JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-BG 地球生命科学・地圏生物圏相互作用

[B-BG02] 生命-水-鉱物-大気相互作用

コンビーナ:上野 雄一郎(東京工業大学大学院地球惑星科学専攻)、掛川 武(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、高井 研(海洋研究開発機構極限環境生物圏研究センター)、鈴木 庸平(東京大学大学院理学系研究科)

[BBG02-06] 32億年前のバーバートン海域での一次生産者に対する制約:バーバートン、シバヒルズ地域チャートに対する地質学的地球化学的研究

*齊藤 光1石田 章純1掛川 武1 (1. 東北大学理学部地学専攻)

キーワード:太古代、バーバートン緑色岩帯、縞状鉄鉱層 (BIF)、黒色チャート、有機物

太古代の堆積岩中の有機物は, 当時の海洋環境での生物活動を記録している. 多くの先行研究において太古代の生物圏を理解するため縞状鉄鋼層 (BIF)を対象としているがBIF中の有機物の産状については議論されてこなかった. なぜならばBIFにおいて有機物は分解されやすく, 鉄が豊富な層にほとんど保存されないからである. そこで本研究では約33-32億年前のOnverwacht層群上部およびFig Tree層群 (低緑色片岩相程度)の黒色チャートおよびBIFに着目して, 有機物の産状から当時の海洋における一次生産者を制約した.

黒色チャート層はBIF層と成層構造を持つことが確認された. このことは同じような堆積環境で堆積していることを示している. ほとんどの黒色チャート試料ではミリメートルスケールの有機物からなる堆積層が保存されていた. チャートのマトリックスからも細粒な有機物が確認された. 一部の黒色チャート試料では角礫化されており, 10μmスケールの塊状の有機物を含む石英脈が入っていた. また, 有機物からなる脈も確認された. これらの脈は堆積後, 続成作用の初期における有機物の移動が起きたことを示唆している. 直径1マイクロメートル程度の細粒な有機物がBIFの鉄に富む層中の鉄鉱物間の微小質石英中で普遍的に確認された. このような有機物はBIFの堆積と同時期のものであり, 当時の海洋における一次生産者の直接的証拠になり得る可能性が高い. このようなBIF中の有機物の産状は先行研究において報告されておらず,本研究が初めての記載例となる .

有機炭素含有量 (TOC)は黒色チャート試料において0.3 - 0.4 wt%, BIF試料においては0.0 – 0.2 wt%であった. 検出可能な量の有機物がBIF中に残されており,これは先述の有機物の観察結果と一致した. 黒色チャートおよびBIF試料から分離したケロジェンの形態観察をFE-SEMを用いて行った. その結果ケロジェンは岩石の種類に関係なく全て一様にふわふわした形態を持っていることがわかった. ケロジェンに対するラマン分光分析より推定最高変成温度は試料にかかわらず全て350℃程度と一様であることがわかった. これはこの地域の変成相 (低緑色片岩相)と一致した.
炭素安定同位体組成 (δ13C)は黒色チャート試料において-27.7から-27.0‰ (VPDB), BIF試料において-30.2 から -25.9‰ (VPDB)であった. 黒色チャートおよびほとんどのBIF試料において同位体組成は試料採取地点や岩相に関わらず比較的一様な値を示した. 特にBIF試料の鉄に富む層とチャート層の間のδ13C値に明確な違いは確認されなかった. このことは非酸素発生型光合成(例えば嫌気性光合成鉄酸化菌)が32億年前のBarberton地域の海洋において一次生産者になり得ないことを示唆する. このようなδ13C値はカルビン-ベンソンサイクル型の炭素固定が32億年前の海洋でより主要であったことを示しており, これは シアノバクテリなどに代表される酸素発生型光合成細菌が一次生産者であったことを示唆している. 一方で, 一部のBIF試料において12Cに富む (δ13C : -30.2‰) 試料が確認された. 12Cに富むBIFは当時の海洋の炭素リザーバーの炭素安定同位体組成の変化に対応する可能性が高い. このようなリザーバーの組成変化は酸素/非酸素の成層海洋において堆積有機物の分解および酸化による軽い同位体組成を持つ有機物の海洋へのリサイクルによって起きていたことが示唆された.