JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW32] 水圏生態系における物質輸送と循環:源流から沿岸まで

コンビーナ:伴 修平(公立大学法人 滋賀県立大学)、Adina Paytan(University of California Santa Cruz)、細野 高啓(熊本大学大学院先端科学研究部)、前田 守弘(岡山大学)

[AHW32-P14] 伊勢湾流域を対象とした栄養塩輸送モデリング

*松浦 太一1田原 康博1才田 進1吉田 堯史1井上 徹教2 (1.株式会社地圏環境テクノロジー、2.港湾空港技術研究所)

キーワード:伊勢湾、流域水循環、流域モデリング、栄養塩輸送モデリング、GETFLOWS

閉鎖性海域では、富栄養化に伴う赤潮の発生などの問題が生じており、海域を対象とする数値シミュレーションによって、外洋水の流入に伴う中層貧酸素化、苦潮の発生などの湾内で起こる複雑な現象の再現などが検討されている。シミュレーションに用いられる栄養塩流入条件には実測値を可能な範囲で反映する場合もあるが、時間的・空間的にそれらを詳細に考慮することは多くなく、利用可能な実測データの少なさから難しい場合も多い。また、陸域からは地表水からだけでなく地下水からも栄養塩が輸送されるが、その実態は必ずしも時間的・空間的に詳細に把握されているわけではない。地下水として流入する栄養塩は、沿岸域の地質特性や地下水利用、流域における栄養塩負荷等に依るところが大きいと考えられ、流域スケールでの栄養塩輸送モデリングは、沿岸域の複雑な物質移動現象を解明するために有用なツールとなり得る。本稿では、長期における流域の栄養塩負荷や地下水利用の実態に着目し、伊勢湾の栄養塩挙動を追跡可能な海洋数値シミュレータに対して、より実態が再現された陸域での栄養塩負荷条件を引き渡すことを目的とした栄養塩輸送モデリングを実施した。
伊勢湾流域の陸域から海域へ流入する栄養塩を算定するため、流域スケールの水理地質構造をはじめ陸面で生じる水文プロセスや水利用状況を反映した伊勢湾流域圏モデルを構築した。特に、1970年頃から現在にかけての地下水位ならびに窒素濃度の変化(地下水位は一旦大きく低下した後に徐々に回復し、非常に小さかった窒素濃度は徐々に上昇していく傾向を示している)を捉えるために、地下水揚水や栄養塩負荷過程をモデルに組み込み、再現シミュレーションを行った。この再現シミュレーションにおいて、実測された河川流量や地下水位、アンモニア態窒素・硝酸態窒素等の水質といった多点の時間変化データとのヒストリーマッチングを通じ、構築モデルの検証を行った。本モデリング検討には、地圏流体シミュレータGETFLOWSを適用した。
地下水位の再現状況は、1970年代の地下水位が低下していた状況から2010年代に向けて徐々に回復する傾向を良好に再現していた。また、河川水中のアンモニア態窒素および硝酸態窒素の濃度データと比較を行ったところ、実測データを良好に再現する結果が得られた。このことから、統計データ等を用いて推定した流域への栄養塩負荷は時間的・空間的に実態に整合していたものと考えられる。地下水中の観測濃度データは、季節変化に対する応答の検証が未実施であるものの、経年変化の再現は概ね整合する結果が得られた。
解析結果における硝酸態窒素の陸域から海域へ流入量の変動パターンは、降水の時間変動による影響が大きく、特に地表水成分に依るところが大きい。一方で、地下水成分は年間変動が小さいものの、その流入量は地表水の数%~10%程度にあたることが示唆された。閉鎖性海域での栄養塩挙動を評価するにあたって、地表水だけでなく地下水からの栄養塩流入を考慮することで、海域における栄養塩輸送の実態把握やより精度の高い対策時の効果予測につながると考えられる。