[HTT19-P04] 緑視率と緑被率を用いた連続する都市景観に関する階層型クラスター分析・線形モデル回帰分析による構造分析と緑環境評価 -Google Street View Image API及びLandsat衛星画像によるNDVIを用いて
キーワード:ビックデータアーカイブ、リモートセンシング、クラスター分析、都市景観、都市緑環境
はじめに
本研究は,持続可能なまちづくりに不可欠な有限資源である緑環境を,景観の観点から分析考察することを目的としている.緑環境の平面的な広がりを示す緑被率と,視覚的な状況を示す緑視率を組み合わせることにより,緑環境を立体的に理解することが可能になるとともに,分析に必要な画像データをリモートセンシングおよびビッグデータのアーカイブから取得することで,データ取得と解析の効率化と試みている.
都市における緑環境の空間的構造を把握するため,分析対象として都心域から郊外への調査ラインを設定した.具体的には,東京都都心部から多摩地域におけるベットタウンにかけての道路ネットワークに沿った景観分析を実施した.中心業務地区である都心部からベッドタウンである多摩方面へとつなぐ【渋谷-町田】間の道路(東京街道・神奈川県道3号)と【新宿-八王子】間の道路(青梅街道・五日市街道・東八道路・甲州街道)の2ルートについて,GISを用いて等間隔でポイントを発生させ,それぞれの地点における緑環境の分析を行っている(図1).分析対象データとしてLandsat8から得た緑被率とNDVI値,およびGoogle Street View Image APIから取得した画像を用いて算出した緑視率,空の占有率を採用した.なお,NDVIについては,1.0と2.0の閾値を設け,それぞれ,緑地の分布と,質の高い緑地の分布の指標として用いている.なお,緑視率の算出には,教師付分類の画像解析を使用している.
分析と結果
1)クラスタ分析
各調査対象地点から取得した「緑被率(NDVI>1.0)」「緑被率(NDVI>2.0)」「緑視率」「空の占有率」を変数として,オープンソースプログラミング言語であるRを用いたウォード法によるクラスタ分析を行った. クラスタリング結果から分析対象とした全42地点はheight=4において4つのクラスタに分類できた(図2). まず,景観に占める緑の比率が低いクラスタが区分され「都市」と位置付けた.次に緑の比率が最も高いクラスタを「郊外」と位置づけ,その間の値を持つ2つのクラスタを「中間地域A」「中間地域B」と名付けた.
「中間地域A」は緑視率に比べ緑被率優位(平均緑視率13.20%,平均緑被率37.94%)かつ空の占有率(平均41.72%)が高く見晴らしの良い「水平方向の緑環境」が展開されており,「中間地域B」は,緑被率に比べ緑視率優位(平均緑視率20.79%,平均緑被率19.75%)の「垂直方向の緑環境」が展開されていることが特徴である.
以上,4つのクラスタに該当する地点の空間的配列から,都心部から郊外に向かう都市景観の大まかな変化傾向として【「都市」⇄「中間地域B」⇄「中間地域A」⇄「郊外」】であることが示された.すなわち,「垂直方向の緑環境」である「中間地域B」がより都市的な中間地域であり,「水平方向の緑環境」である「中間地域A」がより郊外的な中間地域であると言える.
緑環境の視覚的特性を示す緑視率だけでは「中間地域B」が「中間地域A」より緑豊かに見えるが,量的側面が重視される緑被率では「中間地域A」の方が緑豊かな地域と言え,防災面なども含めて考えれば,空の占有率も高い(中間地域A平均:41.72%・中間地点B平均:30.11%)「中間地域A」の方が住居に向く可能性がある.このことから,連続性における緑環境の変化を議論する際,見かけだけの環境だけではなく「空間的な環境」を考慮することが重要だと言える.
2)変数間の回帰分析
各変数の間には3件の有意性を持つ相関関係が存在した.
ⅰ「街区前面緑視率」に関して「NDVI≧0.1における緑視率」と一定の正の相関関係が認められた.これは郊外地域の緑に関して,遠方の緑地,畑,雑木林の緑が緑視率に算出される為だと推測できる.
ⅱ 「経路緑視率」に関してはP値=0.1〜0.2ほどの荒さがあるものの「NDVI≧0.1における緑視率」との負の相関関係が存在する.これは経路に関する緑の多くが,水平方向への広がりのない細長の街路樹から算出される為だと推測できる.
ⅲ 緑視率は経路と街区前面において高い有意性があり正の相関関係がある.これは都市部の景観が360°通して同質なパノラマが展開されているという事が考えられ,東京には他都市部で見られる「借景」という概念が存在し得ないほど,建造物が超高密度で入り組んでいることを表している.このⅲの相関関係は他のⅰⅱに比べて特に相関関係が強く,「東京」という大規模な平野部に位置する大都市という地域性を顕著に表していると考えられる.
