JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW35] 表流水・地下水の水資源と社会、環境に関する展望

コンビーナ: Abhishek(Tokyo Institute of Technology)、Tsuyoshi Kinouchi(Tokyo Institute of Technology)、Brijesh K yadav(Indian Institute of Technology Roorkee)

[AHW35-P01] なぜ琵琶湖の全層循環は2019年春季に未完だったのか?:数値実験検証

*中田 聡史1山田 健太2岡本 高弘2山本 春樹2霜鳥 孝一1今井 章雄1 (1.国立環境研究所、2.滋賀県琵琶湖環境科学研究センター)

キーワード:琵琶湖、全層循環、湖面冷却、貯熱量、湖面風、潜熱フラックス

琵琶湖における2018年度の全層循環は、 北湖の一部において、未完了であったことが報告されている。そこで本研究では、全層循環が一部未完であった原因を調べるため、琵琶湖流動シミュレーションに基づいた熱収支解析を実施した。琵琶湖は、年一回全層循環が起きる単一循環湖である。 湖面冷却に伴う鉛直混合によって、溶存酸素が琵琶湖の底層まで供給され、ベントスや底層に生息する魚介類の生育を支えている。 近年、将来気候においては世界規模で多くの単一循環湖の割合が減少し、全層循環の頻度が減るか、ないしは永年成層湖に変化するとの報告がある。滋賀県琵琶湖環境科学研究センターの調査結果から、琵琶湖においても上述のとおり2018年度の全層循環は一部未完了であったが、2017年度の全層循環は2018年1月下旬に早期確認された。流動シミュレーションを実施した結果、両年度とも、冷却期間における水温の時空間変動や鉛直混合によって季節水温躍層が破壊されていく様子を良く再現していた。次に、全層循環の強さを決定する冬季湖面冷却に注目して、両年度において琵琶湖全体の熱収支解析をした。その結果、2018年度の湖面冷却は2017年度よりも弱かった。これは、湖面冷却期における2018年度の平均気温が2017年度よりも高く、平均風速が小さかったため、2018年度の顕熱と潜熱フラックスが弱かったからである。これらの要因が、全層循環が一部未完であった原因であると考えられる。この湖面冷却の違いによって、2018年度においては琵琶湖の全貯熱量は約1000 PJを一度も下回らなかったが、2017年度の貯熱量は2018年1月から3月まで1000 PJを下回っていた。 この貯熱量(〜1000 PJ)は、現時点の琵琶湖において、鉛直混合層が最深部の湖底に到達する閾値になるものと見られ、すなわち全層循環が完了したかどうかの指標の一つになるものと考えられる。 本研究結果は、現在は単一循環湖である琵琶湖が、将来の気候変動によって非単一循環湖または数年ごとに全層循環がおきる湖に変化するかどうかを指標化できる可能性を示唆している。