JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT16] 環境トレーサビリティー手法の開発と適用

コンビーナ:陀安 一郎(総合地球環境学研究所)、Ki-Cheol Shin(総合地球環境学研究所)、山下 勝行(岡山大学大学院自然科学研究科)

[HTT16-P04] Sr・Pb同位体比からみた京阪神4地点の大気降下物への自然・人為起源物質の影響

安藤 涼太1、*横尾 頼子1石川 尚人2申 基澈3 (1.同志社大学理工学部、2.富山大学都市デザイン学部、3.総合地球環境学研究所)

キーワード:降水、Sr同位体、Pb同位体

京阪神都市域で採取された降水中に含まれる可溶性成分(降水)と不溶性成分(ダスト)について,Sr同位体比(87Sr/86Sr)とPb同位体比(207Pb/206Pb,208Pb/206Pb)を分析し,地域・季節ごとに現れる変化とその要因を検討した.調査地は,京都府京田辺市,京都市左京区,大阪府寝屋川市,兵庫県西宮市の4地点である.2010年1月から2011年12月にかけて1ヵ月ごとに降水を採取し, 採取した降水を孔径0.2 μmメンブレンフィルターを用いて吸引ろ過し,可溶性成分であるろ液(降水)とフィルター上に回収した不溶性成分(ダスト)を分取した.カラムクロマトグラフィーを用いて降水とダストそれぞれからSrとPbを分離し,二重収束型マルチコレクタICP質量分析装置を用いてSr同位体比(87Sr/86Sr)およびPb同位体比(207Pb/206Pb,208Pb/206Pb)を測定した.

降水の月別の87Sr/86Srは0.7087~0.7107,ダストの月別の87Sr/86Srは0.7081~0.7171であり,春に高く,夏から秋に低い傾向を示した.春季の降水の87Sr/86Srは日本に飛来する黄砂の起源物質である中国黄土の可溶性成分の87Sr/86Sr(> 0.7110)に近い値を示し,同様に春季のダストの87Sr/86Srは中国黄土の不溶性成分の87Sr/86Sr(> 0.7188)に近い値を示した.また,京田辺市において各年の最も高い87Sr/86Sr は,2010年4月に0.7167であり,2011年4月の0.7141より高かった.日本国内での黄砂観測日数は春に多く,また2010年が2011年より多かった.これらのことから,春季に黄砂がダストに含まれ,年によってダストへの黄砂の影響が異なることがわかった.
降水の月別の207Pb/206Pbは0.860~0.889,208Pb/206Pbは2.093~2.137を示し,ダストの月別の207Pb/206Pbは0.851~0.891,208Pb/206Pbは2.084~2.140を示した.降水とダストのPb同位体比はほとんど同じ値を示した.京都市,京田辺市,寝屋川市,西宮市の順に大きく,採取時期によって値が異なった.京都市は207Pb/206Pbが0.859~0.866,208Pb/206Pbが2.097~2.109の狭い範囲を示し,降水・ダストに含まれるPbにはある一定のPb同位体比を示す物質が1つ存在する,または複数のPb発生源の影響が1年を通して同じ割合で混合されていると考えられた.京都市は山間盆地に位置し,大気の流入・流出がほかの3地点に比べて少ないことが考えられる.そのため,京都市で採取された降水とダストの月別のPb同位体比は1年を通して変化が小さかったと考えられる.一方で,採取時期によってPb同位体比が大きく異なる京田辺市,寝屋川市,西宮市では,降水・ダストに含まれるPbの起源物質が複数存在し,時期によってその割合が変化すると考えられる.特に京田辺市,西宮市では冬季に高いPb同位体比を示し,大陸由来の高いPbの輸送の影響を受けている.