JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG28] 原子力と地球惑星科学

コンビーナ:笹尾 英嗣(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)、幡谷 竜太(一般財団法人 電力中央研究所)、竹内 真司(日本大学文理学部地球科学科)

[HCG28-01] キャビティーリングダウン分光法による微量メタンガス測定に基づく地下坑道中の透水性割れ目の迅速な検出:瑞浪超深地層研究所における事例

*丹羽 正和1天野 健治2竹内 竜史1島田 耕史1 (1.日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター、2.日本原子力研究開発機構 地層処分研究開発推進部)

花崗岩のような結晶質岩では,割れ目が主な地下水の移行経路となりうる.ただし割れ目中の地下水の通しやすさは均一ではなく,割れ目の連続性や充填物の有無,複数の割れ目どうしの交差関係などにより,地下水を通しやすい割れ目は限定的に選択される.そのため,結晶質岩を対象とした地層処分のサイト設計や安全評価にあたっては,地下水を通しやすい透水性割れ目の分布を把握することが非常に重要となる.

 近年のガス測定技術の革新的な発展により,数ppbの計測分解能と1秒程度の時間分解能を有するキャビティーリングダウン分光法(CRDS法)を用いたメタンガス測定装置が開発されている.CRDS法は,測定容器の中にレーザーを注入し,一対の高反射率ミラー間を多数回反射させた時にミラーから漏れ出す光の強度を測定し,その減衰率から測定容器内のガス濃度を求める手法である(O’keefe and Deacon, 1988, Review of Scientific Instruments).本研究では,結晶質岩中に掘削された地下坑道における透水性割れ目の迅速な検出を目的として,CRDS法による可搬型のメタンガス測定装置(Picarro GasScouter TM G4301)の適用性の検討を行った.

 事例対象としたのは,瑞浪超深地層研究所のGL-500 m水平坑道(研究アクセス北坑道)である.坑道が掘削されている白亜紀後期の土岐花崗岩中の地下水からは,大気中のバックグラウンドレベルを大幅に超える濃度のメタンが含まれることが知られている(Ino et al., 2018, ISME Journal).ガス測定は,一部を除き花崗岩の岩盤が露出している坑道の東側の壁面を対象として行った.

 本研究では,G4301を用いて,2つの方法でのメタンガス濃度分布測定を試みた.1つ目の方法は,坑道壁面に沿って定速(0.5 m/秒)で歩きながら測定し,メタンガス濃度変化と距離との関係をグラフ化する方法である.2つ目の方法は,0.5 mまたは1 mおきに30秒間立ち止まって測定し,各地点のメタンガス濃度の平均値と距離との関係をグラフ化する方法である.1つ目の方法では,複数回往復して測定を行ったが,いずれの測定でも基点から61~62 m,66~67 m,および79~81mの地点でメタンガス濃度の明瞭なピークが認められ,再現性が高いことが示された.この3地点は,坑道掘削時の壁面観察で認められた1~10 L/分の湧水を伴う割れ目の分布位置と対応し,メタンガス濃度分布測定が透水性割れ目分布の把握にも有効である可能性を示唆する.一方,2つ目の方法では,61~62 mと66~67 mの地点ではメタンガス濃度の明瞭なピークが認められたが,79~81mの地点ではメタンガス濃度は相対的に高いものの,明瞭なピークとしては認められなかった.これは,割れ目からのメタンガス放出地点とメタンガス濃度測定地点とのずれに起因している可能性がある.

 1つ目の方法では,100 mの測線距離をわずか3分20秒で測定することが可能であり,可搬型のCRDS法によるガス測定が,地下坑道中の透水性割れ目の迅速な検出手法の一つとして非常に有効であることが言える.