JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS18] 陸域と海域をつなぐ水循環と、沿岸域の海洋循環・物質循環

コンビーナ:木田 新一郎(九州大学・応用力学研究所)、田中 潔(東京大学)、山崎 大(東京大学生産技術研究所)、速水 祐一(佐賀大学)

[AOS18-P02] 鹿島市沿岸有明海における海洋環境とマクロベントス分布

*速水 祐一1藤井 直紀1 (1.佐賀大学)

キーワード:有明海、マクロベントス、底質、水質、鹿島市

鹿島市沿岸の有明海は,広大な泥干潟が広がり,ムツゴロウに代表される多くの有明海特産種が生育する生物多様性に富んだ海域である.また,ノリ養殖やカキ、サルボウなどの漁場でもある.一方で,近年は赤潮や貧酸素水塊が発生し,問題になっている.しかし,干潟上を含めた本海域の詳細な水質・底質分布や,生物分布については調査データが少なく,十分に分かっていない.こうした状況において,2015年に本海域の北部にある肥前鹿島干潟が,ラムサール条約登録湿地となった.それを受けて,本海域の環境特性・生態系を把握し,適切な保全方策を検討するため2015年から毎年調査を実施した。本調査では、鹿島市沿岸の18測点で水質分布調査を夏季と冬季の大潮と小潮に1回ずつ実施した。また、同じ測点で夏季と冬季に1回ずつ底泥とマクロベントスの調査を行なった。さらに、沿岸の干出した干潟上5点で、岸から底泥とマクロベントスの調査を行った。水質については多項目水質計によって,水温,塩分,濁度,クロロフィルa,溶存酸素濃度の測定を行なった。底質調査では、グラブ採泥器で表層底泥を採取し、含水率,有機炭素・窒素濃度,AVS,ORPの分析を行った。マクロベントスは1mm目合いの篩で採取した底泥をふるい、残ったものを70%エタノールで固定し、同定・計数した。これらの調査結果をもとに、有明海鹿島市沿岸海域の水質・底質分布の平均分布特性とマクロベントス分布との関係を整理した。

 ここでは2015~18年度のデータの解析結果を記す。肥前鹿島干潟は鹿島市沿岸の干潟でもっとも強く淡水の影響を受けており、水温変動も激しかった。また、鹿島市沿岸で最も高濁度の水域であり、クロロフィルは相対的に低かった。こうしたことから、肥前鹿島干潟は鹿島市の干潟の中でも環境の厳しい干潟であると考えられた。鹿島市沿岸海域の潮下帯では夏季の小潮時にDOが低く、しばしば貧酸素化していた。また、同水域の底質は低ORP・高AVSとなっていた。これは、夏季の潮下帯は生物の生息に厳しい環境であったことを示す。しかし、マクロベントスの調査結果では、種数・個体数共に夏季・冬季共通して潮下帯で多くなっていた。冬季の肥前鹿島干潟は種数・個体数共に最も少ない水域となっていた。冬季のマクロベントス種数・個体数は水温と高い負の相関があり、ベントス分布が温度の影響を強く受けていることを示していた。夏季については、ORP・AVSと種数・個体数には相関がなく、種数とDO・クロロフィルには負の相関が見られた。このような結果が得られた原因は現状では不明である。肥前鹿島干潟は鹿島市沿岸の干潟の中でも環境が厳しく、生息生物量・種数が少ない干潟であった。よって、今後はさらに保全対象干潟域を広域化する等の試みが必要と考えられた。大会では2019年度の調査結果まで含めて報告したい。

本研究は佐賀県鹿島市からの受託研究「鹿島市沿岸有明海海洋環境調査事業」の一環として実施した。