まとめ
東京の緑環境における景観は中心業務地区ターミナルと大規模郊外ターミナルを繋ぐ道路の過程で波状にグラデーションを描きながら変化する単構造が複数に入り組み階層の入れ子状態になっている事が分かった(図3).今後の都市計画においては「見掛けの緑環境」だけを重視するのではなく,空間的な視点を持ち,その場所や施設が担う役割や性質を正しく把握し十分に咀嚼し解釈した上で「まちづくり」することが求められよう.(1985字)
本研究は,持続可能なまちづくりに不可欠な有限資源である緑環境を,景観の観点から分析考察することを目的としている.緑環境の平面的な広がりを示す緑被率と,視覚的な状況を示す緑視率を組み合わせることにより,緑環境を立体的に理解することが可能になるとともに,分析に必要な画像データをリモートセンシングおよびビッグデータのアーカイブから取得することで,データ取得と解析の効率化と試みている.
都市における緑環境の空間的構造を把握するため,分析対象として都心域から郊外への調査ラインを設定した.具体的には,東京都都心部から多摩地域におけるベットタウンにかけての道路ネットワークに沿った景観分析を実施した.中心業務地区である都心部からベッドタウンである多摩方面へとつなぐ【渋谷-町田】間の道路(東京街道・神奈川県道3号)と【新宿-八王子】間の道路(青梅街道・五日市街道・東八道路・甲州街道)の2ルートについて,GISを用いて等間隔でポイントを発生させ,それぞれの地点における緑環境の分析を行っている(図1).分析対象データとしてLandsat8から得た緑被率とNDVI値,およびGoogle Street View Image APIから取得した画像を用いて算出した緑視率,空の占有率を採用した.なお,NDVIについては,1.0と2.0の閾値を設け,それぞれ,緑地の分布と,質の高い緑地の分布の指標として用いている.なお,緑視率の算出には,教師付分類の画像解析を使用している.
分析と結果
1)クラスタ分析
各調査対象地点から取得した「緑被率(NDVI>1.0)」「緑被率(NDVI>2.0)」「緑視率」「空の占有率」を変数として,オープンソースプログラミング言語であるRを用いたウォード法によるクラスタ分析を行った. クラスタリング結果から分析対象とした全42地点はheight=4において4つのクラスタに分類できた(図2). まず,景観に占める緑の比率が低いクラスタが区分され「都市」と位置付けた.次に緑の比率が最も高いクラスタを「郊外」と位置づけ,その間の値を持つ2つのクラスタを「中間地域A」「中間地域B」と名付けた.
「中間地域A」は緑視率に比べ緑被率優位(平均緑視率13.20%,平均緑被率37.94%)かつ空の占有率(平均41.72%)が高く見晴らしの良い「水平方向の緑環境」が展開されており,「中間地域B」は,緑被率に比べ緑視率優位(平均緑視率20.79%,平均緑被率19.75%)の「垂直方向の緑環境」が展開されていることが特徴である.
以上,4つのクラスタに該当する地点の空間的配列から,都心部から郊外に向かう都市景観の大まかな変化傾向として【「都市」⇄「中間地域B」⇄「中間地域A」⇄「郊外」】であることが示された.すなわち,「垂直方向の緑環境」である「中間地域B」がより都市的な中間地域であり,「水平方向の緑環境」である「中間地域A」がより郊外的な中間地域であると言える.
緑環境の視覚的特性を示す緑視率だけでは「中間地域B」が「中間地域A」より緑豊かに見えるが,量的側面が重視される緑被率では「中間地域A」の方が緑豊かな地域と言え,防災面なども含めて考えれば,空の占有率も高い(中間地域A平均:41.72%・中間地点B平均:30.11%)「中間地域A」の方が住居に向く可能性がある.このことから,連続性における緑環境の変化を議論する際,見かけだけの環境だけではなく「空間的な環境」を考慮することが重要だと言える.
2)変数間の回帰分析
各変数の間には3件の有意性を持つ相関関係が存在した.
ⅰ「街区前面緑視率」に関して「NDVI≧0.1における緑視率」と一定の正の相関関係が認められた.これは郊外地域の緑に関して,遠方の緑地,畑,雑木林の緑が緑視率に算出される為だと推測できる.
ⅱ 「経路緑視率」に関してはP値=0.1〜0.2ほどの荒さがあるものの「NDVI≧0.1における緑視率」との負の相関関係が存在する.これは経路に関する緑の多くが,水平方向への広がりのない細長の街路樹から算出される為だと推測できる.
ⅲ 緑視率は経路と街区前面において高い有意性があり正の相関関係がある.これは都市部の景観が360°通して同質なパノラマが展開されているという事が考えられ,東京には他都市部で見られる「借景」という概念が存在し得ないほど,建造物が超高密度で入り組んでいることを表している.このⅲの相関関係は他のⅰⅱに比べて特に相関関係が強く,「東京」という大規模な平野部に位置する大都市という地域性を顕著に表していると考えられる.
まとめ
東京の緑環境における景観は中心業務地区ターミナルと大規模郊外ターミナルを繋ぐ道路の過程で波状にグラデーションを描きながら変化する単構造が複数に入り組み階層の入れ子状態になっている事が分かった(図3).今後の都市計画においては「見掛けの緑環境」だけを重視するのではなく,空間的な視点を持ち,その場所や施設が担う役割や性質を正しく把握し十分に咀嚼し解釈した上で「まちづくり」することが求められよう.(1985字)