[MAG44-12] 北太平洋西部亜寒帯域における福島第一原子力発電所事故由来放射性セシウムの経年変化
キーワード:福島第一原子力発電所事故、放射性セシウム、北太平洋西部亜寒帯域
2011年3月に発生した福島第一原子力発電所事故によって、2040 PBqの放射性セシウムが環境中に放出されたと推定されている。そのうちの78割は北太平洋に沈着・流出したと見積もられているが、それらのほとんどは海水に溶けた状態で存在する。そのため福島事故由来の放射性セシウムは、海水混合によって希釈されながら表層水の流れに沿って北太平洋全域に広がりつつある。これまでの研究によって、日本近海に沈着・流出した放射性セシウムは北太平洋の中緯度を表面海流に乗って東に運ばれ、事故から約4年が経過した2015年には北米大陸の西海岸に到達したことが分かっている。演者らは2017年夏季に北太平洋西部亜寒帯域において実施された海洋研究開発機構「白鳳丸」航海において海水試料を採取し、その中の放射性セシウム濃度の鉛直分布を測定した。福島事故起源134Csの濃度は、希釈と放射壊変(半減期は約2年)によって現在1 Bq m3以下まで低下しているため、濃縮しなければ測定することができない。濃縮には、仏国Triskem社製のCsレジン(potassium nickel ferrocyanate on polyacrylnitrile, KNiFC-PAN)を用いた。海水試料約40 Lを50 ml min1の流速で5 ml(約1 g)のCsレジンに通水することで、レジンに放射性セシウムを濃縮した。海水試料にはキャリアとして塩化セシウム(133Cs)を加え(濃度約100 ppb)、その通水前と通水後の濃度差から放射性セシウムの回収率を約95%と見積もった。陸上実験室に持ち帰ったCsレジンは洗浄後、金沢大学環日本海域環境研究センター低レベル放射能実験施設の低バックグランドGe半導体検出器を用いてγ線分析に供され、134Csの放射能濃度が求められた。2017年6月の北太平洋西部亜寒帯域における表面混合層(200m以浅)の134Cs濃度(事故時に放射壊変補正)は0.43-1.2 Bq m3で、それ以深では検出下限値(約0.4 Bq m3)以下であった。その鉛直積算量(事故時に放射壊変補正)は186±46 Bq m2と見積もられたが、この値は2014年夏季に同海域で観測された積算量(283±45 Bq m2)に比べて、2/3程度小さい値であった。同海域における134Cs鉛直積算量は、福島事故直後の2011年6月から2014年7月まで指数関数的に減少してきたことが明らかになっているが、その減少速度に比べると2014年7月から2017年6月の3年間の減少速度は小さい。このことは、福島事故起源134Csが北太平洋西部亜寒帯の反時計周りの循環流、すなわち西部亜寒帯循環流に沿って日本近海に回帰してきたことを暗示している。