JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GM 地形学

[H-GM03] 地形

コンビーナ:八反地 剛(筑波大学生命環境系)、瀬戸 真之(福島大学うつくしま福島未来支援センター)

[HGM03-P08] 相模川下流平野における後期更新世埋没段丘面の分布

*佐藤 善輝1久保 純子2 (1.産業技術総合研究所 地質情報研究部門 平野地質研究グループ、2.早稲田大学教育学部)

キーワード:埋没段丘、関東ローム、地形発達、河成段丘、海水準変動

相模川下流平野は西側を大磯丘陵および丹沢山地,北側~東側を多摩丘陵によって境された東西約15 km,南北約33 kmの大きさを有する堆積平野で,大陸棚が狭く海水準変動により河床勾配が変化しやすいため,中期~後期更新世に形成された河成段丘面が複数発達する(大矢ほか, 1991; 久保, 1997).そのうち急勾配の段丘面は,厚木市付近(現在の海岸線から約15 km)よりも下流側で沖積低地の地下に埋没する.これら埋没段丘面分布に関しては久保(1997)により概略が示されているものの,多数のボーリング資料を用いた定量的解析は実施されていない.本研究では,ボーリング資料の解析を行い,新規に掘削したボーリングコア試料の解析結果(佐藤ほか, 2017)も考慮して,埋没段丘面分布について検討した.
 自治体や官公庁等が所有する既存ボーリングデータを借用し,埋没段丘面を含む沖積層基底を識別した.ボーリング柱状図解析システムを用いて断面図を作成し,粒度やN値,ローム層の有無などを手がかりとして各地点における「沖積層基底」と「ローム層の層厚」を調べた.この結果,沖積層基底については3,890本分,ローム層の層厚については2,033本分のデータが得られた.ArcGIS 10.3.1を用いてクリギング法による空間補完を行い,最終氷期の古相模川の開析谷と埋没段丘面の分布形態を推定した.なお,補完の際のグリッドの大きさは約140 mとした.
 河成段丘面を覆うローム層については,地形面の新旧を反映して層厚に差異があることが経験的に指摘されていたが,その定量的な検証は行われていなかった.そこで地表面で確認される各河成段丘面について,段丘面上のボーリング資料に認められるローム層の層厚を読み取り,その頻度分布を調べた.その結果,段丘面間で平均値に有意差があり,相模原面が層厚13~20 m,中津原面が層厚7.5~13 m,田名原面が層厚3.5~7.5 m,陽原面が層厚0~3.5 mに概ねピークを示した.この結果から,上記の数値を各段丘面の代表的なローム層層厚と便宜的に設定し,段丘面対比の際に参照した.
 沖積低地下の平坦面の側方への連続性とローム層の層厚から,古相模川の開析谷と埋没段丘面の対比を行った.古相模川の開析谷は細かく蛇行し,概ね現在の沖積低地の東縁に沿って分布する.平野南部で金目川の開析谷と合流し,南南東に流れて相模湾に注いでいたと推定される.相模原面~陽原面の分布は,概ね久保(1997)の示した埋没段丘面分布図と整合するものであるが,田名原面と中津原面をより広い範囲で識別したこと,陽原面が厚木市から平塚市北部にかけてやや広く分布すること,金目川沿いで波食台が広く分布することが新しく明らかになった.ボーリング資料から推定される陽原面の河床縦断面からは,平野南端部で標高−110 m付近に段丘面が位置していると考えられ,これは当時の海水準を近似的に示すと推定される.20~30ka頃の海水準は標高−110 m付近で比較的安定的に推移した可能性が指摘されており(Yokoyama et al., 2018),陽原面の形成が少なくともATテフラ(29~30ka)よりも新しく,かつ最終氷期最盛期(20ka頃)以前に形成されたこと(久保,1997)と調和的である.

引用文献
久保純子 (1997) 相模川下流平野の埋没段丘からみた酸素同位体ステージ5a以降の海水準変化と地形発達.第四紀研究,36,147–163.
大矢雅彦ほか (1991) 相模湾北部沿岸地形分類図. 建設省京浜工事事務所.
佐藤善輝ほか(2017)足柄平野および相模川下流平野におけるボーリング掘削調査(速報).地質調査総合センター速報, 74, 97–110.
Yokoyama, Y. et al. (2018) Rapid glaciation and a two-step sea level plunge into the Last Glacial Maximum. Nature, 559, 603–607.