JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW34] 同位体水文学 2020

コンビーナ:安原 正也(立正大学地球環境科学部)、風早 康平(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、大沢 信二(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設(別府))、浅井 和由(株式会社 地球科学研究所)

[AHW34-P06] 埼玉県神川町渡瀬と周辺地域における深部流体の上昇量

*長谷川 武俊1安原 正也2李 盛源2森川 徳敏3塚本 斉3 (1.共同エンジニアリング(株)、2.立正大学地球環境科学部、3.産業技術研究所 活断層・火山研究部門)

キーワード:河川水、塩化物イオン、負荷量、深部流体、収支

埼玉県神川町渡瀬地域の浅層地下水は,高濃度の塩化物イオン(12.4 mg/L〜1720 mg/L:1963年)が含まれている(高瀬,1963).渡瀬地域で2019年2月に行った浅層地下水調査においても,同様に高濃度の塩化物イオンを含まれていることが確認でき,塩化物イオン濃度は6.2 mg/L〜284.4 mg/Lであった.そして渡瀬地域の浅層地下水の水質組成はNa-Cl型やNa-HCO3・Cl型を示した.この水質組成は,神流川を挟み対岸の群馬県藤岡市浄法寺地域の八塩鉱泉群(温鉱泉水)や小河川においても同様な傾向がみられる(長谷川ほか,2019).この塩化物イオンは,地下深部から上昇し基盤(三波川変成岩)を通過する深部流体によるものである.長谷川ほか(2019)では酸素・水素安定同位体比などを用いて深部流体の起源について推定を行った.その結果,深部流体の起源は長期停滞水とスラブ起源水の混合物だと推定された.さらに,温鉱泉水の同位体比は温鉱泉水のエンドメンバー(δD:-10.8 ‰,δ18O:4.3 ‰)と天水線の混合線上に位置することから,深部流体は渡瀬地域や浄法寺地域の小河川水や浅層地下水と混合していることが示唆された.またヘリウム同位体比により,深部流体は渡瀬地域と浄法寺地域に同一起源のものが面的に上昇していることが明らかとなった.しかし深部流体の上昇・混入量やそのルートついては神流川の塩化物イオン収支を用いて検討を行ったが,未だ明白になっていない.そこで本研究では,長谷川ほか(2019)による深部流体の上昇・混入量の考察に,渡瀬地域の浅層地下水から神流川へ流入する塩化物イオン負荷量を加えることにより,深部流体の上昇・混入量についてさらに詳細な検討を行った.

塩化物イオンの収支には2018年12月〜2019年2月を対象に量的評価を試みた.研究対象地域全体で約491 kg/dayの塩化物イオン負荷量が増加,すなわち深部流体からの塩化物イオンの負荷が認められた.その内訳は,渡瀬地域の小河川経由で約 0.18 kg/day, 浄法寺地域の小河川経由で約 51.8kg/dayであった(長谷川,2019).また渡瀬地域の浅層地下水から神流川へ流入する塩化物イオンは,ダルシーの法則により76.0 kg/dayと明らかとなった.このことから残りの363 kg/dayの塩化物イオンは河床を通じて神流川に直接流入していることが明らかとなった.次に,これらの塩化物イオン負荷量に基づいて深部流体の上昇量について概算を行った.その際,深部流体の端成分の塩化物イオン濃度は,温鉱泉水の最大塩化物イオン濃度である12 kg/m3(12,000 mg/L)を用いた.概算を行った結果,両地域における深部流体の上昇量(混入量)は約 41 m3/day と推定された.このうち,渡瀬地域の小河川,浄法寺地域の小河川,渡瀬地域の地下水への混入量はそれぞれ約0.0015 m3/day,4.3 m3/day,6.3 m3/day と推定され,残りの約 30 m3/day は河床を通じて神流川に直接流入していることが明らかとなった.本発表では,本研究対象地域における深部流体の上昇量の推定方法について報告する予定である.