[G02-P07] 総合的防災教育とは
キーワード:総合的防災教育、普遍的・継続的な防災教育、防災教育の体系化
本セッションは、スコープにあるように「普遍性と継続性を兼ね備えた防災教育とはどのようなものか。また、それを教育現場に実装するにはどうすればよいか」をテーマに掲げている。従来の防災教育では、多くの場合、児童・生徒は災害によって被災者にどのような事が起きたかを学び、しかる後に避難訓練に参加する。そのような教育プログラムは、災害への恐怖と、犠牲者への同情あるいは共感に根差しており、学習者の感情に訴える教育と言える。利点として、学習への動機付けの容易さを挙げることができる。しかし、もともと感情は変化しやすいものであるから、継続性という点では多くは望めない。また、被災地との地理的な距離とともに共感の度合いは減じるため、普遍性の点でも課題が残る。
「普遍性と継続性のある教育とは何か」との問いかけのヒントは、実は身近なところにある。学校では日々、教科・科目の授業がされているが、それらは日本中ほぼ同質であり(普遍性)、かつ数十年にわたって行われている(継続性)。しばしば、そのような教育は、だれがやっても代わり映えのしない、マンネリ化した教育と批判されるが、少なくとも公教育は基本的にそうでなければならない。そして、一般の教科・科目が普遍性と継続性を持ち得ているのは、それぞれが学問的ないし教育的体系を持っているからである。一般の教科・科目のこのような成り立ちに倣えば、普遍的かつ継続的な防災教育を実現するためには、防災教育を体系化することが肝要と考えられる。
文部科学省主催の「東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有識者会議」の最終報告(2012年公表)は、「(防災教育の)系統的・体系的な整理」を謳っている。これを受けて、同省は2013年度に「防災教育の体系的な指導に関する調査」を行った。その報告書には、全国の教育委員会を対象とした「防災教育において重視している指導」を問う選択式質問(複数回答可)があり、そのアンケート結果が報告されている。小・中・高等学校で割合は異なるが、上位の3項目はいずれも、「避難訓練等を通して迅速な避難行動ができるようになる」、「災害によって引き起こされる危険を予測し、自ら危険を回避できるようになる」、「地震や津波などの自然現象や災害、防災・減災に対する正しい知識を習得」である。これらの質問項目から、文科省も避難訓練だけではない防災教育の「体系的な指導」を目指していることが見えてくる。しかしながら、質問項目に含まれる「避難行動」、「危険の予測」、「防災・減災の正しい知識」とは何かについては何も語っていない。学校の先生達も、重視するべきであるとは分かっているが、具体的に何を教えるとよいのかは、おそらく承知していない。その結果として、東日本大震災以前から教育現場には「自然災害や防災の一般論よりも、学校周辺の地域性を考慮できるゲストティーチャーや、学校周辺の地域性が考慮された防災教育プログラムに対する極めて高いニーズ」があると言われている(佐藤・他 2010、または「教育現場の防災読本」p.308)。この要望を満たすだけの十分な数の防災専門家がいれば問題はないのだが、現実にはあり得ない。従って、「体系的な防災教育」を実施するには、まず個々の教師が体系的な防災知識を持たなければならない。
体系的防災教育を具体化するために著者は、災害・防災を専門とする多くの人たちの協力を得て、2018年に「教育現場の防災読本」を上梓した。防災知識には、多くの分野に属する事象とそれを抽象化した概念が含まれる。それらを個々バラバラに列挙しても体系化とは言えない。異なる事象と概念を相互に密接に関係づけることによって、災害や防災という複雑な現象を漏らさず記述できる体系が生まれる。そのような点を意識して、「防災読本」の監修に当たっては、異なった分野に属する事柄を関連付けるための注記の付与を綿密に行った。例えば、第1章「自然災害概説」の5節「土砂災害」の75ページの脚注には、『土砂災害警戒区域と同特別警戒区域の違いについては、第2章4節「防災関連特別法の例-土砂災害防止法」を参照』と記している。つまり、読者は、自然災害の諸相に応じて法律が制定され、その法律に則って行政が規制を施行するという関係性を読み取ることができるようになっている。このように、異なった分野が扱う事象とそこで用いられる概念が緊密に連携している体系をもった防災学の教育を、本セッションでは総合的防災教育と呼んでいる。防災教育の最終的な目標は、高い防災意識をもつ住民を育てることである。講演では、住民自らが体系的な防災知識を身に着けておかなければならない理由を、具体例を挙げて議論する。
