH4の同位体比 (δ13C:-60~-56 ‰、δD:-215~-190 ‰) は、流入河川水中のCH4の同位体比 (δ13C:-57 ‰、δD:-206 ‰) とほぼ一致し、伊勢湾奥部の表層で極大値が見られたCH4の大部分は流入河川由来であることと、水柱におけるCH4の酸化は無視できるレベルであることが分かった。従って、河川から流入した過飽和CH4は、希釈と大気への放出のいずれかによって濃度が減少したことになる。そこで、伊勢湾奥部における大気へのCH4放出フラックスを求めたところ3.2~52.3×103 mol/dとなり、流入河川から伊勢湾へのCH4流入フラックス (4.3~73.4×103 mol/d) と同程度になった。つまり、河川から伊勢湾に流入するCH4の大部分は流入した直後に大気へ放出されることが明らかになった。沿岸域における大気へのCH4の放出量を考える上で、流入河川水中のCH4の起源や挙動を解明することが重要である。