[HGM03-P09] 遠州灘沿岸低地に形成された浜堤の内部構造把握に向けたGPR探査
キーワード:浜堤、GPR探査、遠州灘、南海トラフ
1.はじめに
2011年東北地方太平洋沖地震を機に,プレート境界における固有地震説の再検討の必要性が指摘されており,南海トラフにおいても同様の検討が必要と考えられる.そこで,地形形成速度の速い堆積性の海岸地形(浜堤及び海岸平野)の地形発達プロセスの類型化と地震性地殻変動の影響度の抽出を行い,完新世地形の発達史から地震時と地震間の地殻変動を復元することで,南海トラフ地震の多様性を明らかにする研究を遠州灘沿岸低地において実施している(JSPS科研費 JP18H00765).この中で,浜堤の地形発達プロセスを明らかにするためには,その内部構造を把握する必要がある.そこで,浜堤を対象にGPR(地中レーダ)探査を適用し,内部構造が把握できるか検討した.
2.調査概要
調査地域及びGPR探査測線位置を図-1に示す.GPR探査は2019年3月26~27日にかけて実施した.太田川の西側から菊川の西側にかけて示した赤線が探査測線である.測線は基本的に浜堤の伸びの方向に対して直交する方向に設けた.測線は20本設定し,その総延長は約10,160mに及んだ.これらの測線を図-1に示した6つのサイトに分けた.GPR探査にはSensors & Software社製Noggin Plus(スマートカートシステム)を用い,アンテナ中心周波数は250MHzとした.250MHzのアンテナで期待される可探深度は最大でも5m程度である.データ解析には同社製EKKO_Project5を用いた.解析では基本的な処理(移動平均処理,ゲイン回復処理,マイグレーション処理,地形補正等)を行った.電磁波の伝搬速度はhyperbola fitting法により推定し,往復走時を絶対深度に変換した.
浜堤のような海浜地形を対象としたGPR探査事例として,Bristow et al. (2006)や高川ほか(2008)などがあり,海浜地形の内部構造推定にGPR探査が有効であることが示されている.これらの事例の多くは地表が人工的に被覆されていない自然地であり,探査条件が比較的良好な場所であったことが好事例の要因のひとつと考えられるが,本研究の対象地域の浜堤で探査可能な場所は基本的に市街地または水田地帯のアスファルト道路であり,探査条件は良好とは言えなかった.
3.結果と考察
代表的な結果として,太郎助サイト(Tarosuke site)と横砂サイト(Yokosuna site)の結果を報告する.
太郎助サイトでは,海浜から複数列の人工砂丘(松多ほか,2016)及び砂丘上凹地・堤間低地を横断する長い測線において,海岸に近い砂丘の海側斜面とその背後の砂丘上凹地(または堤間低地)及びその内陸側の比高の低い砂丘(砂州)の海側縁辺部の地下2~5m付近に,海側へ傾き下がる明瞭な反射構造が確認できた.これは,高川ほか(2008)などで示されている砂丘で見られた構造と類似しており,過去の汀線の前進時の堆積構造を示していると考えられる.松多ほか(2016)ではこれらの砂丘は人工砂丘とされているが,その土台には自然の砂丘や砂州,浜堤が形成されていた可能性がある.
横砂サイトの1測線では,浜堤頂部に近い海側斜面の地下1~3m付近に,連続性は悪いものの,海側へ傾き下がる反射構造が確認できた.また,別の測線では浜堤頂部に近い陸側斜面の地下1~3m付近に,陸側へ傾き下がる反射構造が折り重なるように見られた.これらは浜堤形成時の堆積構造の可能性があるが,このサイトの浜堤上には住宅が建ち並んでおり,反射構造の深度も浅いことから,人工改変による構造を捉えている可能性もある.仮に堆積構造を示している場合,陸側斜面の陸側へ傾き下がる構造は通常の浜堤や砂丘の堆積過程によるものとは異なっており,別のプロセスで形成された可能性がある.
4.今後の課題
今回GPR探査を実施した箇所は,ボーリングデータ等の直接的な地下構造のデータに乏しいため,今後はボーリングデータ等が存在する地点においてもGPR探査を実施し,より正確な探査結果の解釈を試みたい.
謝辞:本研究はJSPS科研費 JP18H00765の助成を受けたものです.調査に使用したGPR探査装置は名古屋大学の鈴木康弘教授よりお借りしました.ここに記して感謝いたします.
引用文献:
Bristow et al. (2006): Sedimentology, 53, 769-788.