「普遍性と継続性のある教育とは何か」との問いかけのヒントは、実は身近なところにある。学校では日々、教科・科目の授業がされているが、それらは日本中ほぼ同質であり(普遍性)、かつ数十年にわたって行われている(継続性)。しばしば、そのような教育は、だれがやっても代わり映えのしない、マンネリ化した教育と批判されるが、少なくとも公教育は基本的にそうでなければならない。そして、一般の教科・科目が普遍性と継続性を持ち得ているのは、それぞれが学問的ないし教育的体系を持っているからである。一般の教科・科目のこのような成り立ちに倣えば、普遍的かつ継続的な防災教育を実現するためには、防災教育を体系化することが肝要と考えられる。
文部科学省主催の「東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有識者会議」の最終報告(2012年公表)は、「(防災教育の)系統的・体系的な整理」を謳っている。これを受けて、同省は2013年度に「防災教育の体系的な指導に関する調査」を行った。その報告書には、全国の教育委員会を対象とした「防災教育において重視している指導」を問う選択式質問(複数回答可)があり、そのアンケート結果が報告されている。小・中・高等学校で割合は異なるが、上位の3項目はいずれも、「避難訓練等を通して迅速な避難行動ができるようになる」、「災害によって引き起こされる危険を予測し、自ら危険を回避できるようになる」、「地震や津波などの自然現象や災害、防災・減災に対する正しい知識を習得」である。これらの質問項目から、文科省も避難訓練だけではない防災教育の「体系的な指導」を目指していることが見えてくる。しかしながら、質問項目に含まれる「避難行動」、「危険の予測」、「防災・減災の正しい知識」とは何かについては何も語っていない。学校の先生達も、重視するべきであるとは分かっているが、具体的に何を教えるとよいのかは、おそらく承知していない。その結果として、東日本大震災以前から教育現場には「自然災害や防災の一般論よりも、学校周辺の地域性を考慮できるゲストティーチャーや、学校周辺の地域性が考慮された防災教育プログラムに対する極めて高いニーズ」があると言われている(佐藤・他 2010、または「教育現場の防災読本」p.308)。この要望を満たすだけの十分な数の防災専門家がいれば問題はないのだが、現実にはあり得ない。従って、「体系的な防災教育」を実施するには、まず個々の教師が体系的な防災知識を持たなければならない。
体系的防災教育を具体化するために著者は、災害・防災を専門とする多くの人たちの協力を得て、2018年に「教育現場の防災読本」を上梓した。防災知識には、多くの分野に属する事象とそれを抽象化した概念が含まれる。それらを個々バラバラに列挙しても体系化とは言えない。異なる事象と概念を相互に密接に関係づけることによって、災害や防災という複雑な現象を漏らさず記述できる体系が生まれる。そのような点を意識して、「防災読本」の監修に当たっては、異なった分野に属する事柄を関連付けるための注記の付与を綿密に行った。例えば、第1章「自然災害概説」の5節「土砂災害」の75ページの脚注には、『土砂災害警戒区域と同特別警戒区域の違いについては、第2章4節「防災関連特別法の例-土砂災害防止法」を参照』と記している。つまり、読者は、自然災害の諸相に応じて法律が制定され、その法律に則って行政が規制を施行するという関係性を読み取ることができるようになっている。このように、異なった分野が扱う事象とそこで用いられる概念が緊密に連携している体系をもった防災学の教育を、本セッションでは総合的防災教育と呼んでいる。防災教育の最終的な目標は、高い防災意識をもつ住民を育てることである。講演では、住民自らが体系的な防災知識を身に着けておかなければならない理由を、具体例を挙げて議論する。