松多ほか(2016):国土地理協会第15回学術研究助成報告書
高川ほか(2008):海岸工学論文集,55,681-685.
2011年東北地方太平洋沖地震を機に,プレート境界における固有地震説の再検討の必要性が指摘されており,南海トラフにおいても同様の検討が必要と考えられる.そこで,地形形成速度の速い堆積性の海岸地形(浜堤及び海岸平野)の地形発達プロセスの類型化と地震性地殻変動の影響度の抽出を行い,完新世地形の発達史から地震時と地震間の地殻変動を復元することで,南海トラフ地震の多様性を明らかにする研究を遠州灘沿岸低地において実施している(JSPS科研費 JP18H00765).この中で,浜堤の地形発達プロセスを明らかにするためには,その内部構造を把握する必要がある.そこで,浜堤を対象にGPR(地中レーダ)探査を適用し,内部構造が把握できるか検討した.
2.調査概要
調査地域及びGPR探査測線位置を図-1に示す.GPR探査は2019年3月26~27日にかけて実施した.太田川の西側から菊川の西側にかけて示した赤線が探査測線である.測線は基本的に浜堤の伸びの方向に対して直交する方向に設けた.測線は20本設定し,その総延長は約10,160mに及んだ.これらの測線を図-1に示した6つのサイトに分けた.GPR探査にはSensors & Software社製Noggin Plus(スマートカートシステム)を用い,アンテナ中心周波数は250MHzとした.250MHzのアンテナで期待される可探深度は最大でも5m程度である.データ解析には同社製EKKO_Project5を用いた.解析では基本的な処理(移動平均処理,ゲイン回復処理,マイグレーション処理,地形補正等)を行った.電磁波の伝搬速度はhyperbola fitting法により推定し,往復走時を絶対深度に変換した.
浜堤のような海浜地形を対象としたGPR探査事例として,Bristow et al. (2006)や高川ほか(2008)などがあり,海浜地形の内部構造推定にGPR探査が有効であることが示されている.これらの事例の多くは地表が人工的に被覆されていない自然地であり,探査条件が比較的良好な場所であったことが好事例の要因のひとつと考えられるが,本研究の対象地域の浜堤で探査可能な場所は基本的に市街地または水田地帯のアスファルト道路であり,探査条件は良好とは言えなかった.
3.結果と考察
代表的な結果として,太郎助サイト(Tarosuke site)と横砂サイト(Yokosuna site)の結果を報告する.
太郎助サイトでは,海浜から複数列の人工砂丘(松多ほか,2016)及び砂丘上凹地・堤間低地を横断する長い測線において,海岸に近い砂丘の海側斜面とその背後の砂丘上凹地(または堤間低地)及びその内陸側の比高の低い砂丘(砂州)の海側縁辺部の地下2~5m付近に,海側へ傾き下がる明瞭な反射構造が確認できた.これは,高川ほか(2008)などで示されている砂丘で見られた構造と類似しており,過去の汀線の前進時の堆積構造を示していると考えられる.松多ほか(2016)ではこれらの砂丘は人工砂丘とされているが,その土台には自然の砂丘や砂州,浜堤が形成されていた可能性がある.
横砂サイトの1測線では,浜堤頂部に近い海側斜面の地下1~3m付近に,連続性は悪いものの,海側へ傾き下がる反射構造が確認できた.また,別の測線では浜堤頂部に近い陸側斜面の地下1~3m付近に,陸側へ傾き下がる反射構造が折り重なるように見られた.これらは浜堤形成時の堆積構造の可能性があるが,このサイトの浜堤上には住宅が建ち並んでおり,反射構造の深度も浅いことから,人工改変による構造を捉えている可能性もある.仮に堆積構造を示している場合,陸側斜面の陸側へ傾き下がる構造は通常の浜堤や砂丘の堆積過程によるものとは異なっており,別のプロセスで形成された可能性がある.
4.今後の課題
今回GPR探査を実施した箇所は,ボーリングデータ等の直接的な地下構造のデータに乏しいため,今後はボーリングデータ等が存在する地点においてもGPR探査を実施し,より正確な探査結果の解釈を試みたい.
謝辞:本研究はJSPS科研費 JP18H00765の助成を受けたものです.調査に使用したGPR探査装置は名古屋大学の鈴木康弘教授よりお借りしました.ここに記して感謝いたします.
引用文献:
Bristow et al. (2006): Sedimentology, 53, 769-788.
松多ほか(2016):国土地理協会第15回学術研究助成報告書
高川ほか(2008):海岸工学論文集,55,681-685.